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  • 2018/12/11 掲載

昭和電工CTO 田中淳のノウハウ「失敗には2種類ある、挑戦した結果の失敗は恐れるな」

日本が誇るフェロー・CTOに学ぶ

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フェロー、最高技術責任者(CTO)の高い業績の背景には、独自の考え方や思考・行動の原則にノウハウがある。これらのノウハウには、企業の創造力やイノベーション力を高めるパワーがある。そして、日本を元気にするヒントがある。本連載では、フェロー、CTOが自らのノウハウを語っていただく。今回は、昭和電工 取締役常務執行役員 CTOを務める田中 淳氏に話を聞いた。田中氏は研究開発者時代、問題の原因を徹底して探求する姿勢で幾度も大きな成果を上げ、現在はCTOとして研究開発全体をリードしている。

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役
経営コンサルタント

大手コンサルティング会社を経て、現職。
製造業、情報サービス業などの、事業戦略、IT戦略、新規事業開発、業務革新、人材育成に関わるコンサルティングを行っている。
公益財団法人 大隅基礎科学創成財団 理事。
関連著書『正しい質問』アマゾン、『イノベーションのリアル』ビジネス+IT、『ダイレクト・コミュニケーションで知的生産性を飛躍的に向上させる 研究開発革新』日刊工業新聞、等

アクト・コンサルティング
Webサイト: http://www.act-consulting.co.jp

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昭和電工
取締役常務執行役員 最高技術責任者(CTO)
田中 淳氏

研究で大切なのは、方向を決める「原理原則」

(アクト・コンサルティング 野間 彰氏)──昭和電工はアルミやカーボン、セラミックスなどの金属や無機系の素材から、有機化学と高分子化学、さらにはLEDなどのデバイスまで、幅広く事業を展開する稀有な企業です。

 田中さんは研究者時代にいくつもの画期的な生産技術を編み出し、2017年からはCTOとして研究開発全体を牽引され立場にあるわけですが、成果を上げるために日頃から意識してきたことはあるのでしょうか。


田中 淳氏(以下、田中氏):常に「理念」に基づく「信念」、信念に基づく「執念」の3つの「念」を心に留めています。

 理念とは原理原則のこと。これがあって初めて、信念を持ち研究に打ち込むことができます。もちろん簡単には結果が出ないこともあります。そこで、執念を持って最後までやり遂げようというわけです。富山にある関連会社、昭和タイタニウム(現・昭和電工セラミックス)にいた約20年前に知った言葉なのですが、「確かにそうだ」と感服しました。

──実際に執念を持って最後までやり遂げた体験があったのでしょうか。

田中氏:セラミックスコンデンサ用のとある素材開発の研究がそうです。素材のさらなる微細化が求められ、その手法は研究レベルではすでに広く知られていました。しかし、それをどう量産プロセスに持ち込むのかについて、多くの研究者が苦労していました。もちろん、弊社もその内の1社でした。実験は失敗続きです。そうした中、従来から常識とされたとあるプロセスが「なくていい、いや、あってはならない」とある瞬間に直感的に理解でき、後に昭和タイタニウムの屋台骨を支える商品開発につなげることができました。

 ただ、そこで痛感させられたのが「新しいことを行うには、やはり常に原理原則を振り返ることが大事だ」ということです。なぜ、従来の原理原則の誤りに気づけたのかはうまくは言えませんが、実験が失敗する原因を装置の不備だけでなく原理原則からも考えていなければ、この発見はなかったでしょう。

──原理原則に立ち返る姿勢は、CTOとなった今でも変わりませんか。

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アクト・コンサルティング
取締役 経営コンサルタント
野間 彰氏

田中氏:そうですね。企業の競争優位性は移ろいやすいこともあります。技術や経営を問わず、常に立ち位置を振り返るようにと日頃から社内で説いて回っています。また、そうした観点は「過去から学ぶ」ためにも有効だと感じています。

 私が直接関わったわけではないのですが、弊社でうまくいった判断の代表例が「カーボンナノファイバ事業」です。弊社製品は純度が高くて太く、長い点で非常に高品質だと評価されています。その一方で少し値が張るため、商品化して約10年間は採用がなかなか進みませんでした。社内には事業をやめるべきとの声もあったようです。

 しかし、当時の経営陣は頑として事業を継続しました。将来的に、あらゆるモノの小型化が進み、エネルギー密度が高くなることを見据えた判断でした。その実現の原理原則として、弊社の高品質のカーボンナノファイバが必要になるという考えがあったからです。結果、予想していたような時代が到来したことで、弊社の苦労が実を結ぶことになりました。

──逆に、原理原則ゆえに断念した事業もあるのでしょうか。

田中氏:10年ほど前に撤退した「アルミ電解コンデンサ」がそうです。弊社は最後発ながら、ある材料に特徴を持ち、尖った製品でニッチ市場の開拓を目指しました。実際に製品開発の面では、原理原則に沿っていました。

 ただ、市場に落とし穴がありました。当時、すでに大手は我々の数十倍もの人材をそこに投入し、多数のラインアップを揃えてアルミ電解コンデンサを取り扱っていました。安心感や手間などを考えれば、購買側がどこから調達したいと考えるかは明らかでしょう。しかし、弊社は新市場であるがゆえに、製品の品ぞろえや顧客サービスの重要性にまで気づくことができませんでした。つまり、デバイス事業の戦略上の原理原則としての「マーケティングと品揃えの大切さ」が理解できていなかったのです。

「π型人材になる」 田中氏が考える研究者像

──そもそも、田中さんはどんな技術者を目指していたのですか。

田中氏:キャリア形成の考え方として、一つことを極める「I型」、1つの専門分野に精通しつつ幅広い知識を持つ「T型」、幅広い知識を持ち2つの専門分野を精通する「π(パイ)型」の3つの人材タイプがよく言われます。

 私はπ型人材になることを若いころから指向していました。どの型が良い悪いということではなく、私自身が落ち着きのない、よく言えば関心の幅が広い人間でしたから(笑)。就職先として昭和電工を選んだ理由の1つも、事業領域が非常に多岐にわたり、いろんな経験ができると考えたからです。

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──研究者というと、一つのことを極めるというイメージがあります。

田中氏:そんな意識はまったくありませんでした。実験室に閉じこもった世界にいることは考えられず、モノづくりのあらゆる工程を経験したうえで開発や研究を行うべきだと考えていました。物事の全体像を把握したかったと言えば、分かってもらえるでしょうか。

 特に、私にとって富山時代は、研究とは別の意味で非常に良い経験をすることができました。当時は経営的に厳しく人材も限られ、経理仕事や役所との交渉などにも、そうした経験が皆無の私が駆り出されました。そこでの苦労を通じて、「会社というのは実にさまざまな機能が助け合いつつ成り立っている」ことを身をもって学ぶことができました。

【次ページ】結果を優先するあまりに“思考停止”に陥ることなかれ

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