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- 2023/07/31 掲載
策定者と読み解く「DX推進スキル標準」、“真剣なDX”で出てくる課題が同じ理由
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経産省が定める「DX推進スキル標準」の中身
経産省が定めるDX推進スキル標準は、DX推進に主に必要な5つの人材類型、各類型間の連携、役割(ロール)、必要なスキルと重要度を定義し、各スキルの学習項目例を提示したものだ。「ビジネスアーキテクト」「デザイナー」「データサイエンティスト」「ソフトウェアエンジニア」「サイバーセキュリティ」の5つの類型について、その役割や必要なスキルと重要度を定義したものになる。日本のITエンジニアは、ITベンダーに7割、事業会社が3割といわれている。しかし、米国ではその比率が逆転している。つまり、内製が多いということだ。経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 デジタル人材政策企画調整官の平山利幸氏は「DX推進スキル標準はDXがテーマであるため、ITベンダーに属している人が主な対象というわけではない」と語る。まさにDXをする事業会社がターゲットとなっているのだ。
「長い目で見ると、ソフトウェアエンジニアも事業部門に身を置いて、ビジネスと一体になって活動していく形が望ましいと思います。それと同じで、DX推進スキル標準で定義した5つの類型の人たち、あるいは他の専門人材も、これまでは専門会社に偏りがちでしたが、その活躍の場を広げたいという思いがあります」(平山氏)
ITの時代には、開発工程の上流・下流という考え方を元に、エンジニアが類型化され、スキル標準が定義されていた。また、仕事の流れも、まさに上流工程から下流工程へ段階的に流れていった。
しかし、DXの進み方はそれとは異なる。それぞれ異なる専門性を備えた5つの類型に即した人材が必要で、課題フェーズにおいて“主役”が変わる。たとえば企画フェーズならビジネスアーキテクトが主役になり、開発フェーズではソフトウェアエンジニアが主役になるといった形だ。
しかし、リレーのバトンのように仕事を次のフェーズに渡したら役目が終わるわけではなく、どのフェーズにおいても常に、主役“以外”の4類型もサポートしながら取り組むのがDXの進め方の特徴だ。この5つの人材類型を線でつなぐと星形になることから、平山氏はこの考え方を「スターコンセプト」と呼んでいるそうだ。
また、5つの人材類型をさらに詳細に区分して、15種類の役割(ロール)を定義している。
「誤解していただきたくないのは、『15のロールがあるから15人揃えなくてはいけない』という意味ではないということです。1人が複数のロールを担ってもいいし、1つのロールをチームで担うこともあります。また、各類型・各ロールのスキル・知識の境界は、明確に分かれているわけではなく互いに溶け込んでいます。たとえばデータサイエンティストであっても、分析基盤を整備するデータエンジニアにはソフトウェアエンジニアのスキルが必要というように、きっぱりと線引きができないことは理解いただきたいと思っています」
その考え方が表れているのが、5つの人材類型すべてに共通する「共通スキルリスト」だ。これは、DXを推進する5つの人材類型すべてに共通して求められるスキルを、5つのカテゴリー・12のサブカテゴリ―で整理したものだ。各カテゴリーは2つ以上のサブカテゴリに分かれ、1つ目では主要な活動を、2つ目以降ではそれを支える要素技術と手法を列挙した。
ここで重要なことは、自分の類型“以外”が何をしているのか、どのようなスキルが求められているのかを理解することだ。たとえばデータサイエンティストがデザイナーと連携するためには、デザイナーのやっていることを知っておく必要がある。ベースを共有することで、常にチームワークを発揮できるようになる。
DX推進スキル標準は「DXのビジョン・戦略を持つこと」が前提
日本では、企業に「DXは進んでいるか」と聞くと、ほとんどの企業は「進んでいない」という回答が返ってくる。そして、その理由をたずねると、「人材がいない」という理由が真っ先に挙がる。実はこれは日本に特徴的な現象で、海外では人材不足が一番の理由にはならない。
「IT投資やセキュリティ対策に関しても昔からそうで、構造もだいたい同じです。足りないのは事実なのでしょう。ただ、DXのビジョンや戦略を押さえて、自社の現状を把握した上で足りないと言っているのか、そういうことを考えられる人がいないからという程度の低い解像度で足りないと言っているのかでいうと、肌感覚としては後者の方が大きいような気がしています」(平山氏)
自社のDX戦略を明確にした上で、では、実際に推進していくためにはどのような専門的な役割やスキルが必要なのか、これを考えて行くためのベースとして策定されたのが、DX推進スキル標準というわけだ。
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