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  • 2010/06/30

【合同会社コンテクチュアズ インタビュー】『思想地図bis』が打ち出すビジョン (4/4)

東 浩紀氏、村上裕一氏、李 明喜氏、浅子佳英氏インタビュー

独自のビジネスモデルとムーブメントの確立に向けて

――『bis』では、既存の出版モデルと違う、メディア的なイノベーションにも積極的に取り組まれていくのでしょうか?

 東氏■はい。まず『bis』では出版取次は通さず、ネット直販や一部書店さんとの直取り引きで販売する予定です。というのは、旧『思想地図』の売り上げデータを見ると、非常に限られた書店で集中的に売れていたんですね、当然ながらネットの比率も高い。そこで取次を通さず、上位の書店とネットだけの販売である程度いけるだろうという判断をしました。もちろん、もともと『思想地図』は1万5,000部売れていた本なので、それに比べれば限定的な部数からのスタートになってしまいます。けれど、自分たちだけの力で一から始める以上は仕方ない。むしろ、自分たちの自由になる販路でやる方法を選ぶべきだと考えました。

 それに取次を通すと、電子書籍化の際にも面倒な問題になるだろうと思いました。取次を通さないことによって、僕たちの考えを理解してくれるソフトウェア会社と組んで、自由にデザインできるというのが強いと思ったんです。とにかく自由にやるために出版社を作ったので、その原則は崩したくないということですね。あと、今回広告を入れることにしてるんですよ。

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浅子佳英氏
 浅子氏■そう、それも取次を通さないメリットですね。広告を入れるには雑誌コードを取らなければいけないんですが、それでは継続的に売ってもらうことができなくて、すぐ棚から外されてしまう。なので、我々としては書籍コードで出したいんですが、そうすると広告が入れられなくなる。そういう制約抜きに自分たちで出したいわけなので。

 東氏■広告の本来の出発点は、「この雑誌をスポンサーとして支えているんだ」という自負心だと思うんです。そういう企業さんに広告を入れてもらいたいと願っています。それは一種のコミットメントですよね。そういうコミットメントが、取次を通すことでできなくなるというのは寂しいことじゃないですか。広告も含めて、みんなで新しいムーブメントを作っていくという状態にしたいんですよね。それが既存の出版社の形だといろいろ難しいということが調べていく中でわかったので、そういうしがらみがないところでやっていこうということです。

――KindleやiPadで注目されている、電子書籍等への展開はどう考えられていますか?

 東氏■我々はもうすこし先を考えています。例えば誌面企画の中にショッピングモールをめぐる座談会がありますが、そこで話題にした場所に実際に行くと、文字に起こされなかった部分も含めた音声データがAR(拡張現実)的に再生できるというアプリケーションを電子書籍とセットにしようと思ってるんですね。ここで話すと真似られてしまうかもしれないけど(笑)。冷静に考えてみると、iPadとかで家で電子書籍を読んでもあまり意味がなくて、本当のメリットはその場所に行って読めるということだと思うんですよ。僕たちが考える電子書籍の展開というのは、単なるPDFダウンロードの販売みたいなものではなく、そういうものです。

――それから、「コンテクチュアズ友の会」というものを設立されていますが、その概要と狙いを教えてください。

 東氏■経緯としてはですね、Twitter上で「新しい『思想地図』を応援できるなら、1万円くらい振り込んでもいいですよ」といったツイートが僕のところにいくつか寄せられたので、それなら「友の会」みたいな形で、応援者の方たちが積極的に関われるようにしよう、という。しかし、これって結構、不思議な話なんですよね。僕らがやろうとしているのは抽象的・分析的な思想の立ち上げであって、今の段階では「社会をこういうふうに変えたい」といった社会運動的な方向を明確に出してるわけでもない。それなのに、すでに応援してくれる人がこんなに出てきている。これは本当に素晴らしいことだと思います。

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村上裕一氏
 村上氏■で、友の会の具体的な特典ですが、1年分の『bis』が毎号届くのと、新批評研究会の界隈の人たちにやりたい放題のネタを書いていただく会報が発行されます。今確定しているのは「(『早稲田文学』の)市川真人のパチンコ必勝法」とか(笑)。ほかには公式キャラクターの「むりゃかみゆう」のイラストが付いた会員証や、会員限定のオフ会やトークイベントなども開催していきたいと持っています。

 東氏■そこで改めて思うのは、思想っていうのは難しいことについて難しい解釈を難しい文章で書くということではなく、ある種生活に根付いたものであり、それぞれの世界観の表現だということです。だから思想的なものと、人々の職業や普通の生活とが、もっと自由に結びついていいわけですよね。で、そのときにコンテクチュアズ友の会と関係することによって、「俺たちはこの世界をこういうふうに見てるんだよ、こういうふうに変えていきたいんだよ」ということを共有できる場が提供できればいいなと。僕の考えている友の会の狙いは、そういうコミュニティとしての性格ですね。

