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- 2009/11/26 掲載
【鈴木光司氏連載】「知的思考力」とは何か:(2)世界にはなぜ構造があるのか
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1957年、静岡県浜松市生まれ。慶応義塾大学文学部仏文科卒。90年、『楽園』が日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞して作家デビュー。 『リング』『らせん』『ループ』『バースディ』のシリーズが計800万部のベストセラーとなり、ハリウッドで映画化される。著作は世界20か国語に翻訳され、欧米を中心に積極的に講演活動を行う。高校教師であった妻に代わり、二人の娘を育て上げた経験から、政府の諮問機関「少子化への対応を促進する国民会議」委員をつとめる。最新作は『エッジ』角川書店。
知的思考力<2> 世界にはなぜ構造があるのか
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「モノがないことより、あることのほうがずっと不思議なんだ」
この台詞はぼく自身の実感です。モノがあるということ、つまり、宇宙に構造があるということは、実に奇妙なことなのです。
われわれが認識している宇宙には、「エントロピー増大則」という基本原則があります。自然のままに放っておけば、世界は徐々に無秩序に向かうというものです。にもかかわらず、なぜ秩序=構造が生まれたのか。考えるだに頭を悩ませる問題です。神の存在を仮定したほうがまだしもすっきりするかもしれません。
疑問はさておき、宇宙には大きくふたつ、マクロの構造があります。天体と生命です。両者とも、でき方としては、どうやら自己組織化(ボトムアップ)によってできたようです。太陽系を例にとれば、今から約46億年前に、水素とヘリウムを主成分とする星間雲が収縮し、回転しながら円板状になり、衝突と合体を繰り返しながら成長して惑星が形成されたとされます。
そして、太陽系ができてほんの5億年ばかり経過した頃、惑星の中のひとつである地球に自己組織化のメカニズムによって生命が誕生しました。有機化合物をたっぷり含んだ原始スープをかき混ぜているうちに、偶然に原初生命であるDNA(あるいはRNA)ができたというのです。誕生の場所に関しては、深海にある熱水噴出口(ブラックスモーカー)付近という説が有力ですが、ぼくはこの説を信じていません。(理由は『エッジ』に書いたとおりですが、長くなるのでここはでは省きます)
いずれにせよ、天体(山や渓谷、湖や川など、自然の造形物はここに含む)にしろ、生命にしろ、偶然の作用によってボトムアップ方式でできたのは、どうやら確からしい。自然の構造物が、トップダウン方式でできたと解釈する場合、先に設計図が必要となるため、神の存在が前提となります。言うまでもなく、現在の科学は、創造論、あるいは決定論的解釈を否定する立場にあります。
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