- 2026/05/19 掲載
寿司チェーンがなぜ“本気コメ作り”?元気寿司・スシロー・はま寿司…コメ争奪戦の今(2/2)
【広がる農地・減る担い手】既存農家とタッグを組むメリット
清原Genkiファームは、ゼロから農業を始めるわけではない。代表取締役に就任したのは、宇都宮市と真岡市にまたがって以前から農業を営んできた山口智三氏だ。山口氏の経営基盤を引き継ぐことで、農業参入の初期投資とリスクを抑える。同社への出資比率は、ゲンキGDCが49%、山口氏側が51%である。山口氏は2008年に新規就農して以来、個人経営で「ともぞう農園」を運営してきたが、近年課題に直面していた。就農時の面積は2ヘクタール。それが周囲の高齢化や離農で、「あれよあれよという間に面積が増えてきた。増加は全然、止まらないですね」(山口氏)
ここ5年で20ヘクタールから30ヘクタールに増えた。今年も新たに農地を引き受けることが決まっている。
面積の拡大とともに、人手不足も深刻になっている。田んぼは130枚近くあり、南北に10キロメートルの範囲に分散している。栽培だけでなく、水田を保つための作業にも手が掛かる。それは、水路の溝さらい(溜まった泥やゴミの除去)やあぜの草刈り、場所によっては周辺の山林の管理にまで及ぶ。
これまでそうした共同作業は、集落で担ってきた。その継続が難しくなっていると山口氏は振り返る。
「この辺りは人が減って、その分経営する面積が増えているので、溝さらいといった環境整備をできる人がいなくなってきている。農地の面積を増やしている一方で、こういう経営課題があると話したときに、ゲンキGDCの方と意気投合したんです」
農地面積の増加に伴って生産量が増えても、清原Genkiファームの設立により、ゲンキGDCという供給先を得られる。さらに働き手も確保しやすくなる。現在は、山村氏やゲンキGDCからの出向者も含め2名が清原Genkiファームで働いている。
山口氏は30ヘクタールの水田のほかに、畑地も管理する。畑作物は水稲に比べて手が掛かるため、遊休地になっている畑が少なくない。今後は「コメを中心としながら、野菜や果物の生産にも同時に取り組み、事業の安定化を図る」ことを考えている。一部を店舗での食材やデザートに活用していく予定だ。
ゲンキGDCの山村氏は言う。
「グループの店舗では、コメのブレンドの仕方や炊き方、提供するときのシャリの温度にまでこだわっています。自分たちで美味しいコメを作ることで、生産と店舗の技術の両方が合わさって、さらに美味しいお寿司ができるというゴールを目指しています」
寿司という最終製品から逆算して原料米を選ぶ。さらには自ら生産し、品質と価格の両面で最終製品に最適化したコメを作ろうとしている。
“100円寿司を守る”ための新戦略
ゲンキGDCは令和のコメ騒動以降の米価高騰の中、シャリの量を減らす対応は取っていない。品質と顧客体験を優先し、原価の高騰を経営内で吸収してきた。とはいえ、それにも限度がある。さらに同社は、回転寿司チェーンの中でも「客単価が低い方」(山村氏)でもある。手ごろな価格で高品質なメニューを提供する方向へ経営をシフトさせてきた。
2026年4月、全国の魚べいと元気寿司で定番商品を見直した。
「価格設定でこれまでよりも値ごろさをイメージできるように、常時80品以上を税抜き100円で提供する取り組みをしています。消費者の節約志向もあって、高単価の路線は消費者に受け入れてもらえないところがあるので」(山村氏)
農業参入のキーワードの一つは、持続可能性だ。
「持続可能にしていくために、たとえば去年、外食産業は高い米価で大打撃を受けました。ただ、数年前のコメが安いときは、逆に農家が苦しみました。そういう両極端な価格ではなく、お互いが持続可能なレンジ(範囲)で取引をしていこうと考えています」(山村氏)
清原GenkiファームとゲンキGDCは、コメの売買価格について、あらかじめ上限と下限の額を設定。その範疇で取引することを計画している。
スシロー、はま寿司も…「コメ防衛戦」が始まる
調達の強化は、他社も進めている。「はま寿司」を展開するゼンショーホールディングスは、精米工場の能力を従来の4倍に拡張する。調達したコメを自社で加工・管理する体制を強化している。また、「スシロー」を運営するFOOD&LIFE COMPANIESは、全国農業協同組合連合会(JA全農)との契約栽培による「スシロー専用米」を確保している。国内だけでなく、海外店舗への供給にも活用する。
川下から川中(流通)、川上へと踏み込み、調達の一部を自社のコントロール下に置く。その点が共通している。
足元では、コメの在庫が積み上がっており、米価には下落の圧力が掛かっている。しかしその裏で、生産コストの上昇や担い手不足が進み、長期でみるとコメの供給力は確実に弱まっていく。
コメは短期的には余り、中長期では不足する。この潮流の中で、外食や中食といった実需者にとって、調達を従来どおり他人任せにすることはリスクとなる。
回転寿司チェーン各社の動きが示しているのは、調達を「買う行為」から「設計する行為」へと転換する必要性だ。コメを確保するための競争は、すでに始まっている。
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