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  • 2024/02/16 掲載

【単独】逆境の出版業界、「それでも未来は明るい」と断言できる理由

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紙の雑誌・書籍の売上げは1996年をピークに減り続け、全国の書店も減少を続けている。さらに今年は物流の2024年問題にも直面する出版業界。ところが、「それでも私は楽観的です」と述べる人物がいる。大手書店の紀伊國屋書店、蔦屋書店運営のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、日本出版販売(日販)が共同出資する異色の企業、ブックセラーズ&カンパニーの代表取締役社長 宮城 剛高 氏だ。書店発の取り組みに挑戦する宮城氏に、出版業界の「明るい未来」への道筋を聞いた。

聞き手:松尾慎司、執筆:井上健語、写真:大参久人

聞き手:松尾慎司、執筆:井上健語、写真:大参久人

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ブックセラーズ&カンパニー
代表取締役社長
宮城 剛高 氏

日本と対照的な世界の出版業界

 日本の紙の雑誌・書籍の売上げは、1996年の2兆6,564億円をピークに、右肩下がりの状態が続いている。それと呼応するように全国の書店も減り続け、2000年の2万1654店舗から2020年には1万1024店舗へと20年で半減した。

 その結果、書店が1つもない「書店ゼロ」の自治体は、2022年9月の時点で26.2%にも上るという(出版文化産業振興財団の調査より)。

 こうした出版業界の苦境の原因については、デジタルメディアの台頭、オンライン書店の登場などはよく言われることだが、実は同じ問題に直面する海外の出版業界は日本ほどの苦境に立たされているわけではない。

 Report Oceanの調査によれば、世界の書籍出版業界市場は、2019年に約859億ドルと評価され、2020-2027年には2%以上の成長率で成長すると予想されているという。

日本の出版業界を蝕む「返本率」という問題

 では日本の何が問題なのか。もちろん急速に進む少子高齢化など、さまざまな理由が考えられるが、ブックセラーズ&カンパニー 宮城氏は「返本率の高さ」を問題視しているという。

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 この返本率を理解するには、出版物に適用されている再販売価格維持制度(以下、再販制度)・委託販売制度(以下、委託制度)を理解する必要がある。再販制度は、端的に言うと、全国どこの書店・販売店でも同じ値段で本・雑誌を購入できるというもの。委託制度は、書店が委託期間内であれば、返本できる制度だ。

 同制度により、出版社にとっては書籍の価格が不当に下げられることなく、小規模出版社やマイナーなジャンルの書籍も市場に流通しやすくなるといったメリットがある。

 書店側は、価格決定権はないものの、それがゆえに価格競争に陥ることがない。売れなかった本を出版社に返本すれば損失を被らなくて済むため、いわゆる一般の小売業・卸売業のような在庫リスクというものもそれほど存在しない。

 読者側にもメリットはある。もともと書籍は教育や文化振興の側面があり、再販制度があるから「販売数が限られる専門性の高い書籍が流通する」「書籍の多様性が担保される」といった側面があった。

 そしてこれを支える、本・雑誌の流通を担うのが、「出版取次」と呼ばれる流通業者であり、その大手2社が日本出版販売(日販)とトーハンである。

 「返本率」は、出版社から出版取次を通じて全国の書店に配送され、売れることなく出版社に返品される本の割合を指す。現在の返本率について、宮城氏は次のように説明する。

「現在の返本率は、書籍と雑誌を合わせて業界平均で約40%です。つまり、出版社から書店に届いた本が100冊あったら、そのうちの40冊は、そのまま出版社に戻っていくのです。売上全体が減っているにもかかわらず、刊行点数はそれほど減らなかったこともあり、返本率が高止まりしているのです」(宮城氏)

 その影響をもろに受けているのが取次だ。売上全体が減っていく中、ガソリン価格高騰など社会的なコスト上昇もあって、配送効率が悪化し、日販とトーハンの2022年度決算は、取次事業で大幅な赤字を計上した。さらに、物流の2024年問題もあり、さらなるコスト増はまぬがれない。

 宮城氏も「再販制度だけが原因ではない」というが、日本ならではの商慣習が返本率の高さを生んだのも間違いないだろう。

 こうした出版業界の課題に立ち向かうのが、大手書店の紀伊國屋書店、TSUTAYAや蔦屋書店などを運営するCCC、グループ会社で書店も運営している取次の日販が共同出資して設立したブックセラーズ&カンパニーというわけだ。

書店主導で出版業界の変革に挑む

 ブックセラーズ&カンパニーが掲げる目標は、本・書籍の売上げを伸ばすために、返本率を下げて、薄利多売になりやすい書店ビジネスの構造的な問題を解決することにある。

 もちろん、これまでも同様の試みはあった。しかし、業界全体でも課題は共有しているものの、プレーヤーが多いために「総論賛成、各論反対」となりがちだったという。その結果、取り組みが個社単位になり、業界全体を変えるには至らなかった。

 しかし今回は、紀伊國屋書店とCCCという大手書店グループが手を組み、書店主導で改革に取り組もうとしている点が新しい。

「我々が参画書店の代表として、出版社との直接取引の交渉、流通の効率化を支援したいと考えています。ただし、流通に関しては、大きな投資をして新しい仕組みを作ることは現実的ではないので、日販さんに協力を仰ぎました」(宮城氏)

 なお、商流と物流の両方を担う出版取次において、流通のみを行う点は、日販としても大きな挑戦と言えるだろう。

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ブックセラーズ&カンパニーのビジネスモデル
(出典:ブックセラーズ&カンパニー提供)

 当初はCCCと紀伊國屋書店、日販グループの書店の約1000店舗が参加するが、今後は賛同する他の書店が合流できるようなオープンな仕組みを目指し、2024年の上期中には他書店への参画を募る説明会も実施予定だという。 【次ページ】売上を伸ばして返本率を下げるための2つの取引モデル

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