• 2022/02/22 掲載

焦点:超長期金利上昇、静観した日銀 YCCの持続性高める可能性

ロイター

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和田崇彦 伊賀大記

[東京 22日 ロイター] - 日銀は、異例の「指し値オペ」の後、しばらく続いた超長期金利上昇を静観した。金融機関収益の点などでメリットが大きいとの判断があるとみられる。ウクライナ情勢緊迫化で金利は足元で低下しているものの、市場では10年債に影響するような急上昇になれば「介入」もありうるとの見方もある。金利上昇で市場機能回復への期待が生じたことで、イールドカーブ・コントロール(YCC)政策の持続性が高まったとの指摘も出ている。

<なぜ止めなかったのか>

日銀はなぜ超長期金利の上昇を止めなかったのか。考えられる理由は3つだ。

まず20年や30年債の金利は政策目標ではない。現在のYCCのターゲットは短期金利と10年債金利の2点。それ以外の金利は自由に動けるようにして市場機能を保つことを狙っている。

超長期金利が上昇したとはいえ、水準は相対的にまだ低い。5年債や10年債の金利は日銀がマイナス金利政策導入を決めた2016年1月29日以前の水準まで上昇しているが、20年債以降はまだ届いていない。海外金利との対比でも低く、市場でも過去と比べてイールドカーブは歪んでいないとの見方が多い。

3つめは日銀が足元の超長期金利上昇は経済に好ましいと受け止めているとみられることだ。10年金利の0.25%を超える上昇は企業の設備投資などに悪影響を与えるものの、超長期金利の上昇は金融機関の運用収益を向上させるプラスの効果が大きいという見方が日銀内からも聞かれる。

黒田東彦日銀総裁は16日の衆院予算委員会第一分科会で、現在の長短金利操作(YCC)付き金融緩和政策は、適切なイールドカーブ(利回り曲線)の傾きを実現するのが目的と説明したうえで、20年や30年の金利を下げても設備投資の刺激効果は少ない一方で年金収益などは悪化すると指摘している。

<政策修正の思惑も>

超長期金利の上昇は市場機能を回復させ、YCCの持続性を高める可能性もある。

日銀が16年にYCCを導入して以降、日本国債の金利は低位で安定してきた。ダイナミックに動く海外金利に比べ振幅は小さく、市場機能低下の懸念もあった。超長期金利は自由に動けるというのがYCCの仕組みだが、実際上は10年金利が「ピン止め」されていれば、連続線上にある長い金利も動きにくくなる。

日銀は昨年3月に政策点検を実施。YCCの枠組みを維持しつつも、国債買い入れオペを減額するなど市場における日銀の存在感を低下させていくことで、市場機能の回復を狙ってきたが、やはり海外に比べ国債市場の動きは鈍かった。

しかし、ここにきて超長期金利は大きく動くようになってきた。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニア・マーケットエコノミストは「(YCCを)修正しなければいけない必然性は低下している」と指摘する。

超長期金利上昇は、海外金利の上昇が主要因とはいえ、これまでにないほど動きが良くなってきたのは、日銀の金融正常化に対する思惑も加わっているためだ。

黒田総裁をはじめ日銀幹部からは現時点では政策修正の必要はないとの声が相次いでいるが、市場は黒田総裁が任期を迎える23年4月以降をにらんでおり、政策修正の思惑が現行の政策であるYCCの持続性を高めるというやや皮肉な状況にもなっている。

<水準よりスピードを警戒>

日銀内からは「超長期金利の上昇がYCCのターゲットである10年債金利を引き上げてしまう事態にならないか注視していく」との声も聞かれる。

実際、10年債の金利水準はYCC目標にまだ距離がありながら、金利上昇のスピードをみて日銀が「介入」したケースが過去にもあった。2016年11月(トランプ氏が米大統領選に勝利した後に中期金利が急上昇)、18年8月(YCCのレンジ拡大直後)、20年3月(コロナで市場不安定化)などだ。

介入日 手法 対象 10年金利 YCC目標上限

2016年11月17日 指し値 2年債・5年債 -0.005~0.035% 0.10%程度

2018年8月3日 臨時 5─10年 0.105~0.145% 0.20%程度

2020年3月19日 臨時 1─3年・3─5年・5─10年・10─25年 0.010~0.095% 0.20%程度

注:10年金利は前日と当日合わせたレンジ

注:YCC目標は事実上含む

みずほ証券のチーフ債券ストラテジスト、丹治倫敦氏は「日銀が介入するとすれば、急激な金利上昇が市場機能の低下を示すような場合だろう」とみる。その上で「後に尾を引かない臨時オペを選択するのではないか」と予想している。

固定金利で無制限に買い取る「指し値オペ」を打ってしまうと、日銀がその超長期金利の水準を上限とみているとの受け止めにつながるおそれがある。日銀が毎月末に公表している国債買い入れ予定(通称オペ紙)で示しているオペの増額も選択肢だが、オペ額を3カ月間固定することで金利が動きやすい環境を作るという現在のオペの趣旨にそぐわない。将来いつ減額するのかという思惑も生んでしまう。

臨時オペは、オペ紙で示している日程以外の日にオペを通告することだ。オペ紙には「市場の動向等を踏まえて、必要に応じて回数を変更することがある」と注記に書かれており、何らかの変更をせずとも対応が可能な手段の1つとなっている。

(和田崇彦、伊賀大記 取材協力:木原麗花 編集:石田仁志)

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