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  • 【山本貴光氏インタビュー】コンピュータという道具をもっと身近に感じるために

  • 2010/12/22 掲載

【山本貴光氏インタビュー】コンピュータという道具をもっと身近に感じるために

『コンピュータのひみつ』著者 山本貴光氏インタビュー

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毎日、多くの人が当たり前のように使っているコンピュータ。しかし、この身近な存在の仕組みについて理解せずに活用している人も多いだろう。先日刊行された『コンピュータのひみつ』(朝日出版社)は、コンピュータを使う際の実感を重視しながら解説してくれるので、入門書としてはもちろんのこと、より本質的に理解するためにも最適の1冊だ。著者の山本貴光氏に、本書の狙いなどについてお話を伺った。

コンピュータの仕組みや働き方の全体をイメージしよう

――『コンピュータのひみつ』は日頃コンピュータを使っている実感を丁寧に言葉に落とし込みながらコンピュータを解説した本だと思います。山本さんにとってこの本を書く動機や目的をお教えいただけますか?

 山本貴光氏(以下、山本氏)■ありがとうございます。動機は主に2つあります。1つは何はともあれ必要に駆られてでした。いろいろな機会にコンピュータについて教える際、ちょうどよいテキストがないかなと探してきたのですが、なかなかこれというものに出会わなかったということがあります。これまで学校や会社などで、コンピュータについて解説する機会をもってきたのですが、その都度たくさん失敗を重ねてきました。簡単に言うと、いま書店のコンピュータ書の棚に並んでいる入門書や解説書と同じやり方をとっていたのですね。つまり、ともかく「仕組みはこうなっているよ」という知識を伝えることを中心にしていたのです。

photo

『コンピュータのひみつ』

 でも、これだと聞いているほうは、たいてい腑に落ちません。なにせそうした仕組みと普段自分がコンピュータを使っているときの実感とがなかなか結びつかないからです。じゃあどうしたらよいのか、何をどういう順番で話したらよいのかと、だいぶ考えさせられました。ポイントは、「コンピュータというものをどう見立てるか」というものの見方です。これがしっかりしていない限り、いくら細かいことを覚えても、あまり理解につながらないのですね。逆に見立てがしっかりしていれば、細かいことはどうにでもなってしまうものです。『コンピュータのひみつ』に新しい価値があるとすれば、コンピュータの見立て方を提示していることに尽きると思います。

 今回、どこまでうまく行ったか分かりませんが、いきなり「CPUが……」式ではなく、まずはどう見立てるかという話からじっくり始めてみたのは、そんな意図があったからでした。もう1つの動機は、「コンピュータという道具をもっともっと面白く能動的に使いましょうよ!」という呼びかけをしたかったということがあります。これは後で述べたいと思います。

――本書ではコンピュータを理解するにあたって「全体」をイメージすることの大切さが説かれています。普通に日々パソコンを使って仕事をしているビジネスマンにとってもその「全体」をイメージすることで役立つ点などはあるでしょうか?

 山本氏■1つ例え話をしてみますね。コンピュータを使う人を、オーケストラの指揮者だとしましょう。この場合、さまざまな楽器から編成されているオーケストラがコンピュータです。1つひとつの楽器は、Miceosoft WordやMiceosoft ExcelやAdobe Photoshopなどの特定のアプリケーション、あるいはディスプレイやキーボードやネットワーク機能など、コンピュータの各種構成要素だと思ってください。

 さて、オーケストラ全体が見えていない指揮者は(仮にそんな指揮者がいるとして)、せっかくいろんな楽器があるのに、そのうちのいくつかの楽器しかうまく指揮できません。これでは演奏できるレパートリーは限られてしまいます。やはりオーケストラ全体を見渡すことができてこそ、どんな曲目でも応じることができる指揮者になれるわけですし、楽器同士をうまく調和させることができるというわけです。パソコンの話で言えば、メールやWebブラウザやMicrosoft PowerPointなど、決まったソフトは使えるけれど、ちょっと違うソフトになったり、パソコンが少しいつもと違う状態になると、もうお手上げという人が少なくないと思います。言ってみれば、これはオーケストラ全体を見渡せていないから起きることなのですね。

 他方で、拙著でも書いておいたように、コンピュータ自体の仕組みや働き方は、どんなソフトだろうと、どんなハードだろうと基本はそんなに変わらないものです。普段使っているコンピュータが、裏側でどう働いているかという全体像をイメージできると、どんなソフトでも、どんなハードでも、だいたいの様子は分かるし、ちょっとしたトラブルが生じても、何をどうすればよいのかという見当がつくようになります。そんなわけで、目の前の仕事に必要なソフトを使えるだけでももちろんよいのですが、一見遠回りに見えても、コンピュータの仕組みや働き方の全体をイメージすることをお勧めしたいと思うのです。これはコンピュータを仕事に置き換えても同じことが言えると思います。

