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  • 2018/07/30 掲載

CCUSとは何か?カーボンニュートラルに向けて二酸化炭素を「資源」に変える手法の可能性とは

フロスト&サリバン連載

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二酸化炭素の濃度上昇に伴い、各国政府が二酸化炭素の排出を抑制する動きが加速している。こうした動きの中、注目されているのが「二酸化炭素回収・利用・貯蔵(CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」の技術だ。CCUSとは、排出される二酸化炭素を分離・回収して、地中に圧入して固定化・貯留する「二酸化炭素回収(CCS)」と、回収した二酸化炭素を原料に、化成品や燃料製造へ再利用する「二酸化炭素回収・有効利用(CCU)」の総称である。CCUSには二酸化炭素排出を抑制するだけでなく、それを回収し、利用することで、環境問題に取り組むだけでなく、さまざまなステークホルダーを巻き込み、新しいビジネスを創造する可能性を秘めている。

フロスト&サリバン ジャパン 伊藤 祐、福田彩斗(執筆アシスタント)

フロスト&サリバン ジャパン 伊藤 祐、福田彩斗(執筆アシスタント)

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世界的な課題である二酸化炭素。それを再利用する技術を紹介する
(© akiyoko - Fotolia)

CCUSとは

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 近年、急速な経済成長に伴うエネルギー需要の増加で、大量の燃料が使われている。その結果、空気中の二酸化炭素濃度は危機的なレベルにまで引き上がった。

 1960年から2000年の40年間で、二酸化炭素濃度は16%上昇した。さらに、2000年から2015年までの15年間では8%も上昇している。世界気象機関(WMO)は、「急激な濃度上昇は、気候システムに前例のない変化をもたらし、地球環境と経済に甚大な悪影響を与える」と警告している。特に二酸化炭素を大量に排出しているのは、石油・石炭や天然ガスを使用している発電所や工場だ。

 これらの大規模な二酸化炭素発生源からの排出量を改善することができれば、地球温暖化をはじめとする環境問題の解決が大きく前進すると考えられる。

 こうした動きの中注目されているのが、二酸化炭素排出を抑制するだけでなく、それを回収して利用できる技術「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」である。CCUSは環境問題だけでなく、さまざまなステークホルダーを巻き込み、新しいビジネスを創造する可能性を秘めている。

 大量に排出される二酸化炭素を削減する手段としては、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素の回収と貯留)が長年研究されてきた。CCSは工場や発電所などから発生する二酸化炭素を大気放散する前に回収し、地中貯留に適した地層まで運び、長期間にわたり安定的に貯留する技術である。

 また、貯留するだけではなく、回収した二酸化炭素を用いて、新たな商品やエネルギーに変える技術も開発されていた。こういった技術はCCU(Carbon dioxide Capture and Utilize:二酸化炭素の回収と利用)と呼ぶ。これら2つの技術を併用して利用するのが、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)である。

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CCUSの仕組み
(出典:フロスト&サリバン)

 CCUSの仕組みは、以下の4ステップに分けられる。
1. 分離・回収
 発電所や精製所、化学プラントなどで発生する排ガスに含まれる二酸化炭素をアルカリ性溶液を使用し、ほかの成分と分離して回収する「化学吸収法」や、多孔質の物体に吸着させる「物理吸着法」などの技術で、二酸化炭素を分離回収する。

 また、燃焼後の排ガス中の二酸化炭素濃度を高める「酸素燃焼法」といった手法も使われている。通常の空気の大部分は窒素が含まれており、支燃性ガスに空気を用いた方法では排ガスから二酸化炭素を回収するのが困難であり、汚染物質である窒素酸化物(NOx)が生成されてしまう。しかし、空気の代わりに純酸素を使用することで、排ガスの主成分を二酸化炭素として効率的に回収できる。
2. 輸送
 二酸化炭素を輸送するために使われている手段は主に、パイプライン、タンクローリー、船舶、鉄道である。

 パイプラインはほかの手段と比べて輸送量が大きく、すでに米国を中心に活用されている。しかし、一度敷設してしまうとほかの場所への変更がほぼ不可能になるため、柔軟性に欠けるデメリットもある。

 小規模な輸送には、タンクローリーや船舶、鉄道が使用される。特に船舶は国をまたいだ輸送も可能であり、今後さらに広く使われる可能性がある。
3. 貯蔵
 輸送した二酸化炭素を貯留する場所は、「地中」もしくは「海底」だ。

 地中の場合は油田に二酸化炭素を注入し、その圧力で石油の生産量を向上させる「石油増進回収法」という方法が開発されている。

 一方、海洋に関する貯留は、経済産業省が主導して北海道苫小牧市で実証実験を実施している。製油所の排出ガスから二酸化炭素を分離回収し、それを海底に作った井戸に貯留する実験だ。
4. 利用
 回収した二酸化炭素を利用には、さまざまな手法が開発されている。前述した石油増進回収法は、貯留と利用を同時に実施できるものだ。そのほかにも、化学製品や燃料を作るための原料として再利用する動きもある。

 「二酸化炭素が地球環境に悪影響を与える」という事実だけでは、排出源となっている企業を動かすのは難しい。しかし、「二酸化炭素を回収し、利用することで新たなビジネスの種になる」とアピールできれば、この動きは加速していくだろう。そのためにも、「利用」に関してはさらなる技術発展が望まれる。

 現在、CCUS技術は北米を中心に開発・運用が進められており、ヨーロッパや中国などでも運用計画が進められている。米国エネルギー省は、2019年にCCUSプログラムの開始を計画しており、最大4,000万ドルの財源を確保する予定だ。また、カナダ政府は回収した二酸化炭素を建築材料や燃料、消費財などの製品に変換・利用する最先端技術の開発に約95万ドルの投資を行っている。

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CCUS市場規模予測(グローバル)
(出典:フロスト&サリバン)

 今後はAPAC地域を中心とした運用が期待される。2018年には、グローバルでの市場が約53億ドル規模になると予想されている。

【次ページ】CCUSが克服すべき3つの課題

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