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  • 2021/11/19 掲載

味の素も取り組む、人・環境・利益のトリプルボトムラインとパーパス経営の関係

連載:「真」サステナビリティ戦略

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いま、日本に限らず世界中の企業はサステナビリティ、ESG、SDGsという、大きな変革の必要性に直面しています。しかし、実際に企業経営の現場、規制側の最前線の声を聞いてみると、そこには興味深いストーリーが流れているように見えます。伝統ある大手日本企業が、自社がサステナビリティという考え方にどう向かうべきか、3回に分けて対応すべき課題と解決の方向性を検討します。第1回のテーマは「サステナビリティを考えるための枠組みと今起こっていること」です。企業経営者の視点でサステナビリティについてどう考えるべきか。弊社が使っているフレームワークで整理して、その全体像を示します。

執筆:OXYGY 代表取締役/アジアパシフィック代表パートナー 太田信之

執筆:OXYGY 代表取締役/アジアパシフィック代表パートナー 太田信之

1966年、東京都出身。国際基督教大学卒業後、ソニーに入社。イタリア駐在時にマーケティング部門でマネジャーを務める。その後、GEにて事業開発や事業統合の業務を経験。複数のコンサルティングファームを経て、外資系コンサルティングファームのValeoconManagement Consultingのアジア代表に就任。同社経営陣の一員として、M&AによりOXYGYを設立、アジアパシフィック代表を務める。2019年から現職。専門セクターは、ライフサイエンス、製造業(特に素材、部品、食品)。実施内容は会社、事業単位でのトランスフォーメーション。

OXYGYの企業ぺージ

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現状の企業の環境や社会への取り組みは不十分だとして、「トリプルボトムライン」提唱者のジョン・エルキントン自身が「リコール(返品・交換要求)」を行った
(写真:Paolo Pellegrin/Magnum Photos/アフロ)

トリプルボトムラインの「リコール」:何が欠陥を生んだのか?


「何を言ってるの?People, Planet, Profitでしょ!」

 現在、私たちOXYGYは、欧州でとあるプロジェクトに取り組んでいます。上記の言葉は、その方向性について、CEOが部下(といっても役員レベルですが)から否定的な意見が寄せられたことにピシャリと言い放ったチャットです。知ってか知らずか、CEOは出席者全員にこの一文を返信したのです。

 People, Planet, Profitとは、一見矛盾する「人々(社会)」「地球(環境)」「利益」をバランスさせること。今ではサステナビリティに取り組む多くの企業で使われている考え方で、起業家であり作家のジョン・エルキントンが「トリプルボトムライン」という言葉とともに提唱しました。

 私たちはいま欧州でトップのグローバルアパレルメーカーとともに、アパレル業界に関連するさまざまな企業(たとえば金融機関も含めて)が集まって、「既存のアパレル業界を破壊する」ことを目的にした業際的な活動をしています。

 そのコンセプトの説明をしたところ、「そんなことはできない」「されては困る」と考えた役員が、CEOに対して「このプロジェクトに乗るべきではない」と進言したダイレクトメッセージが、くしくも全員に共有されてしまったわけです。

 知ってか知らずかCEOが、全員に共有する形のチャットで、ピシャリと返したという場面です。「何を言ってるのよ?人々と地球のためになり、そして利益も会社として維持するために考えるこのプロジェクトの意味が分からないなんて!」と言いたかったのだろうと、想像しました。

 実は、このPeople, Planet, Profitという言葉自体を提唱したエルキントン自身が、この考え方が社会の中で欠陥品となったとして「リコール」した、ということをご存じでしょうか?その発表は、2018年6月25日号のハーバードビジネスレビューに掲載されました(注:日本語版には掲載されていません)。

 その趣旨は、資本主義を超えたまったく新しい発想で、利益は一定にしつつ、人々と地球にとってよりよいことをするというトリプルボトムラインが目指した革新性がそがれているということ。そして、単なるレポーティングツールになり、結果的に当初期待した破壊的イノベーションの創出につながらなくなったと判断したからだということです。

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企業は「利益」だけでなく、「人」や「環境」への配慮も十分に行う必要がある
(Photo/Getty Images)

味の素におけるサステナビリティ:会社が目指すことは何か?

 企業が生き残り、存続するためには最低限の利益は必要です。しかし、その利益を重要視するがあまり、3つの要素をバランスすることに主眼が置かれるようになってしまった、ということなのですが、ここに重要なポイントがあります。会社が目指すことは何か、ということです。

 日本を代表する食品メーカー、味の素は食品業界で「グローバルトップ10を目指す」ということを掲げて成長戦略に舵を切りました。2017-19年の中期経営計画です。

 しかし、2019年の統合報告書でその達成の難しさを共有しました。その後ASV(Ajinomoto Group Shared Value)と呼ばれる「社会課題を解決し、社会と共有する価値を創造する」活動に取り組み始め、規模の追求であったグローバルトップ10という考え方を捨て去りました。

 現在はASVの考え方にのっとり「2030年に食と健康の課題解決にあらゆる経営資源を集中」し、デジタルの力を借りながら、オペレーション全般の変革を推進していく活動に切り替えました。

 改革はまだ道半ばかもしれませんが、現在の同社の株価は過去最高に迫る勢いであり、ROIC他各種財務指標も好調です。エルキントン自身の提唱した、リコール前のオリジナルに近い考え方を踏襲し、実践し、成果を上げつつあると言えそうです。

 結果として、人々・地球・利益の3つだけでなく、自社そのものが持続的に成長してゆく、文字通りサステイナブルな成長基盤を作り、その目指すASVの実現のために社内外の関連企業・人財がまとまっているかのようです。

【次ページ】サステイナブルを考えるための枠組み

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