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- 2012/08/03 掲載
日立製作所 中西宏明社長が語る、社会イノベーション事業に求められる3つの要素
日本の強みは「現場で汲み上げる力」
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急激な都市化で浮上するインフラ整備問題
しかし、「世界の経済活動の一翼を担っているという認識は、顧客と対話する上で非常に重要な要素だ。マクロの流れを知ることで、顧客に何を提供できるかが見えてくる」。日立イノベーションフォーラム2012で、日立製作所、執行役社長の中西宏明氏はそう語る。
世界の実質GDPのシェア(2010年価格PPPベース)を見ると、新興国のアジア、中東、アフリカ、南米が今後の世界経済を担うことは明らかだ。また、こうした地域の経済成長の中心地となる都市では、人口急増が深刻化している。
人口増加は、インフラ整備の要求を加速させている。実際、世界およびアジアの社会インフラ投資を見ると、アジア圏は2010年の32%から2025年の46%まで増加すると見込まれており、2025年までの人口増加都市の上位3/4はアジアが占める。「先進国だけが世界経済や政治のイニシアチブをとる時代は終わっている」(中西氏)。
都市化は生活を豊かにするが、その一方で交通渋滞、ゴミ問題、エネルギー問題、スラム化、経済格差などの新たな問題を生む。「人口100万都市は、通常は200年や1000年の時間をかけて作られるが、アジアでは、それが2~30年で起こっている」。中西氏は、インフラ整備需要の背景をそう指摘し、インフラは個別最適で配備するのではなく、全体最適を意識するべきとした。
日立が考える全体最適とは、有限な地球資源を踏まえて、調和の取れた共生と経済発展を目指すこと。これには多くの知恵やノウハウを必要とし、そこからイノベーションが生まれるという。
現地に根ざすイノベーションを目指す
2000年当時、鉄道車両の老朽化に悩む英国に目を着けた同社は、日本の鉄道が誇る安全性・高速性・快適性・信頼性は絶対に評価されると信じ、参入を決断した。
だが、社会インフラ事業はモノ作りへの自信だけでは越えられないさまざまなハードルがあった。1つは、世界の鉄道車両の大手事業者がすでに基盤を敷いており、参入障壁が高かったこと。もう1つは、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)のような、外部から資金調達して計画は別の組織に委託するなど、複雑な事業体制があったことだ(参考リンク:PPPとは?改正PFI法とは?国家財政が逼迫する中、インフラ事業の輸出を活性化するエコシステム構築のカギ)。
この牙城を切り崩すため、日立グループは車両の軽量化や回生システムによる省エネ性、デジタル技術を強化し、英国のニーズやビジネスモデルに合わせて車輌製造から保守までのワンストップ体制を構築した。現地に合わせた事業基盤は受け入れられ、今では既存車両をすべて置き換える契約が進んでいるという。
「次は、首都圏のJRでも導入されているATOS(東京圏輸送管理システム)のような、自律分散型鉄道制御システムを欧州で展開したいと考えている。各駅で自律的にシステムを制御し、列車の動きは中央で集中管理する同システムは、これまで欧州にない技術で社会に大きく貢献すると評価をもらった」(中西氏)。
もう1つは、ストレージソリューション事業だ。これについても、シリコンバレーに拠点を設置し、ニーズを汲み取りながらノウハウの蓄積と事業のブラッシュアップをくり返し、イノベーションを図ってきた。「ストレージ事業には、海外売上高比率が90%。現在はFortune 100企業の80社以上に導入されている」(中西氏)。
【次ページ】イノベーションに必要な3つの要素
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