• 2008/11/21 掲載

【インタビュー】 情報活用に必要な能力とは何か。そのプラットフォームはどうあるべきか

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企業内に蓄積される情報は日々新たに生みだされ、増えつづけている。しかしながら、それらの膨大な情報は有効に活用されているとは言いがたい。企業の情報活用における課題は何か、企業競争力の強化に役立てる情報活用はいかにすべきか、またそのプラットフォームのトレンドについて、「<InfoFrame WORKS DAY 2008>見える化のIT戦略」(2008年12月5日開催セミナー)の基調講演を務める匠 英一氏にうかがった。

12月5日開催セミナー「<InfoFrame WORKS DAY 2008>見える化のIT戦略」

全社的な情報の統合・活用には組織改革が重要

【知財/知識活用】

デジタルハリウッド大学
デジタルコミュニケーション学部 教授
見える化経営協会(LLP) 会長
CRM協議会 理事
匠 英一氏

――現在、「第4の経営資源」としての情報活用の重要性が認識され、多くの企業がさまざまなITシステムの導入を含めて取り組んでいますが、情報活用の現状を見て、どのような課題があると考えていらっしゃいますか。

匠氏■
ERPやCRMなどのためにITシステムを導入して、それぞれの部門でデータを蓄積しているものの、それが企業全体としてうまく活用されているという会社は非常に少ないのが現状でしょう。よく言われることですが、その要因の1つに情報の分散化があります。販売データ、顧客データ、コールセンターのクレーム情報などがそれぞれにデータベース化され、それぞれの部門で活用されているとしても、会社全体から見れば断片化された情報を活用しているにすぎません。そうしたデータを統合化した環境を作ろうと苦労しているでしょうが、その作業は多くの部門の人が介在しなければ実現できず、困難を極めているのが実態です。

 データの統合作業が困難な背景には、単にデータ構造の違いといった問題ではなく、情報を活用する組織に問題がある場合が多いのです。というのも、それぞれの部門における情報活用は、その部門にとっては最適化されていると思われており、煩雑な作業をしてまで情報を全社的に統合したときの具体的なメリットを見いだせないからです。

 たとえば、CRMシステムを導入して顧客分析ツールで分析している会社でも、実際にそれを実施しているのはマーケティング部門の数名の社員に限られているという調査結果もあります。その人たちが分析できたとしても、分析結果を営業部門と連携しながら“カイゼン”に役立てられないというケースが多い。営業部門は、往々にして「分析屋が立てた机上の提案を現場で活かせるか」という考えをもっていることが多く、自分たちのもつ販売データをもとに営業活動を行っているという実態があります。こうした考えが出てくるのは、全社的に統合化された情報を活用することが、自分たちにどれだけのメリットをもたらすのか、具体的に理解できていないからです。

――全社的に情報を統合し、有効に活用することを阻害しているのは、システム的な問題でなく、組織的な問題であるということですか。

匠氏■
さまざまなITシステムを導入しても、必ずしも情報活用が進み、プロセス改革が進展するといった投資効果を得られないという問題は、組織の壁など仕組みに問題があるからです。たとえば、V字回復を成し遂げパナソニックと社名変更した松下電器がよい例です。同社は「ボイス・オブ・カスタマー(VOC)」という、顧客の声をほぼリアルタイムに近い環境で、開発部門や製造現場と共有して製品に反映させるような仕組みを作って、CRMの視点で大きな効果を上げています。効果を上げられた大きな要因には、システムの導入や仕組みづくりの前に、縦割り組織だった事業部制を串刺しにしたマーケティング本部が先導していたことがあります。つまり、組織改革を先に実施した上でCRMシステムを導入したことが重要なポイントであり、部門の壁を越えていかに一元的な情報の見える化をし、共有・活用できるかが重要です。


履歴データの見える化だけでなく
仮説・検証による将来情報の見える化が重要

――そのような組織横断的な情報の活用を進展させるという観点で、マーケティング的には「見える化」すべき情報とは、どのようなものでしょうか。

匠氏■
マーケティング活動における情報の「見える化」は、過去の履歴データをベースにしますが、単にそうしたデータを分析するだけでなく、それをもとに仮説・検証できる仕組みが必要になります。

 たとえば、シニア層の顧客が多い化粧品メーカーがキャンペーンを展開しようとしたとき、最大顧客であるシニア層をターゲットにするか、あるいは長期的なスパンで見て、シニア層の娘さんたちをいかに取り込むかによって、CRM的な価値は将来的に10倍にもなります。そのような視点で考えれば、キャンペーンとして景品を進呈する場合、シニア層が喜ぶ景品でなく、その娘さんたちが母親からプレゼントされて喜ぶ景品であった方が次世代の顧客層獲得に効果的であるのは明らかです。そうしたキャンペーンの有効性を営業の現場に理解させるためには、10年後を見据えた顧客生涯価値を「見える化」することが重要です。それには仮説・検証によってシミュレーションした将来価値を示す必要があります。


情報活用のプラットフォームは多様化する

【知財/知識活用】

「基調講演では、情報活用において
重要な能力と、そのプラットフォームは
どうあるべきかについてお話します」

――これまでに情報活用のさまざまなツールやシステムが登場してきましたが、今後はどのようなプラットフォームが注目されるでしょうか。

匠氏■
いま大きなトレンドとして注目されるのが、SaaS型モデルを利用した情報活用です。セールフォース・ドットコムに代表されるように、自社で開発したツールだけでなく、いろいろな会社が開発したサービスをモジュールとして必要に応じて組み合わせて利用する環境です。もちろん、すべてSaaSで戦略実行に必要な情報活用ができるわけではないので、基幹系システムの情報とSaaSを組み合わせたハイブリッドの情報活用プラットフォームが求められます。

 また、非構造化データの共有・活用においては、ブログの利用が注目されます。ブログはコンテンツの充実度を格段に高められる要素があり、参加している人のリソースを蓄積すると自分なりのデータベース化が容易になります。マーケティング情報への活用という点で、ブログは大きなトレンドになる可能性があります。

――最後に、12月5日に開催されるセミナー「<InfoFrame WORKS DAY 2008>見える化のIT戦略」の基調講演では、来場者にどのようなメッセージを提供されますでしょうか。

匠氏■
情報活用において重要な能力といえる「顧客IQ」、「サービスIQ」、「組織IQ」の3つについてお話しようと考えています。顧客IQは、顧客の変化をとらえながら顧客情報をいかに活用するかというマーケティング能力。サービスIQは、商品の販売、アフターサービスなど企業活動全体をサービスとしてとらえ、そのプロセスをきちんと情報化して、顧客と相互に見える化していく能力です。組織IQは、組織内の壁をなくし、お互いがコミュニケーションしながら全体最適の指標をもつといった、情報を活用する上での組織能力をいうもので、これらをつなぐことが真の情報統合であり、そのプラットフォームはどうあるべきかをテーマにします。当日は、情報システム担当者だけでなく、組織の各部門の責任者の方にも来場いただき、情報活用能力を高め、業務をどう変えていったらいいか理解いただき、そのメリットを現場に伝えていただければ幸いです。

――ありがとうございました。

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