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  • 2016/12/27 掲載

何度もささやかれてきたムーアの法則限界説、「今回はかなり深刻な状況」

【前編】

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この50年ものあいだIT業界を規定してきたといっていいムーアの法則に限界が見えてきたことがはっきりしてきました。いまムーアの法則になにが起きていて、ムーアの法則の限界の先にはどのような技術やビジネスの選択肢があるのでしょうか。10月24日に都内で開催されたイベント「QCon Tokyo 2016」で、国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 教授 佐藤一郎氏による基調講演「ポスト・ムーア法則時代のコンピューティング」は、IT業界だけでなく社会的にも影響をもたらすと考えられるムーアの法則の限界とその先について、多くの示唆を与えるものとなりました。この記事ではその講演の内容をダイジェストで紹介します。

Publickey 新野淳一

Publickey 新野淳一

ITジャーナリスト/Publickeyブロガー。大学でUNIXを学び、株式会社アスキーに入社。データベースのテクニカルサポート、月刊アスキーNT編集部 副編集長などを経て1998年退社、フリーランスライターに。2000年、株式会社アットマーク・アイティ設立に参画、オンラインメディア部門の役員として2007年にIPOを実現、2008年に退社。再びフリーランスとして独立し、2009年にブログメディアPublickeyを開始。現在に至る。

ポスト・ムーア法則時代のコンピューティング

 国立情報学研究所の佐藤と申します。

 国立情報学研究所というのはコンピュータサイエンスに関する大学で、この分野では国内で一番目か二番目の規模になると思います。

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 今日のお話は、ムーアの法則が限界に来ているなかで、ソフトウェアの技術者の方々がなにをすべきか、ということを中心にしていこうと思います。

ムーアの法則は終焉するのか?

 これまでに何度もムーアの法則限界説が流れていて、そのたびに半導体業界はそれをなんとか乗り越えてきたので、ここでまたムーアの法則が限界だという話をすると、オオカミ少年だと言われてしまうかもしれません。

 ただ今回はかなり深刻な状況になっています。

 その前にまず、ムーアの法則とは何かということを説明しておくと、インテルの共同創業者のゴードン・ムーアという人が50年前に、1つのチップ上の半導体の数、つまりトランジスタの数は毎年倍増すると予測したものです。倍増するペースはそのあと18か月から2年に修正されました。

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 トランジスタの数はたしかにこの通りに増えていったのですが、他方で半導体業界は総力を挙げてこのムーアの法則を満足させるために技術革新を行っていたわけです。

 ムーアの法則にどんなメリットがあったかというと、「スケーリング則」というのがあります。

 これは、半導体の回路をk分の1に細かくすると、細かくした分だけ動作速度がk倍あがり、回路の集積度はkの二乗になり、一方で消費電力がk分の1に下がる、というものです。

 これによって、コンピュータの高速化や高機能化、小型化、省電力化、大容量化、低価格化などが実現されてきたわけです。

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 メインフレームからミニコンになり、パソコン、そしてスマートフォンになり、小型化と同時に計算速度が上昇したのはムーアの法則によるものです。ソフトウェア技術者の立場では、少々動作の遅いソフトウェアであっても将来はコンピュータの性能があがるので大丈夫だろうというエクスキューズが使えました。

 これが成立しなくなるとすると、大きな問題です。

 実際にムーアの法則に沿って、微細化は順調に進んできました。これまで何度も危機説が出ましたが、そのたびに半導体技術者たちが解決してきました。

 しかし、この微細化のスピードが落ちてきました。

 微細化のスピードが落ちてくると何が起きるかというと、ひとことで言うとコンピュータの性能があがらなくなってくる。現代社会はコンピュータに依存しているので、ITを用いたイノベーションも停滞するということにもなります。

 で、いま問題になっているのは実は半導体製造技術の限界ではなく、電力的な限界と経済的な限界です。この2つがきわめて深刻になっているのが現状です。

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半導体製造技術の現状

 話を進める前に、半導体製造技術の現状を見ておきましょう。

 現在、パソコンに内蔵されている最新のプロセッサは14nmの製造技術で作られています。

 半導体回路の微細化は、おそらく10nmくらいまでは現状の延長線上で進むでしょう。その先は技術を変えていかなくてはなりません。

 半導体の回路はどう作られているかというと、回路図のスライドのようなものに光を当て、半導体の方には光に反応する薬品を塗って、写真を焼き付けるように回路を作っていきます。

 回路は非常に細かいので、焼き付ける光には特殊なレーザー光線を使うのですが、光の波長には限界があるので、ある細かさになると波長を非常に短いものにしなければなりません。

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 いまはその過渡期にあって、これからEUVと呼ばれているものに変えるところですが、これがまた技術的に上手くいっていないところもあり、また高価にもなってきています。

 そして微細化が5nm以下になると物理的な限界がきて、この先の微細化はないんです。この先もっと微細化を進めようとすると何らかのブレイクスルーが必要ですが、物性に関する研究はITと違って時間がかかる。この2~3年でブレイクスルーがなければ見通しは暗いでしょう。

電力的な限界で現れるダークシリコン

 ここからお話しするのは、先に触れた電力的な限界と経済的な限界です。

 半導体の回路が細かくなると速度が上がって消費電力が下がるスケーリング則の話をしましたが、実は2000年代中頃からこれが成立しなくなってきています。半導体を微細化していくとクロックを速くできるはずなのに停滞し始めていて、いまはむしろクロックが下がっています。さらに消費電力も下がらなくなってきています。

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 例えば28nmで作ったプロセッサの消費電力がだいたい90ワットだとすると、16nmになってもスケーリング則が成立していれば消費電力も一緒に下がるので、消費電力はそれほど変わらないはずでした。

 しかし微細化しても消費電力が下がらなくなるということは、例えば90ワットのプロセッサの回路を半分に微細化すると消費電力が4倍になります。では360ワットのプロセッサが作れるかというと、それでは冷却装置が追いつかないので作れません。

 すると、せっかく微細化してトランジスタが増えたのに、全部のトランジスタを動かすと消費電力が増えて発熱して動かないので、使わない回路を増やします。活性化率が低い回路を作るわけです。これが「ダークシリコン」という問題です。

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 最新の14nmのプロセッサでは、約半分がダークシリコンだと言われています。これが10nm、7nmと微細化が進むとさらに増えていきます。

 ダークシリコンを活かすには、プロセッサの消費電力を下げるために全体の動作クロックを下げ、メニーコア化するという方法もとられています。キャッシュやメモリとして使うという方法もあります。

 また、いわゆるスマフォのプロセッサはほとんどが入出力用の周辺回路で、コアはごく一部です。周辺回路は活性化率が低いので、それらをうまく使えます。

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微細化してもスマフォ用途以外はコストが見合わない

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