- 2022/06/24 掲載
焦点:中国アリババとアント、独自路線を模索 規制強化乗り切れるか
アントは2011年にアリババからスピンオフ(分離・独立)したが、アリババは依然としてアントの33%株式を保有し、両社の経営幹部は一部で重複している。
しかし中国政府によるハイテク産業への広範な締め付けから立ち直ろうと、両社は協力関係を部分的に解消し始めている。政府の規制強化で両社は企業価値が数千億ドル規模で吹き飛び、売上高が大幅に落ち込んだ上、アリババは非競争的行為を行ったとして28億ドルの罰金も科された。
4人の消息筋によると、両社は互いのサービスへのアクセスを制限し、顧客を奪い合い、場合によってはライバル企業との提携にまで踏み込んでいる。
アントは370億ドル規模の記録的な新規株式公開(IPO)の準備を進めていた際に、アリババとの密接な関係を主要なセールスポイントに挙げていた。IPOの計画は2020年11月に政府によって中止に追い込まれた。
2人の消息筋によると、アントは最近、アリババから独立している点を強調しており、特に海外展開の面でそうした傾向が鮮明だ。一方のアリババは、アントと競合し得る、国境をまたぐ取引ツールを構築中だという。
アントはコメントを避けた。アリババはコメントの要請に応じなかった。
アリババは今年3月までの1年間の流通総額(GMV)が1兆3000億ドルを超え、マーケットプレイス全体の年間ユーザー数は約13億人。アントが運営するモバイル決済アプリ「アリペイ」はユーザー数が10億人を超えている。
アントとアリババの事業分離に向けた動きは、習近平国家主席が民間巨大企業への権力集中に眉をひそめる中、中国のビジネス環境における新たな現実を浮き彫りにしている。
北京に拠点を置くフィンテック企業の幹部は「金融とハイテクの両方の分野で事業を展開することは、中国では強力過ぎる、つまり『政治的に正しくない』と見なされる可能性がある」と明かした。
<業務分離の実態>
2人の消息筋によると、アリババとアントの業務分離は昨年末に組織レベルで始まり、すぐに重要な戦略的動きにまで広がったという。
両社は長年にわたり、社内のオンラインフォーラムを共有しており、社員が経営問題について活発に議論し、トップとも交流。そうした場でトップが社内向けの発表を行うこともあった。
2人の消息筋によると、アントの社員は昨年11月に、アリババの社員がアクセスできない独自のフォーラムを立ち上げると通告され、その際に具体的な理由の説明はなかった。アリババのフォーラムは今後数カ月でアントの社員の参加を禁止する予定だという。
またアントの社員は、以前は社内候補としてアリババの求人に応募することができたが、今年初めにそれが不可能になり、外部からの採用として扱われることになったという。
両社の技術的なインフラの取り決めについて直接、事情を知る3人目の消息筋によると、アントは昨年、アリペイの多くのサービスでアリババのサーバーの利用を中止した。
アントのグローバルなクロスボーダー決済サービス「アリペイ+」は今年初め、アリババの海外部門の一部にとって大きなライバルであるファストファッションのEコマース企業シェインとの提携を発表した。
この消息筋によると「アントは既存の提携先や潜在的な提携先から、アリババの単なる関連会社と見られることを望んでいない」という。
アリババは海外で決済サービスを展開する機会を狙っており、4月には中小企業向けのクロスボーダー取引サービス「アリババ・ドットコム・ペイ」を立ち上げた。
上海のコンサルタント会社アクアリウスクスのマネジングパートナー、アレクサンダー・シラコフ氏は、アントにとってアリババとの関係を断つことは致命的な打撃ではないが、独自色がいくらか失われると指摘した。
<もはや巨木にあらず>
確かにアントとアリババは意思決定を担う経営のトップレベルでは依然として密接な関係を持っている。
アリババの経営戦略を策定する、創業者や上級幹部で構成される「パートナー」の38人のうち9人を、井賢棟(エリック・ジン)CEOなどアントの幹部が占めている。
一方、アリババの幹部では、共同創業者の蔡崇信(ジョー・ツァイ)氏と最高技術責任者の程立(チェン・リー)氏の2人がアントの取締役に就いている。
ただ、アントは海外に進出し、アリババなしでも問題ないことを示している。
アントの内部関係者はロイターの取材に「アリババはもはやアントにとって、手を放してはならない巨木というわけではない」と話した。
(Yingzhi Yang記者、Fanny Potkin記者)
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