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  • 2022/01/14 掲載

温室効果ガス(GHG)プロトコルとは? スコープ1~3をわかりやすく解説

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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昨今、カーボンニュートラルへの取り組みにおいて「スコープ」という言葉がよく用いられます。これは、国際的な温室効果ガス排出量の算定・報告の基準である「温室効果ガス(GHG)プロトコル」の中で設けられている排出量の区分「スコープ3基準」を指した言葉です。今後、企業にはこれらの基準にそって温室効果ガスを削減していくことが求められることになります。今回は、この温室効果ガス排出量の算定・報告の基準として世界的に推奨されている「GHGプロトコル」を解説します。

執筆:東芝 福本 勲

執筆:東芝 福本 勲

東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)、『製造業DX - EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(近代科学社Digital)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行うコアコンセプト・テクノロジーなどのアドバイザーをつとめている。

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温室効果ガス(GHG)プロトコルとは何か?(後ほど詳しく解説します)


温室効果(GHG)プロトコルとは

 GHGプロトコルとは、温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)の排出量を算定・報告する際の国際的な基準です。

 GHGプロトコルは、オープンで包括的なプロセスを通じて、国際的に認められた温室効果ガス排出量の算定と報告の基準として、その利用の促進を図ることを目的に策定されました。2011年10月に公表され、現在、温室効果ガス排出量の算定と報告の世界共通基準となっています。

 GHGプロトコルの特徴は、1つの企業から排出された温室効果ガス排出量(直接排出)だけではなく、サプライチェーン全体における排出量(間接排出)も重視している点です。そのため、上流から下流までバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量を対象とする算定・報告基準が設定されています。

 具体的には、排出される温室効果ガスが、排出のされ方や排出者などによって、「スコープ1(直接排出量)」「スコープ2(間接排出量)」「スコープ3(そのほかの排出量)」の3つの区分に分けられ、これら3つの合計を「サプライチェーン全体の排出量」と考える方法をとります。この算定・報告基準は「スコープ3基準」と呼ばれています。

 日本では、「スコープ3基準」に整合したガイドラインとして、環境省が「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」を作成し、公表しています。

 そんなGHGプロトコルを策定したのは、地球の環境と開発の問題に関する政策研究と技術的支援を行う「GHGプロトコルイニシアチブ」という独立機関です。

 同機関は、米国のシンクタンク「世界資源研究所(World Resources Institute:WRI)」と、持続可能な開発を目指す企業約200社のCEO連合である「持続可能な開発のための世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development:WBCSD) 」が主体となり1998年に発足しました。参加機関には政府機関、企業、NGOなどが含まれます。

 ここからは、どのような温室効果ガスの排出がスコープ1~3に該当するのか、詳しく解説していきます。


スコープ1~3とは

 GHGプロトコルでは、以下の3つのスコープに分類され、スコープ1~3を合計したものがサプライチェーン全体の排出量となります。

  • スコープ1:
    事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)

  • スコープ2:
    他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

  • スコープ3:
    スコープ1、2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

 スコープ1は、自社の所有設備や事業活動で直接的に排出される温室効果ガスを指しており、排出例としては、工業炉、発電機、製造装置や、社内の焼却炉から排出される温室効果ガスが該当します。

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スコープの考え方

 スコープ2は、自社の所有設備や事業活動で使用するエネルギーの供給において間接的に排出される温室効果ガスを指しています。社外から購入するエネルギーなどが該当しますが、当然ながら100%再生可能エネルギー由来で温室効果ガスを排出していないエネルギーは対象外となります。また、自家消費型太陽光発電など自社で発電した再生可能エネルギー由来の電気なども含まれません。

 スコープ3は、自社の事業活動に関連する事業者や、製品の使用者が間接的に排出する温室効果ガスを指しており、該当する活動が15のカテゴリに分類されています。たとえば、原材料の調達、輸送・配送、販売した製品の使用、廃棄などが該当するほか、従業員の出張や通勤、資本財やフランチャイズ、投資といった活動による温室効果ガス排出量も含まれています。

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各カテゴリへのスコープ3の分類結果(例)
(出典:環境省、サプライチェーン排出量算定の考え方、2017年11月)

温室効果ガス排出の世界的な潮流

 近年、カーボンニュートラルに向けた世界的な取り組みが急速に拡がる中で、サプライチェーンで発生する温室効果ガスの排出量管理として、このGHGプロトコルのスコープ3までを把握・管理し、対外的に開示する動きが世界的に強まっています。

 それにより、たとえば、自動車部品メーカーは、自動車会社に納めた部品が納品先でどのように使われるのかについても把握する必要があり、自動車会社は、サプライヤーである自動車部品メーカーから納入した部品の製造過程での温室効果ガスの排出量も把握・管理する必要があります。

 また、製品の輸送、廃棄や、ホワイトカラーの出張に伴う温室効果ガス排出なども把握しなくてはなりません。つまり、サプライチェーンに紐づくすべての関係者は、取引先の排出量を気にしなければならないことになります。

 このようなサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量を把握する手段として、環境省が公開しているサプライチェーンの排出原単位データベースがあります。

 たとえばメーカーは、これを用いることで、仕入れた原材料にもとづき金額当たり換算の温室効果ガス排出量を算出することができます。実際の会計情報仕訳の摘要までが分かればその仕訳とマッピングすることができ、それによって簡易的な温室効果ガスの排出量の算出が可能となります。現在、上場企業の多くは、スコープ3開示のベースとしてこれを使用して排出量を算出していると言われます。

 東京証券取引所は2022年4月、現在の1部、2部、マザーズ、ジャスダックの4つの市場区分を「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編しますが、プライム市場の上場企業には、各国の中央銀行・金融当局や国際機関が参加する金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)の要請により設立されたTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)が推奨するスコープ3の開示が求められており、この流れが加速しています。

【次ページ】サプライチェーン排出量の管理がもたらす3つのメリット

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