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- 2025/06/10 掲載
「世界初の汎用AIエージェント」を豪語、中国発「Manus」がヤバすぎる理由
バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
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中国発の自律型AIエージェント「Manus」とは?
2025年3月5日に中国のAIスタートアップButterfly Effectが公開したAIエージェント「Manus」がAIコミュニティで一躍注目の存在となった。同社が「世界初の汎用AIエージェント」と豪語するもので、OpenAIの「Deep Research」のパフォーマンスを超えるとされる。Butterfly Effectは、北京と武漢に拠点を置く従業員数わずか数十名の企業。創業者のシャオ・ホン氏は33歳。武漢の華中科技大学を2015年に卒業後、WeChat向けアプリケーションを開発し、大手企業による買収を経験した連続起業家だ。その後、ブラウザ拡張機能とモバイルアプリとして提供されるAIアシスタント「Monica.ai」を立ち上げている。
Manusは、アンソロピックのClaude 3.5 Sonnetと、アリババのQwenモデルをベースに構築されたマルチエージェントシステムで、最新モデルのClaude 3.7への移行テストも進行中とされる。
The Rundown AIのニュースレター創設者ロワン・チャン氏は、Manusのローンチを「AIエージェントの転換点となる可能性がある」と評価。「中国における2度目のDeepSeekモーメントが到来した」と述べるなど、大きな期待を寄せる。
チャン氏自身がManusを試用したところ、リアルタイムのデータ取得による自己紹介サイトの作成・デプロイや、犯罪発生率やAI産業の存在感、起業家の密度を考慮したサンフランシスコの賃貸物件探しなど、複雑なタスクを高精度で実行できたという。
元グーグル社員で、現在はAI関連のYouTuberとして活動するビラワル・シドゥ氏も、「これまで見た中で最も自律的なAIエージェントに近い」と評価している。実際にシドゥ氏は、グーグルマップやニュースソースを活用した場所の調査、ビデオエフェクトの自動化、さらにはRedditやXなどからデータを抽出した包括的なレポート作成など、多岐にわたるタスクでManusをテストし、それなりの成果を得たと報告している。
限定提供から一般公開へ、Manusの評価は?
Butterfly Effectは2025年4月、iOSとAndroidアプリ、そしてWebサイトを通じて、Manusの一般公開を開始した。新規登録ユーザーには1000クレジットが付与され、無料でサービスを試用できる。ただし、単純なタスクでも1回の実行に約300クレジットを消費するため、無料枠では3~4回程度の利用にとどまる。サブスクリプションは2段階の料金体系を採用。「Manus Starter」は月額39ドル=約5,658円(約3900クレジット、2タスク同時実行)、「Manus Pro」は月額199ドル=2万8,873円(約1万9000クレジット、5タスク同時実行)となっている。この価格設定については「法外に高い」と指摘する声も少なくない。
RedditのManusに関するスレッドでは、ユーザーの評価は二分されており、課題を指摘する声のほうが若干多い印象だ。ある開発者は「グーグルマップからレビューのあるレストランをピックアップしてWebフォームに入力する」という作業を自動化するタスクを実行させたところ、400クレジットを消費したものの、データ入力は4件にとどまった。一方、OpenAIのOperatorでは8件処理できたという。
さらに、アイルランド・コークのイングリッシュマーケット周辺の物件を探すタスクに挑戦したユーザーからは、「物件の実用的な情報は提供されず、代わりに街の歴史や市場についての長文レポートを生成した」とする声もあがった。一方で「3時間かかる作業を10分で完了できた」と、作業効率の向上を評価する声も聞かれる。
Butterfly Effectは、Manusのユースケースとして、日本への旅行計画や、パーソナライズされたガイドブック作成、データベースの情報整理、株式分析のダッシュボード生成、人事面接のスケジュール調整などを挙げている。しかし実際にユーザーらが検証したところでは、レストランの予約や格闘ゲームの開発など、単純なタスクから複雑なタスクまで、多くの試みが失敗に終わったと報告されている。
Corpora.aiのCEOメル・モリス氏は、「Manusのデモは、エージェンティックAIの可能性を示す重要な一歩だが、自律性を持つAIエージェントに独立した行動を許可することには深刻な懸念が残る」と指摘。生成AIや推論モデルの出力に欠陥があるケースも散見され、株式の売買など重要なタスクの自動化には慎重な姿勢を示している。 【次ページ】課題浮き彫りに、クレジット消費と画像認識の壁
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