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  • 2020/11/05 掲載

「やられたらやり返す、倍返しだ」を絶対しないほうがいい、科学的な論拠

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半沢直樹のドラマの第2シリーズが放映され、改めて大きなブームになりました。同ドラマの代表的なセリフと言えば「やられたらやり返す、倍返しだ」でしょう。そのため、実際の仕事でも、理不尽なことを言われたり、自分の意見に耳を傾けてくれないとき、思わず、このセリフが頭に浮かぶ人もいるのではないでしょうか。だが、やり返せば相手との関係が悪化し、我慢すればストレスで自分が押しつぶされてしまいます。『図解ストレス解消大全』を上梓した言語学者の堀田 秀吾氏によれば、そのような場合は、やり返さないほうが賢明なのだといいます。それはなぜか? また、どのようにしてストレスを解消すればいいのでしょうか。科学的な観点から、堀田氏に解説してもらいました。

言語学者 堀田 秀吾

言語学者 堀田 秀吾

言語学者(法言語学、心理言語学)。明治大学教授。1991年、東洋大学文学部英米文学科卒業。1999年、シカゴ大学言語学部博士課程修了(Ph.D. in Linguistics、言語学博士)。2000年、立命館大学法学部助教授、2005年、ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了、2008年同博士課程単位取得退学。2008年、明治大学法学部准教授。2010年、明治大学法学部教授。司法分野におけるコミュニケーションに関して、社会言語学、心理言語学、脳科学などのさまざまな学術分野の知見を融合した多角的な研究を国内外で展開している。また、研究以外の活動も積極的に行っており、企業の顧問や芸能事務所の監修、ワイドショーのレギュラー・コメンテーターなども務める。著書に『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』(クロスメディア・パブリッシング・共著)、『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)、『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)など多数。

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2013年の流行語大賞にもなった「倍返し」は実際はやらないほうがいいという
(Photo/Getty Images)

そもそも権力者は共感に欠ける

 上の立場にいる人が自分の意見になかなか耳を傾けてくれない。そういったストレスフルな経験は少なからず誰にでもあるかと思います。

 悲しいかなというべきか、面白いというべきか、「人は権力を得ると共感に欠ける傾向がある」ことを示したティルブルグ大学のランマーらの権力と共感に関する研究があります。実験では、61人の大学生を、次の2つのグループに分けました。

【グループ1】
自分が権力をもったときの経験を思い出してから課題に臨むグループ

【グループ2】
権力のなさを痛感した経験をしたときを思い出してから課題に臨むグループ

 さらに、【グループ1】【グループ2】双方の半分の被験者には、サイコロを振ってもらい、出た目に応じて報酬が変わるようにしました。そして、出た目は各々が自主的に報告する形にしました。つまり、嘘をつこうと思えば簡単につける状態にしたわけです。

 一方、もう半分の被験者にはサイコロを振らせず、「交通費を多く請求することは倫理的に許せるか、許せないか?」のみを尋ねました。

権力者は、自らは嘘をつき、嘘をつく人は許さない

 すると、サイコロを振って出た目に応じて報酬が変わるようにした半分の被験者では、【グループ1】の権力感を抱いた状態の被験者のほうが【グループ2】の非権力感を抱いた状態の被験者よりも、嘘の報告をする確率が高いという結果が明らかになりました。

 そして、交通費の過剰請求が許せるか許せないか尋ねられたもう半分の被験者は、【グループ1】のほうが【グループ2】よりも厳しい判断をしたのです。

 この結果は、人は権威性をもつと共感力に欠け、自分の行いについては寛容になる一方、他人の行いに対して厳しくなることを示しています。

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共感力に欠ける“権力者の思考”とは?

 実験の被験者の大学生たちが「権力をもったときを思い出す」だけで、このような結果が出たのですから、日ごろから権威をもつ立場にいる人は、さらに自らの存在を大きく考えている可能性が高いといえます。政治家や組織の上層部が聞く耳をもたないのは、そもそも共感力に乏しいからとも言えるわけです。

 ですから、権力者の言動に「どうしてわかってくれないんだ」といったストレスを抱えるのではなく、権力者はそもそも共感力に欠けると割り切り、違うところに労力を注いだほうが賢明と言えそうです。

相手がした態度に、同様の態度で相手に接してしまうワケ

 「倍返しだ」なんてことばが流行しましたが、仕事や生活で嫌なことがあったら、思わず反撃したくなるものです。

 心理学には「返報性」という概念があります。好意、敵意、譲歩、自己開示など相手の態度に対して、自分も同様の態度で相手に返すという傾向です。

 コーネル大学のリーガンは、「返報性」を明らかにしたある実験を行っています。「美術鑑賞」という名目で被験者を募り、被験者に加え、もう1人のサクラである被験者を用意し、「被験者+サクラ」の2人1組で作品の評価をしてもらいます。その際、被験者を次の2つのグループに分けて行いました。

【グループ1】
作品評定の合間の短い休憩中に、サクラが10セントのコーラを1本奢ってあげるグループ

【グループ2】
作品評定の合間の短い休憩中に、サクラが何もしないグループ

 鑑賞後、サクラは被験者に対して、「私は新車が当たるクジつきのチケットを販売しているのですが、よろしければ1枚25セントのチケットを何枚か買ってもらえませんか?」と告げたところ、コーラを渡された【グループ1】は、何も渡されなかった【グループ2】よりも、2倍もの割合でチケットを購入したというのです。

【次ページ】自分から親切にふるまうと相手もそれを返してくれる

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