• 2024/04/18 掲載

グローバルサウスとは何かをわかりやすく解説、注目集める3つの理由と深刻な社会問題

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アジア・アフリカ・中南米にある、かつて多くが開発途上国と呼ばれていた国々は近年、「グローバルサウス(Global South)」と呼ばれるようになり、国際社会で大きな存在感を持つようになった。グローバルサウスの定義は一義的ではない上、これらの国々は決して画一的な存在ではない。爆発的な経済発展を遂げる国がある一方で、貧困や環境に関する数多くの課題を抱える。それでもなぜ今、グローバルサウスに注目が集まるのか。この記事では、グローバルサウスについて基礎からわかりやすく解説する。

執筆:たなべようこ、ビジネス+IT編集部 監修:EYストラテジー・アンド・コンサルティング小林暢子

執筆:たなべようこ、ビジネス+IT編集部 監修:EYストラテジー・アンド・コンサルティング小林暢子

監修者プロフィール
EYストラテジー・アンド・コンサルティング EYパルテノン パートナー 小林暢子
EYの戦略コンサルティング部門であるEYパルテノンのパートナーとして、国内・海外のEYプロフェッショナルと協力し、外資および日系企業が直面する戦略課題解決の支援に取り組む。EYの地政学戦略グループ (Geostrategic Business Group) のアジアパシフィック・リーダーも務めており、地政学リスクのシナリオ分析などを行っている。また、EYのオピニオンリーダーとして、執筆、メディア出演、外部会議への参加を通じて、EYの見解を広く発信している。東京大学大学院修了、米国ハーバード大学MBA取得。

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国際社会で存在感を増すグローバルサウス

グローバルサウスとは何か?対象の国一覧

 グローバルサウス(Global South)とは、インドやサウジアラビア、インドネシア、イランをはじめとするアジア・アフリカ・中南米などの新興国や発展途上国の総称として用いられる。グローバルサウスの多くが南(south)半球に位置していることが名称の由来である。

 グローバルサウスという言葉に明確な定義はなく「誰が」「どのようなシーンで使用するか」によって、その意味合いや対象国が都度異なっているのが実情だ。

 対象国も諸説あるが、その中でも代表的な考えは次の3つである。

  • 冷戦時代における第三世界(西側諸国にも東側諸国にも属さない国)
  • 1960年代にできた国連内の新興国グループ「G77プラス中国」から中国を除いた77カ国
  • 2023年1月に開催された「グローバルサウスの声サミット」に参加した125カ国

 このように、さまざまな定義でグルーピングがされているものの、一般的にグローバルサウスの主要国と呼ばれている国は以下のとおりである。

地域
アジア インド、インドネシア、北朝鮮、マレーシア、モンゴル、パキスタン、フィリピン、タイ、(中国)
太平洋 フィジー、サモア
中東・アフリカ 南アフリカ、サウジアラビア、エジプト、エチオピア、イラン、イラク、ケニア、リビア、ナイジェリア、アラブ首長国連邦
中・南アメリカ ブラジル、アルゼンチン、チリ、キューバ、ペルー、ウルグアイ
ヨーロッパ ボスニア・ヘルツェゴビナ

 中国をグローバルサウスに含めるかどうかは議論が分かれるところで、外交上はインドとともに「グローバルサウスの代表」としてふるまっている。しかし、日本政府は岸田総理が2023年1月の国会答弁で、中国が経済大国であることを理由に「中国を含めて考えていない」との見解を示している。

 このように近年、グローバルサウスは中国を除いて語られることが多い(したがって、この記事でもグローバルサウスに中国は含まれないことを前提にする)。

国ごとに大きく状況が異なる

 グローバルサウスは多種多様な国家の集まりのため、ひとくくりにして考えることは難しい。たとえば、以下のような点では国ごとに大きく状況が異なる。

  • 宗教
  • 政治体制
  • 所得水準
  • 資源の有無
  • 他国との関係性

 経済的な側面からみると、たとえばブラジルやインドは世界経済をけん引する「BRICs」の構成国であり、2000年代以降は著しい発展を遂げている。一方で、開発が遅れている「後発開発途上国」と呼ばれる国々も、グローバルサウスの一端を担っている。

