- 2026/10/12 07:00 掲載
ヒューマノイドで日本は勝てるのか? ベインが示す「全方位競争」ではない勝ち筋とは
前編はこちら(この記事は後編です)
「全方位競争」ではダメ、日本企業の4つの勝ち筋
日本企業にとって、ヒューマノイドロボットは人口減少・高齢化・現場人材不足という社会課題への現実的な打開策として、大きな期待を寄せられている。しかし、西脇氏の見立ては冷静だ。完成体のヒューマノイドをゼロから作り上げる「完成体競争」では、巨額の資本とAI基盤を持つ米国・中国の企業がすでに大きく先行している。資本力で劣る多くの日本企業が同じ土俵で戦う戦略は、合理的ではない。
シニアパートナー
西脇 文彦氏
「完成体競争」からエコシステム内の「ポジション競争」へ
ヒューマノイドの部品・素材サプライヤーとして考えたとき、日本企業に大きな可能性が残されている領域がある。それが関節・減速機・精密制御といった「アクチュエーション(動力制御)」の領域だ。センサーやコンピューティング(半導体・演算処理)が米国・中国に牛耳られている一方、アクチュエーターや構造部品といった「メカ寄りの部品」では、日本企業を含むその他の国のプレーヤーが一定の強みを発揮できる。ただし、中国勢も部品の内製化・低コスト化を進めており、優位を維持するには継続的な技術深化が欠かせない。
「メカ寄りの部分というのは、実はそんなに中国の独壇場というわけではなくて、日系プレーヤーが実は非常に強い領域です。ここは技術面で日本企業が強みが発揮できる領域だと認識しています」(西脇氏)
海外AI × 日本ハードの前提に立つ
ヒューマノイドの「知能」はAI競争そのものであり、日本企業が単独で基盤AIを主導するのは現実的ではない。重要なのは、海外のAIプラットフォームと、日本企業が持つ信頼性の高いハードウェアを前提にした協業モデルを設計することだ。自前主義に固執するのではなく、バリューチェーン(価値の流れ全体)の中でどこを押さえるかを明確にする。
「すべての技術を自社で抱え込むのではなく、抑えるべき技術領域を明確にし、パートナーと組む発想を取らないと、厳しいグローバル競争の中で、なかなか勝っていけません」(西脇氏)
LLM(大規模言語モデル)でOpenAIやAnthropicと競い合うのと同様の議論が、フィジカルAIのさまざまな領域で繰り広げられている。どの戦場で戦い、どこを他社に委ねるかの判断が、生死を分ける。
商用現場で「早く小さく学ぶ」」
ここまでヒューマノイドの提供者側に焦点を当ててきたが、ではユーザー側はどうか。社会実装を狙う日本企業が陥りがちなリスクは、完璧を求めるあまり実証実験(PoC)止まりで終わることだ。完全自律を待つのではなく、遠隔操作や半自律を含むハイブリッド運用で、小規模でも実装を早く行い、データと知見を蓄積することが重要だ。
「PoCと実運用の間には大きな隔たりがあります。今はまだ多くが人間の監視下での限定的な環境にとどまっている。しかし、完全自律を待つのではなく、早く小さく実装してデータと知見を蓄積していくことが重要です」(西脇氏)
特にフィジカルの現場では、バーチャルやホワイトカラーの世界よりも、実際に現場でロボットと協業する人たちの意識改革が重要になる。「既存の業務プロセスにロボットを当てはめる」だけでは、ROI(投資対効果)は限定的にとどまりがちだ。「10人でやっていた作業を1人でできるにはどうするか」という大胆なプロセス再設計の発想が、スケールアップのカギを握る。
安全・認証・運用設計を競争力に変える
人と共存するヒューマノイドでは、安全設計・認証・運用ルールが極めて重要になる。ここは、日本企業が長年の製造現場で培ってきた強みを存分に発揮できる領域だ。高い安全基準を満たした「安全性の高いヒューマノイドの標準」を握ることは、純粋な技術優位以上に強力な競争優位となり得る。
世界のオートメーション業界全体のバリュープールを見渡すと、これまで最も大きな利益を得てきたのは制御技術の領域(シーメンス、ロックウェル、横河電機など)だった。しかし今後は、AIを活用した統合ソリューション(ソフトウェアを軸としたフィジカルAIソリューション)と、スマート化が進むフィールドデバイス(センサー・ロボットなどの現場機器)の2領域が、爆発的に拡大していくと西脇氏は見る。
「ソフトウェアが軸のフィジカルAIソリューションというのが、市場規模(横幅)としても増えますし、利益(面積)で見ると大きなパイを占めるようになっていきます。したがって各参入プレイヤーがこぞって、拡大するスマートデバイス、統合ソリューションの大きな利益プールにどうやって入っていくかに知恵を使われています」(西脇氏)
【次ページ】IoTの教訓を生かせるか? フィジカルAI時代の成否を分ける点
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