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  • 2023/02/08 掲載

欧州域内排出量取引制度(EU-ETS)とは? 「排出量取引」の仕組みをわかりやすく解説

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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現在、「カーボンプライシング(炭素排出量に価格を付け排出量に見合った金銭的負担を企業などに求める仕組み)」における制度設計ではEUが先行しています。そんなEUにおけるカーボンプライシングを語る上で欠かせないのが、「EU域内排出量取引制度(EU-ETS)」と「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」です。今回は、EU-ETS、CBAMとは何かを解説しつつ、欧州で進むカーボンプライシングに関する最新情報を紹介します。

執筆:東芝 福本 勲

執筆:東芝 福本 勲

東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)、『製造業DX - EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(近代科学社Digital)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行うコアコンセプト・テクノロジーなどのアドバイザーをつとめている。

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カーボンニュートラルで先行する欧州では今、何が議論されているのか? 最新動向を紹介する
(Photo/Getty Images)

EU域内排出量取引制度(EU-ETS)とは

 EU域内排出量取引制度(EU-ETS:European Union Emissions Trading System)とは、対象となる企業や施設に対し、一定期間中の排出量の上限を課し、その上限を段階的に引き下げることによって排出量削減を目指す制度です。対象施設や企業は毎年その年の終わりに排出実績を政府に提出する必要があります。仮に、与えられた排出枠を排出量が超えてしまっていれば、排出枠を購入するなど排出量を補填するなどの対応が求められます。

 主に発電、鉄鋼、セメント・ガラス製造のような鉱物処理業(窯業)、パルプ・紙製造業といった、エネルギー分野や産業分野における1万2000以上の施設をその対象としており、2021年には海運、道路輸送、建物(化石燃料などの暖房を利用する住宅など)もその対象に加えられました。

 EU-ETSは、2005年に施行されて以来、すべてのEU加盟国および、アイスランドやリヒテンシュタイン、ノルウェーなどの非EU加盟国でも運用されています。また、1997年に採択した京都議定書で定められた「温室効果ガス削減目標」を達成するためのEUにおける重要な取り組みの1つと定められており、EUのエネルギー気候変動政策の枠組みの中で主要な取り組みと位置付けられています。

・取引の仕組み
 具体的な制度の仕組みとして、EU-ETSは企業に排出枠(限度:キャップ)を設け、その排出枠(余剰排出量や不足排出量)を取引(トレード)するキャップ&トレード制度であり、対象企業は上限の範囲内で排出枠の売買が可能になります。

 この制度においては、単純に排出量を規制するのではなく、排出量を所有する排出枠の範囲内に収めることができた企業は、余剰排出枠を市場で売ることができます。これにより、排出削減に努力している企業ほどメリットがあるシステムが実現されます。

 一方で排出量が所有する排出枠を越えてしまう企業は、より効率のよい技術に投資したり、利用するエネルギー源を炭素集約的でないものに変更したり、市場で排出枠を購入したりする必要があります。企業は、これらの選択肢を組み合わせることなどによりコスト効率の最も良い方法を導き出して対応する必要があるわけです。

 EU-ETSの2021年末の価格は1トンあたり約80ユーロ(約1万1,000円)であり、2022年も80ユーロ前後の価格で推移してきましたが、EU議会の環境委員会からは100ユーロ(約1万4,000円)水準まで引き上げられるだろうとの予想も出ています。

 こうした急激な脱炭素化への動きや排出枠価格の高騰などが、世界的インフレを助長するという課題も指摘されています。多くの企業は排出量の削減が追いつかず、排出枠の購入を余儀なくされるとみられており、そのコストを商品価格に転嫁する動きも出てきています。グリーンインフレと呼ばれる気候変動対策に由来する物価上昇が、消費者の生活にも大きな影響を及ぼす可能性があることが懸念されています。

・制度の適用期間
 制度の適用期間は、第1フェーズ(2005-2007年)、第2フェーズ(2008-2012年)、第3フェーズ(2013-2020年)、第4フェーズ(2021-2030年)の4フェーズに分けられています。第4フェーズに突入している現在、景気の低迷や補助制度の運用などもあり全体的な排出量は当初より減少傾向にあります。

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EU域内排出量取引制度(EU-ETS)とは
(Photo/Getty Images)

炭素国境調整メカニズム(CBAM)とは

 EUは従来から2030年の温室効果ガス削減目標として1990年比で最低55%削減するとしており、欧州委員会は2021年7月に、この実現に向けた政策パッケージ「Fit for 55」を発表しました。

 Fit for 55は、欧州が2050年までに世界初のカーボンニュートラルな大陸となり、欧州グリーンディールを現実のものとするために極めて重要であるとされています。


 さらに、欧州委員会は2021年7月に、Fit for 55の発表と合わせ、その一環である、「炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)」の設置に関する規則案を発表しています。

 CBAMとは、EU域外の国との脱炭素対策の違いによる「炭素リーケージ(温室効果ガス排出規制の緩いEU域外への製造拠点の移転や域外からの輸入増加)」を防ぐため、製品生産過程における排出量に応じて課金される仕組みです。

 CBAMの対象製品を域外から輸入する際の炭素価格の支払いの開始時期など、CBAM設置規則案は一部確定していない部分があるものの、2023年10月から移行期間(暫定導入期間)として対象製品を輸入する事業者に対する報告義務が適用される見込みです。また、2026年から本格適用とする方向で議論が進んでいます。

【次ページ】CBAM導入されると……最も影響を受ける業界とは?

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