 このように多種多様な国が含まれているため、グローバルサウスという言葉が無意味だという意見もある。発展途上国と何が違うのか、新興市場とはどう異なるのか、といった点でも明確な答えはない。

 それでもこのグローバルサウスは、時代とともに存在意義が増している。

 冷戦後の1990年代以降を振り返ると、世界が一気にグローバル化へと舵を切る中で、多くのグローバルサウスは恩恵を受けられずに取り残されていた。中には一部の国から搾取される国もあり、そのため、先進国を中心に支援の手を差し伸べる動きが活発化した。

 グローバルサウスという言葉が使われ出した当初は「援助が必要な国」として認知されていたものの、2008年のリーマンショックを境に状況は一変。世界経済の成長のけん引役が先進国から新興国へと移り替わり、グローバルサウスの中から、大きく経済成長する国が出てきたのである。

 グローバルサウスの各国は年々経済格差が広がっており「援助が必要な国」と「経済大国を目指す国」が混在している状況と言える。

グローバルサウスが国際社会で注目されている2つの理由

 近年、グローバルサウスが国際社会で注目されている理由は大きく2点ある。1点目は経済成長で世界における影響力が増していること、2点目はウクライナ戦争などで必ずしも西側諸国と立場を同じくしない点、場合によっては米国と中国やロシアを天秤にかけつつ自国を利するよう巧みに外交を展開する点が挙げられる。

 まず、1点目について、三菱総合研究所の試算によると、グローバルサウスの国々は今後大きく発展していく見込みで、2050年には米国や中国を上回る経済規模に成長すると予測されている。

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名目GDPシェアの予測
(出典:三菱総合研究所『ウクライナ危機で存在感増す「グローバルサウス」①』をもとに編集部作図、実績はIMF、世界銀行、予測は三菱総合研究所)

 表を見ると、日本を含む先進国の名目GDPがじわじわと下降曲線をたどり、中国も急拡大から一転して頭打ちになっている。

 それに対し、グローバルサウスの伸びは目を見張るものがある。これは、グローバルサウスの稼ぎ頭であるインドの成長率も大きく起因している。IMFの試算によれば、インドのGDPは2021年に英国を抜いて世界5位になり、2026年には日本を、2027年にはドイツを抜いて世界3位の経済大国になるという。

 次に人口について見てみると、2050年には全人口の2/3をグローバルサウスが占めると予想されている。

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各経済圏の人口予測
(出典:三菱総合研究所『ウクライナ危機で存在感増す「グローバルサウス」①』をもとに編集部作図、実績はIMF、世界銀行、予測は三菱総合研究所)

 また、2050年以降はアフリカの人口がさらに急増すると予測されているため、グローバルサウスの人口比率はますます増大していくだろう。

 ちなみに、人口が増えると労働力人口も増加するため、人口と経済成長率は密接な関係がある。グローバルサウスが世界から注目されているのは、急拡大を続ける経済成長率が要因の1つだと言えるだろう。

ウクライナ戦争は中立、米中露の中で微妙な立ち位置を貫く

 米国・中国・ロシアという緊張関係にある国の間で微妙な立ち位置を維持している点も、グローバルサウスが世界で注目されている理由の1つである。

 ウクライナ戦争や米中対立によって国際社会の分断が深まる中、グローバルサウスの多くは中立の立場を表明している。

 西側の民主主義と中露をはじめとする権威主義の対立が深刻化し、両陣営ともグローバルサウスの国々に接近を図っているものの、多くの国が対立に巻き込まれないようにあいまいな態度を取り続けている。

 立ち位置が明確ではない理由として考えられるのは、グローバルサウスの中にロシアまたは中国との経済関係を大切にしている国が多いことだ。また、米国が民主主義を押し付けることへ抵抗を示す国が多いことも原因と言えるだろう。

