• 2007/11/15 掲載

【中国ビジネス最前線(10)】はじめての顧客獲得-AXIS(2/2)

上海でスタートしたモノづくりコンサルティング企業「AXIS Creation」

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日本より高くても受注できる理由

AXIS Creation社内の雰囲気
 ここで建築系のCGコンテンツ制作における低価格競争について付記しておきたい。CGコンテンツ制作会社は、上海だけでも200社以上あり、市場が成熟し力のない会社が淘汰されている段階にある。加えてベトナムやタイにも同業者がいる。

 だが、Axisは「Axisの提供する商品は中国企業としてはかなり高い金額設定をしています。日本のフリーランスの方に頼まれるよりも高いこともある(田中氏)」という。なぜ日本より高くても受注できるのかについて聞くと「総合的な品質、つまりサービス品質、速度やスタミナ(受け取れる仕事のボリューム)を考慮していただいているからです」と価格優位性が強調されがちな中国市場においても、高い付加価値を提供することで競争優位性を確保している。

 現在もAxisに営業人員はおらず、既存顧客に対する営業や通常業務のやりとりは、パートナーの肖氏が行っている。田中氏は1人で、新規顧客開拓と社長業を兼任している状況である。そのため田中氏は非常に多忙で、朝から夜遅くまで生活のほとんどの時間を仕事に費やしているそうだ。追加で日本人スタッフを雇わないのか尋ねてみたところ、「日本人スタッフは欲しいですが費用対効果を考えるとまだ時期ではないですね。徐々にお客様との取引が増えれば日本人を雇うことになるでしょう」と自社の現状を冷静に見つめる。東京への進出についても「営業拠点を置く計画はありますが、まだ社内管理が必要な時期。人を育てる時期だと判断しています」。同社の中国人スタッフの月給は手取りで2000~6000元(3万2000~9万6000円)。日本人を雇うなら同じ額で中国人スタッフが数名雇えてしまうため、日本人1人雇うことは、規模の大きくない会社以外はなかなか難しい問題だ。

 一方、中国人スタッフは、社長も客も日本人のAxisで働くことで日本語力や技術力が向上するだろうと期待し、興味を持ってくれるのだそうだ。田中氏は中国人スタッフの採用基準として「お金にこだわりすぎる人はお断りしています。一方で成長したい人は歓迎しています」と語る。社内では人や関係を重視する日本の管理手法を持ち込み、一部スピードと効率を重視する中国式も取り入れて管理している。この管理体制は、若い中国人スタッフはすんなりと受けて入れてくれる一方、中途採用のスタッフは抵抗があり、慣れるのに時間がかかるという。

在宅ワークは中国でも好感

上海の徐家匯は渋谷のようなターミナルと
秋葉原のような電気街を兼ねる
 またAxisの特徴的なワークスタイルとして、近年日本でも一部の大企業が取り入れている「テレワーク(在宅ワーク)」がある。Axisでは雇用から一定期間後に認められるが、中国ではまだまだ少ない。「在宅ワーク制度に喜んでくれるスタッフは多いですね。特に在宅ワークについて世間体を気にするといったことはないようです」と中国においても在宅ワークは社員から評判がいいそうだ。しかし、田中氏は「常々私は、自由は人から与えられるものではなく自分で作るものだ、と言っていまして、在宅ワークによって人に迷惑をかけるな、と言っている」そうで、管理体制を十分に敷いたうえでの展開のようだ。

 田中氏はAxisの今後について「できるだけ良いものを安く、を目標に」と語る。だがその言葉以上に田中氏の思うAxisの将来の展望は大きい。田中氏は「多国間の架け橋になるということと、クリエイティブな仕事に特化するということは、私個人のライフワークであり、会社の企業理念などに関わる、絶対条件です」と語る。

 田中氏は、自身の中にあるクラフトマンシップのようなものが常にクリエイティブな仕事を求めており、ものづくりに携わっていないと生きている感じがしないという。また田中氏はオーストラリア留学時代に、自身が日本人として生まれ恵まれた存在であると感じ、その後一貫して世界各国における人に与えられた機会の不平等を解消したいという願いを持っている。そのためさまざまな国地域の得意分野を合わせて、さらに安く良いものを提供し、また市場を日本だけでなく欧米に広げたい。拠点も上海以外にも、上海以外の中国のどこかに、または世界のどこかにAxisの拠点を置きたいと田中氏は考えているそうだ。

 最後に田中氏は夢を語ってくれた。「中国ではマンパワーに圧倒されました。このマンパワーをもっと生かしたいです。たとえばアメリカのマーケティング、日本のアイデア、中国のマンパワーで映画を作るとか」。田中氏の夢はまだ始まったばかりだ。



山谷剛史
海外専門ITライター。守備範囲は中国・東南アジア・インド・北欧など。現在主に中国に滞在し、中国関連の記事を複数メディアで執筆。一般誌にも時々執筆するが、とはいえノンポリティカルな執筆が基本。統計数字だけではなく、できる限り誰にでも読めて分かり、匂いや雰囲気を感じることができる記事をつくるのがポリシー。そのために裕福な人々ではなく、国民の大部分である平民層以下にスポットを当て、現地で体を張って取材。

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