――山本さんご自身のコンピュータとの付き合いの歴史はかなり古いのですか。

 山本氏■私が初めてコンピュータに触れたのは、1980年代初めころでした。『コンピュータのひみつ』を書いたときはすっかり忘れていましたが、最初に手にしたのは「ポケコン」と呼ばれるポケットコンピュータでした。これは電卓がちょっと高性能になったものです。画面表示は1行しかなくて、簡単なプログラムを作って動かせます。不便と言えば不便ですが、逆に考えると機能がぐっと限定されていて、できることが少なかったからこそ、簡単に使いこなせるようになったのだと思います。

 やがてそれでは飽き足らなくなって、中学生のとき初めて手にしたのが日本電気(NEC)のPC-6601SRというパソコンでした。今のような萌える街になる以前の秋葉原で買ったこともよく覚えています。ハードディスクなんて内蔵してないし、記憶媒体はカセットテープかフロッピーディスクという時代です。当時はパソコン雑誌にプログラムを印刷したものがたくさん載っていて、これをひたすら入力するんですね。今にして思えば苦行のようでもありますが、2~3年もこれを続けていると、いやでもキーボードを見ずに打てるようになるし、「プログラムってこういうものなんだ」というのが体で分かるようになってきます。ほとんど論語の素読かカンフーの型の修行みたいなものです。意味も分からずにやってみて、後からじわじわ効いてくる(笑)。

 そういえば、初めて自分で購入したゲームソフトは、光栄(当時はまだ漢字表記でした)の『信長の野望』です。もう何回プレイしたか分かりません。当時のゲームはプログラムを見ることができたりもしましたので、「ゲームってこういうふうに作ってあるのか」と、随分勉強させてもらいました。まさか後にその会社に入るとは思っていませんでしたけれど。高校、大学とパソコンがちょっとずつ進化(高性能化・複雑化)するのに沿って、パソコンを乗り換えていったので、その都度新しいことを少しずつ覚えればよかったのは幸いだったと思います。少しずつ伸びてゆく草を使って、より高く飛ぶための訓練をする忍者ではありませんが、今のようにいきなり高性能なパソコンを手にするのとはかなり感覚が違うと思います。

――コンピュータをただ使用しているだけだとなかなか意識しにくいCPUや記憶領域の話などが本書では分かりやすく説明されています。こういった分かりやすくユーザーから見えるわけではないコンピュータの内部や裏側についてどのようにイメージして把握すればいいのか、何かコツなどはございますか?

 山本氏■そうですね、やはり自分がコンピュータと対話しているようなイメージを持つとよいと思います。かつてのパソコンでは、文字通り命令したいことを文字で「dir(ディレクトリに入っているファイルの一覧を表示せよ)」とか「del x(xというファイルを削除せよ)」と入力していたので、だいぶ命令している雰囲気がありました。

 現在のパソコンも、やってることは基本的に昔のパソコンと同じなんですが、見た目が違いますよね。アイコンをダブルクリックしてプログラムを起動したりしますので、いまひとつ「命令」している感じが薄いかもしれません。でも、やっぱりユーザーはパソコンにその都度「なになにをしてね」と命令している。じゃあ、命令を受けたパソコンはその命令をどういうふうに処理しているのか、というふうに想像してみるわけです。

 最初は、命令する(アイコンをダブルクリックする)と何か反応してくれる(そのソフトが起動する)というくらいの素朴な感じで構いません。なんならパソコンは執事のようなものだとイメージしてもよいでしょう。執事は受け取った命令をご主人様に見えないところでいろいろ処理をしてから、必要な結果だけを報告してきます。次のステップとしては、執事が裏側でどんなことをしているのかを考えてみることですが、ここで解説を始めると長くなりますので、これはぜひ拙著をご覧ください(笑)。

 1つだけ付け加えると、本物の執事とパソコンには当然のことながら決定的な違いがあります。本物の執事は、おそらくとても柔軟で融通が利くでしょうから、命令が多少あいまいだったりしても大丈夫です。「喉が渇いた。何か飲み物をくれ」と言えば、ご主人の好みや習慣や状況を踏まえて、あるときはカモミールティーを淹れてきたり、別のときにはバーボンのソーダ割を作って持ってきてくれるでしょう。でも、パソコンの場合はそうはいきませんよね。執事の側で受け取れる命令と受け取れない命令があるし、命令の仕方にもうるさいお作法があるわけです。皆さんがパソコン入門書やアプリケーション入門書で学ぼうとしているのは、言ってみればこの「お作法」です。そうですね、先ほど申し上げたことにつなげて言えば、お作法を知るのも大切だけれど、執事のことをもっと知れば、さらに効率よく執事に仕事をお願いできるというわけです。

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