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  • 2008/02/14

【連載】戦略フレームワークを理解する「M.E.ポーターの競争戦略論」

立教大学経営学部教授 国際経営論 林倬史氏 + 林研究室

マーケット・エコノミーを前提とする限り、企業は生き延びるために、競合企業に対して何らかの「競争優位」を保持しなければならない。M.E.ポーターの競争戦略論は、この「競争優位」に関する理論的フレームワークを提示した基本的理論である。本稿では、M.E.ポーターの競争戦略論について考察する。


5つの競争要因とは

 M. E. ポーター は産業組織論のSCPパラダイムという考えをもとに、持続的な競争優位を確立するための戦略を提唱した。SCPパラダイムとは、市場構造(structure)、企業行動(conduct)、業績(performance)の頭文字をとったもので、市場構造と企業行動が業績を決めるという考えである。

 ポーターは市場構造の分析するためのフレームワークとして「5つの競争要因」を掲げている。1)新規参入の脅威、2)供給業者、3)買手(顧客)、4)代替品、5)競合企業、の5つの要素である(図表1)。これらが業界の中でどう作用しているかにより、競争自体の激しさや企業の収益が変化することを指摘している。そしてこれらの5つの競争要因を分析することによって、自社に有利なポジショニングを図ることを提起している。

 まず、図表1に示されている5つの要因のうち、「新規参入の脅威」をみていこう。業界に新たに参入する企業がいくつも出てくれば、販売価格の低下や製品提供コストの上昇などにより、企業の収益率は低下してしまう。新規参入のしやすさは、業界の参入障壁の程度によって分析ができる。

 次に、「供給業者」と「顧客」の「交渉力」に着目しなければならない。売り手、すなわち供給業者は、常に自分たちの製品をより高く売りたいと考えている。買い手、すなわち顧客(消費者)もまた、常に良い商品をより安く購入したいと考えている。この恒常的な欲求に対して、「売り手」と「買い手」がどの程度の力をもっているのかを分析する必要がある。

 供給業者、つまり売り手が寡占状態であれば、売り手の交渉力は強まり、逆に分散していれば弱まる。また売り手が代替品と競争する必要があれば、売り手の交渉力は弱まり、売り手にとって買い手がどの程度重要な顧客か、といった点を分析すれば、売り手の交渉力を分析できる。買い手についても同様に分析が可能である。例えば、買い手が少数企業に集中しており、売り手の取引の多くを占めている場合は、買い手の交渉力は上がる。また、売る製品が差別化されているか、取引先を変えるコスト(いわゆるスウィッチング・コスト)が低いか、買い手が製品に対してどのくらい情報をもちうるか、といった点を見ることによって、買い手の交渉力を見極めることができる。

「代替品」とは、別の製品に取って変わられる機能やサービスを提供する製品のことである。代替品が現れると価格設定に上限が設けられてしまい、業界の収益性のポテンシャルが押さえつけられてしまう。特に、「その業界の製品をコストパフォーマンスの点で上回る傾向にあるもの」と「収益力の高い業界が生産しているもの」について注目すべきとしている。

 最後に「業界内の競合企業」であるが、これは既存のライバル企業との競争関係がどうなっているかということである。例えば、競争が激しく、1つの業者が価格を大幅に下げた場合、他の業者の反撃や報復といった競争行動をどのようにとってくるのかについても分析しなければならない。
 これら5つの競争要因というフレームワークを用いて市場構造を分析することで、業界の魅力度を測ることが可能となる。

【マイケル・ポーター】
出所:M.E.Porter(1998), On Competition, Harvard Business School Press, 竹内弘高訳『競争戦略論Ⅰ』
(ダイヤモンド社、1999年)より作成


企業行動

 次にSCPパラダイムのCである企業行動についてみていこう。 ポーターは先の5つの競争要因を用いて分析した市場構造をもとに、どういう競争戦略をとるべきかについて、3つの基本戦略を示している。

 1つ目はいかにコストを低くしていくかという「コストリーダーシップ戦略」、2つ目が業界内にはない製品やサービスを創造する「差別化戦略」、3つ目が特定の分野に経営資源を集中させる「集中戦略」である。コストリーダーシップ戦略とは、他社よりも少しでも安いコストで製品をつくるための体制作りである。この戦略のもとでは、「コスト面で最も優位に立つという基本目的」に沿った一連の政策が求められる。

 差別化戦略は、「製品設計」「ブランドイメージ」「テクノロジー」「製品特徴」「顧客サービス」といった点で差別化をし、業界内における「特異性」を獲得し5つの競争要因に対して優位に立つものである。集中戦略においてターゲットとなるセグメントとは、特定の「買い手」「製品の種類」「地域」などを指す。これらのセグメントに集中して経営資源を投下することによって、比較的短期間に低コストを実現できたり、差別化を行うことが可能になる。このように、3つの基本戦略を巧みに使い分けることによって独自のポジションを選択していくことが可能となる。

【マイケル・ポーター】
出所:M.E.Porter(1998), On Competition, Harvard Business School Press,
竹内弘高訳『競争戦略論Ⅰ』
(ダイヤモンド社、1999年)より作成



「トレードオフ」と「フィット」

 これらの基本戦略を採用するにあたっては、“何をして、何をやらないか”というトレードオフの重要性に留意しながら行う必要がある。例えば、デルやアマゾンがオンラインでのネットサービスを活用してPCマーケットに参入した際、IBMのような大手のPC企業でさえも、既存のディーラー網との間でトレードオフの状態に陥り、参入が遅れてしまった。

 このように、トレードオフを戦略的に活用することが、自社の参入を有利にし、競合企業に対する参入障壁として有効となる。逆に、トレードオフに留意しないと、いち早く参入しても、そのポジションは競合他社に容易に模倣されてしまう。競合他社に対して模倣困難性を高めるためには、他社をトレードオフの状況にさせ、自社は資源をビジネスプロセスにフィットさせ一貫性を持たせることによって、より独自化された戦略的ポジショニングが可能となる。 

 ポーターは5つの競争要因と3つの基本戦略を通じて、業界内での自社のポジショニングが収益性を決めると主張した。彼の競争戦略論はいわゆるポジショニング論として理論的にも高く評価されると同時に、ビジネスの世界にも広く受け入れられてきた。

ポーター論の限界

 ただし、現在の市場と競争環境はダイナミックに変化しており、産業や業界の垣根自体も国境を越えて変動する時代となってきている。しかも、決して魅力的とは言えない業界においてさえも高い業績を残す企業も存在する。さらに今日の業界構造は、他企業との関係において、自社の一方の事業部門とは激しい競合状態であると同時に、自社の他の事業部門とは協調関係にあり提携しているという複雑で流動的となっている。

 こうした現代的業界構造においては、ポーターのポジショニング論は必ずしも有効とは言えないという側面も指摘されよう。

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