- 2022/06/15 掲載
焦点:自動車各社、部品メーカーのコスト増負担 供給網を防衛
シフトレバーやシートベルトなどを手掛けるトヨタ系部品メーカー、東海理化の2022年3月期の営業利益は、資材高が78億円の下押し要因となり、前年比34%減の92億円だった。本来は資材高騰の影響がさらに13億円あったが、トヨタを中心に納入先の自動車メーカーが負担した。23年3月期も資材高が営業利益を79億円圧迫するが、トヨタなどが一部を負担、50億円は回収できる見込みという。
東海理化は「今回は半導体や物流費の高騰部分についても話し合いを続けている」(広報)としている。
トヨタが直接取引する一次仕入先は約400社。二次、三次など間接的に取引している仕入先も含めると、のべ約6万社になる。材料の市況が変動した場合は事前に合意した一定のルールに基づき従来からトヨタが負担しているが、ルールで解決しないケースは「個別の事情を仕入先から聞き、トヨタが負担すべきものは支払っている」と、同社の熊倉和生・調達本部長は説明する。「トヨタの対応がサプライチェーン全体に浸透するように、一次仕入先と連携して、二次、三次とより広く声を伺っていきたい」と話す。
<不安定化するサプライチェーン>
昨年から今年にかけ、半導体不足で完成車メーカーが生産計画をたびたび下方修正し、自動車の供給網(サプライチェーン)も不安定化した。そこへロシアによるウクライナ侵攻が起きて原材料価格を押し上げ、さらに中国・上海の都市封鎖(ロックダウン)と円安がコスト上昇に追い打ちをかけている。電動化を進める上で部品メーカーとのすり合わせも不可欠で、自動車各社はサプライチェーンの防衛に迫られている。
日銀が10日に発表した5月の企業物価指数は、前年同月比プラス9.1%。国際商品市況の上昇や為替の円安進行などが影響して歴史的な伸びが続いている。「インフレが起きており、われわれはそうした状況に確実に対処しなければならない」。日産のアシュワニ・グプタ最高執行責任者は5月半ばの決算発表後の取材会でこう述べ、「仕入先と話し合っている。彼らの事業の継続性が、われわれの事業の継続性につながるからだ」と語った。
日産は「コストカッター」と呼ばれたカルロス・ゴーン元会長がトップに君臨した時代、大量に発注する見返りとしてより安価に部品を調達することで知られていた。非効率な経営の元凶とみなした「系列」取引の解消も進めた。しかし、今は打って変わって仕入先と緊密に協力し合っている。今後も事業を安定して続けるためには仕入先の協力が必要なためだ。
車体の骨格部品などを手掛ける日産系のユニプレスは今年度、通常あるはずの部品単価の引き下げがなかった。浦西信哉社長は5月下旬の決算発表後に開いた投資家向け説明会で、新しい技術に投資しながらコスト上昇にも対応しなければならない部品メーカーの厳しい状況について、日産の理解が得られたと語った。
説明会に出席した市場関係者によると、浦西社長は部品の受注が確約されるものではないとしながらも、新しい技術の開発に初期段階から参加が許され、日産から早期にフィードバックを受けられるようになったとも話した。ロイターは社長の発言についてユニプレスに確認を求めたが、広報はコメントを控えた。
<円安はプラスか>
自動車メーカーにとってサプライチェーンのコスト増を吸収することは、利益の圧迫につながる。急速に進む円安は完成車を輸出する自動車メーカーには緩衝材となる一方、原材料を輸入する部品メーカー、さらに供給網全体には一段のコスト上昇要因として働く。
三菱自動車工業は値上げの要望がないか、3月から部品メーカーに細かく聞き取り調査をしている。「仕入先とこれまで以上に密にコミュニケーションを取り、困りごとがないか状況把握に努めている」(広報)という。同社幹部は「中小のサプライヤーは大手に比べて経営が安定していないので、より配慮してヒヤリングし、資材費や電力費などが上がっているなら、価格面で機動的に対応しようと考えている」と話す一方で、「今年度は完成車メーカーにとっても円安が進んで良かったね、という話にはならない」と語る。
ホンダが出資する武蔵精密工業は、資材高騰や輸送費の増加分を部品価格に転嫁できるようホンダと交渉している。同社の広報は「適宜、いろいろな話題をテーブルに乗せながら話し合いをしている」と話す。ホンダはロイターの問い合わせにコメントを控えた。
トヨタは23年3月期、前期の過去最高益から一転して約2割の営業減益を見込む。ホンダも7%の減益、日産と三菱自はほぼ横ばいで計画している。
「今年度は円安効果によるプラスと、資材費高騰と船賃高騰のマイナスがあり、そのプラスとマイナスがぶつかり合う」と、三菱自幹部は言う。
PR
PR
PR