 英紙エコノミストの調査部門EIUの2023年3月の調査によれば、ウクライナ侵略を非難するか、西側寄りの立場を取る国々は世界人口の約36%で、ロシア支持は約33%、中立は約31%となる。一方で、世界のGDPに占める割合でみれば、ロシア非難が約68%、中立は約12%、ロシア支持は約20%となる。

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ロシアのウクライナ侵攻についての立場は大きく分かれる
(出典:EIU『Russia’s pockets of support are growing in the developing world』をもとにビジネス+IT編集部が作図)

 すなわち、グローバルサウスの多くは西側寄りの立場を取らず、中立、あるいはロシア寄りということになる。

グローバルサウスが抱える問題点とは

 グローバルサウスの国々は、「貧困問題」「環境問題」など、多くの深刻な問題点を抱えている。

 グローバルサウスにはインドのように全体では目覚ましい経済発展を遂げている国がある一方で、貧困に窮している国も多数存在する。貧困層の多い「後発開発途上国」と呼ばれる国は47カ国にのぼり、その大部分はアフリカに属している国である。

 世界銀行のデータを見ると、1日1.9ドル未満で生活している人が7億3400万人もいることがわかっており、彼らは今も「教育を受けられない」「栄養失調で死のリスクにさらされている」「病院に行くお金や薬を買うお金がないため、感染症で多くの人が亡くなっている」といった課題に直面している。

 「グローバルサウス」という言葉の中には、このような厳しい貧困問題があることを忘れてはならない。

 次に環境問題だが、これは以下の2つの問題が重要視されている。

  • 自然破壊:貧困に苦しむ人々が農地や牧草地を確保するために過剰な森林伐採を行っていることが原因
  • 大気汚染や水質汚濁:急激な経済発展により環境対策が追い付かないことが原因

 これらは決してグローバルサウスに閉じた問題ではなく、先進国を含め地球全体に影響する課題と言える。上記を含めたあらゆる問題を解決するため、地球環境と貧困問題を同時に議論するようになったのが、SDGs(持続可能な開発目標)の原型である。

 そのほか、政情不安や人権問題、貧困国の劣悪な環境から抜け出す移民の増加、衛生問題、インフラの不足なども大きな課題で、SDGsで掲げる17のゴールはこれらの問題と無縁ではない。

グローバルサウスに対する日本政府の姿勢

 政府はグローバルサウスとの連携強化に向けて、「グローバルサウス諸国との連携強化推進会議」を開催。以下のような対応策を打ち出している。

  • 政策対話や交流の機会を増やす
  • 協力の強化
  • 戦略的コミュニケーションの強化

 その一方で、2023年3月にインドで開催されたG20外相会合では日本は外務大臣が欠席。代わりに副大臣が代理で参加したものの、グローバルサウスとの関係を深められる絶好のチャンスだったことから、失策だったと評価する声も少なくない

 グローバルサウスの国々と連携を深めるには、それぞれの国に応じた望まれる支援を提供して、相互に信頼を築いていくことが重要だろう。

SBIが新ファンド、投資対象としても注目を集める

 日本は2024年から新しいNISA制度が始まり、投資ブームが巻き起こっている。そんな中、グローバルサウスは、魅力的な投資市場としても注目を集めている。

 グローバルサウスが投資対象として魅力的なのは、以下のような理由からだ。

  • 人口増加が予測されているので経済の高成長が期待できる
  • 米国株式と逆の値動きをするためリスク分散として有効
  • グローバルサウス銘柄に投資できる投資信託が発売された

 2023年10月にはSBIアセットマネジメントが新たに「EXE-i グローバルサウス株式ファンド」の販売を開始。対象国のGDP比率などを参考に資産分配を決めている。1月末時点の資産分配のトップ3はインド、ブラジル、メキシコだ。

 ただし、新興国市場の株式は値動きが荒く、流動性も低い傾向が見られる。先進国の市場と比べてハイリスク・ハイリターンであることは注意が必要だろう。

 グローバルサウスの問題は一筋縄でいかないものばかり。それでも、この記事を参考に少しでもグローバルサウスへの理解が深まれば幸いだ。

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