- 2022/03/29 掲載
焦点:政府経済対策は二段構え、従来型の大型補正に円安のハードルも
[東京 29日 ロイター] - 政府が物価高の影響を緩和するため、生活支援を柱とする緊急対策の取りまとめに着手した。まずは2022年度予算の予備費を活用し、その後、補正予算編成を伴う経済対策を見据えた「二段構え」の財政運営とするスタンスだ。追加策は今夏の参院選をにらみ大型化することも予想されるが、青天井に膨めば「悪い円安」を誘発しかねず、アベノミクスの下で繰り返された従来型の大規模補正は難しい、との見方がある。
岸田文雄首相は29日、ロシアによるウクライナ侵攻で拍車がかかる原油価格・物価高騰への総合緊急対策を4月末までに取りまとめるよう関係閣僚に指示した。
緊急対策は、新年度予算の一般予備費5000億円とコロナ予備費5兆円を活用して迅速に取り組むとしている。一方、自民党と連立を組む公明党は、ウクライナ情勢の先行き不透明感や新型コロナウイルスの感染再拡大の可能性などを踏まえ、十分な財源を確保するために今国会での補正予算の議論が必要との姿勢を示している。
公明党の山口那津男代表は25日、ロイターとのインタビューで、今回の緊急対策でカバーできない事態が連休明け後の5、6月に出てきた場合は「次の手を用意しないといけない」と述べていた。
ガソリン税を一時的に下げるトリガー条項発動をめぐり、自民・公明と協議している国民民主党の玉木雄一郎代表も18日のインタビューで「新型コロナからの回復の遅れやウクライナ情勢の長期化も予想される」とし、20兆円規模の経済対策が必要との考えを示している。
ただ、この先の政治日程はタイトとなっている。1月17日に召集された通常国会は6月15日に閉会。7月10日には参院選の投開票が行われる見通しで、会期延長は難しい情勢だ。
ある政府関係者は、大型の経済対策をまとめ、補正予算を国会で通すには早くても2カ月程度は必要になるとし、スケジュール的に難しいとの見方を示す。自民党議員の一部からも「今国会での補正予算編成はないのではないか」との声がある。
<GDPとCPI>
もっとも、5月中旬から下旬にかけて、国民のマインドを悪化させる可能性がある経済指標が控える。18日の22年1─3月期国内総生産(GDP)と、20日の4月全国消費者物価指数(CPI)だ。
日本経済研究センターが今月発表したESPフォーキャスト(民間エコノミストによる日本経済予測の集計調査)では、1─3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前期比年率でマイナス0.24%と、前回調査から1.94%ポイント下方修正された。「オミクロン株」の感染拡大により、個人消費が抑制されたかたちだ。
通常GDPは過去のデータとして扱われることが多いが、マイナス成長の見出しが踊れば国民の景況観に悪影響を与えかねない。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は「4─6月期の経済はプラスを見込んでいるものの、ウクライナ情勢の影響を受け、欧州をはじめとする海外経済がどの程度減速するかによって下方修正もあり得る」と話す。
一方、CPIは、携帯電話通信料引き下げによる押し下げ効果のはく落やエネルギー価格の上昇、様々な財・サービスへの価格転嫁などを通じて「生鮮食品を除くコアCPIは、今年半ばにかけて2%前半まで上昇する可能性がある」(農林中金総合研究所の南武志・主席研究員)という。
企業の賃上げが十分に進まない中での物価上昇は家計を圧迫する。全国の平均賃上げ幅は1%に満たない可能性があり、その場合実質賃金のマイナス基調が消費を下押しする公算が大きい。
<円安が進行>
外為市場ではドル高/円安基調が強まっている。米国が利上げ局面に入った一方、日銀は金利抑制策を続ける姿勢を示し、金融政策の方向性の違いが意識されている。28日にドル/円は一時125円前半まで上昇、2015年8月以来、6年7カ月ぶりの円安水準となった。
日銀の黒田東彦総裁は18日、金融政策決定会合後の会見で、円安が全体として「日本経済にプラスという基本的構図に変わりはない」との見方を示したが、ある政府関係者は、円安が輸入物価の上昇を通じて物価高に拍車をかけることになるため、「物価高対策の必要性は増す」とみている。
岸田首相は29日、「成長と分配の好循環」を実現する「新しい資本主義」のビジョンと実行計画を6月までに取りまとめる方針を示した。新しい資本主義の内容を盛り込んだ中期的な経済政策が提示され、参院選後の臨時国会で補正予算が議論される可能性がある。
ただ、新規国債の発行を伴う財源確保は、金利上昇・円安加速要因となる。ある与党関係者は「大規模な財政出動は難しい」と指摘し、アベノミクスの特徴だった財政出動を日銀の国債買い入れで支援する政策運営は「難しくなった」と述べている。
(杉山健太郎、取材協力:金子かおり、竹本能文 `編集:石田仁志)
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