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  • 2022/03/07

なぜ「医療デジタル化」が遅れるのか? 1万2000人調査が示す日本の課題と解決策とは

デジタル技術を活用して、提供する医療サービスの高度化を図る取り組みが世界各地で活発化している。ただ、日本の現状は、他国と比べてヘルスケア領域のデジタル技術の利用がかなり後れている。アクセンチュアが実施したグローバル調査の結果を踏まえ、日本における医療分野のデジタル化進展の課題とその解決法、今後目指すべき将来像を探る。

ITジャーナリスト 田中克己

ITジャーナリスト 田中克己

日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長、主任編集委員などを歴任し、2010年1月からフリーのIT産業ジャーナリストとして活動を始める。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)、2012年度から一般社団法人ITビジネス研究会代表理事を務めるなど、40年にわたりIT産業の動向をウォッチする。主な著書に「IT産業再生の針路」「IT産業崩壊の危機」(ともに日経BP社)がある。

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「医療分野デジタル化」の課題とは
(Photo/Getty Images)

医療機関が「サービス業」? 日本の医療サービスの特徴

 アクセンチュアが、世界14カ国の1万2000人を対象にインターネットで実施し、2022年2月発表した「ヘルスケアに対する意識・行動に関する調査」の結果から「医療分野のデジタル化」についてみていこう。

 約800人の日本人が回答した結果から、グローバル平均と比較した日本人の特徴が浮かび上がっている。たとえば、日本は世界に比べて、医療機関でのネガティブな体験として「診察が非効率だった」「コストに驚いた」「場所が遠すぎる」などを挙げることが多かった。

 一方、医療機関におけるポジティブな体験としては「効率的な診療」「手頃な価格」「清潔で快適な診療室」などを高く評価しているという。

 こうした傾向を踏まえ、アクセンチュアのビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループ・マネジング・ディレクターの藤井 篤之氏は「専門性よりもサービスを重視する傾向にある」と説明する。同氏が、サービス業としての医療機関を評価する分かりやすい例として挙げたのが「処方箋の服用目的」だ。

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服用中の薬剤への理解度、説明への満足度の国別比較
(出典:アクセンチュア講演資料より)

 自身が服用している薬剤の目的を理解している人や医療提供者と薬剤師から薬剤の服用方法について適切な説明を受けていると感じている人の割合を国別で比べたところ、日本では「処方薬の服用目的への理解度、医療機関からの説明への満足度がともに低い」ことが明らかとなった。

デジタル技術の利用意向が低い日本、その理由は?

 藤井氏が日本の特徴として挙げた傾向のもう1つの例が「医療へのアクセス」である。同調査では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前後での医療アクセスの変化を尋ねている。それによると「グローバル平均では約20%が改善しているのに対し、日本で改善したと答えた人の割合はわずか6%程度」と顕著に低かったという。

 日本は国民皆保険制度によって、どの医療機関でも公的保険を使って自由に医療機関を選択する「フリーアクセス」が可能だ。「プライマリーケア医(かかりつけ医)制度」が根付いている他国と比較すると、多くの人がどの病院のどの医師に診察してもらうのかが分からず、医療機関に対して収集できる情報が限られていることが挙げられる。

 その根底には、ヘルスケア領域におけるデジタル技術の利用率の低さがあると考えられる。同調査によると、過去1年以内に健康管理にデジタル技術を使った経験を尋ねたところ、グローバル平均が6割であったのに対し、日本は4割弱にとどまっている。

 デジタル技術ごとに見ると、特に「オンライン診療」「電子健康記録」「ウエアラブル技術」の活用経験は、世界の半分程度と大差がついている。「日本のデジタル化が後れていると言わざるを得ない」(藤井氏)

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日本のデジタルヘルス利用意向と利用経験。過去1年以内で、健康管理にデジタル技術を使用した人の割合と実際に利用した技術のグローバル平均との比較結果
(出典:アクセンチュア講演資料より)

 また、「デジタル技術を利用したい」と考える日本人自体が少ないという。同調査によると、日本人のデジタル技術の利用意向は14カ国中最下位となっている。利用意向の低さが、そのまま利用経験の低さにつながっていると言えるだろう。

 ただ、2000年以降に生まれたミレニアム世代については、それ以前の世代より利用経験も利用意向も高い。日本でヘルスケア領域におけるデジタル技術の活用を拡大させるためには、利用意向の喚起が課題だといえる。たとえば、ニーズが高い診療の効率化に寄与する「オンライン診療」や、デジタルヘルス利用への関心が高い「病気の予防」などの領域で積極的に推進することが考えられる。

医療デジタル化進展のカギを握る「データ連携」

 デジタルヘルスの利用促進では、プライバシーや安全性などの不安材料を解消することも必要だ。ここからは、日本のデジタル化を阻む理由をもう少し深掘りしていく。

 まず挙げられるのが「データのセキュリティ」だ。特に、個人のヘルスデータを預かる第三者機関がどう安全に管理するかが問われる。今回の調査では「ヘルスケアデータの預け先として信頼できるか」を事業者別に尋ねている。

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日本のデジタルヘルス利用の課題である「データセキュリティへの信頼」。「ヘルスケアデータの預け先として信頼できるか」に関する回答結果の比較
(出典:アクセンチュア講演資料より)

 それによると、第三者が個人のヘルスケアデータを安全に管理することに対する信頼度は、グローバル平均に比べて全般的に低い。国や自治体に対する信頼度はグローバル平均と比べて3分の1、また、医師や病院、薬剤師への信頼度は半分程度という結果となった。

 さらに、医療分野でも活用範囲が広がっている「AI(人工知能)」に関しても不安を持つ日本人は少なくない。日本では、診断だけでなくカルテ記載補助などの管理目的でも同様の傾向であることが分かっている。

 そうした状況下で、日本においてデジタルヘルスは普及するだろうか。アクセンチュアの執行役員ビジネスコンサルティング本部ストラテジーグループ日本統括兼ライフサイエンス プラクティス日本統括の石川雅崇氏は、デジタルヘルスの普及が遅れている理由として、検査の多さに着目する。

 日本の受診回数はOECD(経済協力開発機構)平均の2倍にもなる。石川氏は「医療へのアクセスの良さが受診を増やし、デジタル技術活用の動機を下げている。一方、専門医が病院や入院などの必要性を判断するゲートキーパー制の国は、検査頻度が低く、オンライン診療などデジタルの利用率が高い傾向にある」と説明する。

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日本のデジタルヘルス利用意向と利用経験。過去1年以内で、健康管理にデジタル技術を使用した人の割合と実際に利用した技術のグローバル平均との比較結果
(出典:アクセンチュア講演資料より)

【次ページ】データ統合の基盤整備の後れも改善が求められる

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