――最後に、『思想地図bis』創刊号の概要と、コンテクチュアズにかける皆さんの意気込みをお聞かせ下さい。

 東氏■はい、今回のイベントの内容をさらに掘り下げた内容で、第1章が「ショッピングモール」、第2章が「複雑系と認知科学」、第3章が「MikuMikuDance」。つまり1章が現実、2章が理論、3章が仮想ということですね。全体を通して浮かび上がらせたいのは、社会生活を通して見えてくる我々の行動のパターンということです。つまり僕たちが一人一人孤独でありながら、何らかのパターンをもって動いている、と。そういうことを受け入れた上で、どういう社会のビジョンが見えてくるかという話ですね。

 李氏■「コンテクチュアズ」の社名の由来は、コンテンツとアーキテクチャを重ねた言葉なんですが、浅子さんや僕が入ってる意味はそこにあると思うんですよ。つまりコンテンツとアーキテクチャの交わるところには「デザイン」というものが必要で、デザインというのは表層の意匠というだけではなく深層のプラットフォームを設計するということが重要です。それが今回の『bis』のテーマにもつながっていると思うんです。僕としては、そういうプラットフォーム的な背景になるようなところを作っていって盛り上げていければと思ってます。

 浅子氏■そうですね。あと、やっぱり今は夢想でもいいから、大きなビジョンを示していきたいですね。できればショッピングモール特集にしても、最終的には具体的なビジョンを描くところまで持っていきたい。それができれば、我々の企画としては成功だと思ってるんです。そういうものを描けなかった、これまでの思想の限界を越えたものを出していきたいですね。

 村上氏■僕としては、せっかくこれまでにない新しい会社なので、古い常識や弊害にとらわれない新しい出版なり、新しい想像力なり、新しいイベントなりを縦横無尽に展開して、10年代を切り拓いていきたいと思ってます。そういう遊びというか実験の場として、読者の方と一緒に盛り上げていきたいです。

 東氏■じゃあ、最後の締めに(笑)。ちょうど今、荻上チキくんたちがやってる「シノドス」や西田亮介くんたちが始めた「.review」、そして宇野常寛くんたちの『PLANETS』といったように、今若い人たちが新しい思想的な場やメディアを作ることを熱心にやっています。そうした中で僕がこの先の『bis』の展開でやっていきたいのは、やはり「民主主義2.0」みたいなオープンガバメントについてのテーマ。これからの社会をどう作り上げていくかということについての新しいビジョンを打ち出したいですね。

 で、それをやるためには、僕自身、朝日新聞の論壇時評をやっていて痛感していることだけれど、やはり現在の「政治」をめぐる世俗的でせわしない議論から一度距離を取らなければいけない。李さんが言ったように、アーキテクチャとコンテンツ、コミュニケーションの次元に関わるもっと抽象的な思想から始めないと、新しい社会をデザインするというところに戻れない。だから僕は今の仕事をしてるという感じです。浅子さんが言ったように、今この時点においては夢想にしか感じられない理想を、僕たちは掲げていくしかないのだと思うんですよね。10年、20年経って、初めて理解されるというようなことを打ち出していきたいなという感じでしょうか。これから創刊するのに、なんだか鳩山総理の辞任演説みたいになってしまったけれど(笑)。


取材・構成(中川大地

●東浩紀(あずま・ひろき)
1971年生。批評家・小説家。早稲田大学教授。東京工業大学特任教授。
著書に『存在論的、郵便的』『動物化するポストモダン』『クォンタム・ファミリーズ』ほか多数。

●村上裕一(むらかみ・ゆういち)
1984生。批評家・編集者。
2009年、講談社主催「東浩紀のゼロアカ道場」優勝者。
処女作『ゴーストの条件』が近刊予定。

●李明喜(り・みょんひ)
1966年生。空間デザイナー・ディレクター。デザインチームmatt主宰。
東京大学知の構造化センターpingpongプロジェクトディレクター。
主なプロジェクトに「Sign外苑前、代官山」「BIT THINGS」「d-labo」など。

●浅子佳英(あさこ・よしひで)
1972年生。インテリアデザイナー・建築家。タカバンスタジオ所属。
主なプロジェクトに「MILKFED」「x-girl」「カオスラウンジ会場設計」など。
主な論文に「オペレーティングシステム的リアリズム」(『Final Critical Ride』)。

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