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  • 2025/06/15 掲載

「iPhoneが市場席巻などありえない」マイクロソフト元CEOはなぜ「背を向けた」のか

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かつてマイクロソフト元CEO、バルマー氏は「iPhoneが市場を席巻することなどありえない」とアップルをあざ笑った。インテル元CEO、グローヴ氏も「携帯電話が全員のポケットに入っているなど、金の亡者の絵空事だ」と発言している。なぜこれほど優秀な経営者たちが、時代の変化を読み間違えてしまったのか。『執行長日記 THE DIARY OF A CEO』を上梓した、起業家のスティーブン・バートレット氏が解説する。目まぐるしい現代社会の変化を活かし、この先の技術革新に取り残されないための方法とは何か。
執筆:起業家 スティーブン・バートレット

起業家 スティーブン・バートレット

イギリスの起業家。40以上の会社に投資し、講演、執筆、コンテンツクリエーターとして活躍。ヨーロッパでランキング第1位のポッドキャスト『The Diary Of A CEO』のホストを務める。弱冠22歳で世界的なデジタルマーケティング会社〈Social Chain〉を設立し、5年後に株式上場。サンフランシスコのソフトウェア会社〈Thirdweb〉、革新的なマーケティング会社〈Flight Story〉を共同設立し、その業績が『フォーブス』『ビジネスインサイダー』『フィナンシャル・タイムズ』『ガーディアン』などに取り上げられる。スマートフォン向けアプリ「FT Edit」のゲスト編集者を務め、『フォーブス』の「30歳未満の特筆すべき30人」に選出。BBCの『Dragon’s Den』(イギリス版『¥マネーの虎』)に最年少で出演。国連、SXSW(世界最大級のビジネスカンファレンス)、TEDxLondon、VTEXデー(電商取引に関する国際イベント)でバラク・オバマとともに登壇。初めての著書『Happy Sexy Millionaire』に続いて、本書『THE DIARY OF A CEO』も発売直後にサンデー・タイムズ紙のベストセラーリスト第1位に輝き、世界累計でミリオンセラーとなる。

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マイクロソフト元CEOは「iPhoneが市場を席巻することなどありえない」とあざ笑っていたが、実際は皆さんご存じの通りだ
(Photo:Framalicious / Shutterstock.com)

マイクロソフトやインテルも…「背を向けた」元CEOたち

「みんな音楽を愛している。だから我々はこの仕事を続ける」
 運命の分かれ道となるこの言葉を口にしたのは、世界最大のCDショップチェーンの元CEO。2階のバルコニーから混雑した店内を見つめていたときだった。

 数年後、世界中に展開していたこの会社は倒産した。

 元CEOの言葉は間違っていない。みんな音楽を愛している。とはいえ雨の中、1時間もかけて店まで行き、混雑した店内をかき分けるようにプラスチックの丸い板を手にして、代金を支払うために列に並びたいとは思わない。

 元CEOは客が求めていることを読み違えた。欲しいのは音楽で、CDではなかった。

 2003年春、アップルが開発したデジタル音楽プラットフォームiTunesが登場し、CDの購入層は何の不自由もなく欲しいもの(音楽)を手に入れられるようになった。

 信頼できる情報筋によると、元CEOは端(はな)からデジタル音楽をばかにして、その導入や将来的な脅威について、経営陣と話し合おうともしなかったという。

 ある同業者は指摘する。彼はデジタル音楽を理解できず、あんなものは著作権侵害だ、人々のCDに対する愛情が揺らぐはずはない、そう思いこんで「背を向けた」のだ。

 天文学者のクリフォード・ストールも、インターネットの未来について軽蔑的な予測を立て、ある意味では「背を向けた」と言える。その予測とは、1995年2月に『ニューズウィーク』に発表された次の記事だ。
この最先端の過大評価されたコミュニティに対して、私は不安を否めない。夢想家は在宅勤務、双方向型の図書館、マルチメディア教室が実現する未来を思い描く。電子タウンミーティング、バーチャルコミュニティを語る。買い物やビジネスがショッピングモールやオフィスからネットワークやモデムへ移行する……(中略)なんとばかげたことだ……(中略)……オンラインのデータベースが新聞に取って代わることなど、ありえない。
 だが、やがて『ニューズウィーク』は印刷版の雑誌を廃止し、すべてデジタル版に移行することになる。

 1903年、大手銀行の頭取は明らかに流行に背を向け、フォード・モーターの創業者、ヘンリー・フォードに対して言い放った。
「馬は生活に浸透しているが、自動車は物珍しいだけだ──単なるブームにすぎない」
 1992年には、インテルの元CEO、アンドルー・グローヴも流行に背を向け、「携帯電話が全員のポケットに入っているなど、金の亡者の絵空事だ」と発言している。

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インテル元CEOは「携帯電話が全員のポケットに入っているなど、金の亡者の絵空事だ」と背を向けた
(Photo:Tada Images / Shutterstock.com)

 そしてマイクロソフトの元CEO、スティーブン・バルマーも、「iPhoneが市場を席巻することなどありえない」と、アップルをあざ笑った。

「SNSなど危険すぎる」と言った世界的ブランドは破産申請

 19歳のとき、私は世界的なファッション・ブランドのロンドン・オフィスで打ち合わせをしていた。2012年、顧客のあいだではSNSが流行していたが、企業側は後れをとっていた。新しい技術においては珍しいことではない。

 その日の目的は、ブランドのマーケティング部門、つまりマーケティング部長を説得して、SNSの影響力をもっと真剣に考えてもらうことだった。具体的には、自社のSNSを始めること。だが、失敗に終わった。私は非難され、ばかにされ、追い払われた。

 私が説得を試みたマーケティング部長は、見るからに怯えていた。「誰もが我が社の投稿にコメントして、批判できるようになるということか? 我々のブランドの口コミが広がるようなことはしたくない。どうやってコントロールしろと言うんだ?」。部長は首を振って続けた。「我々の商品は雑誌の広告でじゅうぶん売れている。SNSなど危険すぎる」

 部長は私のプレゼンを途中で打ち切って、二度と連絡してこなかった。

 その後、私の会社はますます拡大し、間違いなく業界で最も勢いのあるマーケティング企業となった。

 あの日、私が訪ねたブランドは2019年に破産申請をした。

 私に言わせると、背を向けるという行為は「間違っている」わけではない。ただ、自分が正しいはずだと頭から信じてかかり、新たな情報に耳をかたむけず、学ぶことも注意を向けることもせずにいるだけだ。

 これは単なる傲慢さではない。あいにく、人間にはよくあることだ。重要な、ひょっとしたら自分に必要不可欠な情報から目をそむけるのは、心理学用語で「認知的不協和」と呼ばれる現象が生じるからだ。 【次ページ】認知的不協和を避ける実用的なテクニックとは?
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