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  • 2022/08/19 掲載

KDDIの通信障害、「おわびの44円」に垣間見えた「体質」とは?

大関暁夫のビジネス甘辛時評

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7月に発生し完全復旧までに86時間を要したKDDIの大通信障害は、利用者宛て一律200円の通信料割り戻しという補償の発表によって、一件落着の流れとなったかのような様相を呈しています。しかし私は、KDDIが提示した今回の大事故に関する1人あたり200円の補償案は、業界三大キャリアの一角が起こした過去最大規模の通信障害の補償としては、違和感を拭いきれない対応ではなかったかと受け止めています。今回は、補償案から読み解くKDDIの危機管理姿勢と、同社ならではの「企業体質」について解説します。

執筆:企業アナリスト 大関暁夫

執筆:企業アナリスト 大関暁夫

株式会社スタジオ02代表取締役。東北大学経済学部卒。 1984年横浜銀行に入り企画部門、営業部門の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時にはいわゆるMOF担を兼務し、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。2006年支店長職をひと区切りとして独立し、経営アドバイザー業務に従事。上場ベンチャー企業役員を務めるなど、多くの企業で支援実績を積み上げた。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業などのアドバイザリーをする傍ら、出身の有名進学校、大学、銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆やコメンテーターを務めている。

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通信障害によるKDDIの補償案を読み解く
(写真:つのだよしお/アフロ)

200円の意味を考える

 私が感じる違和感は、200円という補償金額そのものについてのものではありません。KDDIが公表した補償金額の考え方に関して、杓子(しゃくし)定規な儀礼主義的思考の結果として出された200円ではないのか、との疑問を感じたのです。順を追って説明します。

 まず大前提として、今回の通信障害については各所で昨年10月に起きたドコモの通信障害との比較がされていますが、KDDIのケースはこれとはまったく比較にならない別次元の大事故であったと捉えるべきものと考えています。

 ドコモの場合、完全に利用できなかった時間は2時間20分、影響を受けたのは約100万人。「利用しづらい状況」を含めた影響規模は、音声が約460万人、データ通信は約830万人と報告されています。全面復旧には29時間を要したものの、障害発生後夜間の12時間で4G、5G通信は回復し、日中への影響は最小限に抑えられている点は重要なポイントとなります。

 一方のKDDIは障害復旧に61時間、全面復旧までに86時間、影響規模は音声が2278万人、データ通信が765万人、計3000万人を超える範囲に及んでいます。最大の問題は、ドコモのケースとは異なり利用者の主な利用時間である日中の時間帯で2日間もの間、ほぼ通信不能であった点です。これには医療機関、運輸業はじめau回線を利用する多くの事業の現場において業務に支障をきたすなど、過去に例を見ない大きな影響が及んだのです。総務省がドコモのケースも今回のKDDIも、同じ電気通信事業法上の「重大な事故」としているので同程度の事故に思われがちですが、中身は雲泥の差であると言えるでしょう。

 ドコモのケースでは、補償は発生していません。これは影響の範囲が約款における返金には該当しなかったからです。ドコモはこの点について、「利用できなかった時間は2時間20分であり、『利用しづらい状況』については通信自体はできる状態だったことから、約款が定める返金の対象にはならない」と説明しています。ドコモの通信障害も世間的には大きな事故として捉えられましたが、約款上で補償が発生するレベルではなかったのです。

 KDDIの事故は、約款上で補償が発生したことからも大事故レベルであったと言えます。補償義務が生じるというのは、通信業者としての責務を果たしていないのと同義語であり、すなわち通信業者としてあってはならないレベルの事故を起こしたとも言えるのです。

「おわびの気持ち」としての金額は

 そんな状況下で、補償の実施を発表した高橋誠社長から、「補償額は約款返金の平均である52円をベースに検討し、その3日分156円という金額におわびの意味を込めて200円という数字にした」と補償額200円の根拠が示されています。実はこの重大事故に対する補償額決定の論理こそ、個人的に引っかかった最大のポイントなのです。

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補償について説明する髙橋社長
(写真:つのだよしお/アフロ)

 繰り返しますが、問題にしているのは200円の多寡ではありません。156円については高橋社長の説明通り、約款に基づいた法的根拠のある補償額なのでここに問題はありません。引っかかるのは、200円との差額である44円です。社長は「おわびの意味を込めて」という言い方で、この44円を説明しました。すなわち社長の物言いからは、利用者の3日間の利用機会損失に対する法的賠償は156円で、企業サイドからの「おわび」が44円なのだということになるわけです。

 日本の通信事業の一翼を担う三大キャリアの一角があってはならないレベルの事故を起こし、その「おわびの気持ち」が利用者1人あたり44円?高橋社長はなぜこの追加の44円を「おわび」と言ったのか、私には実に不可解なのです。本来、この規模の大事故に対する「おわび」として、KDDIほどの大企業が提示する金額が「44円」というのはちょっとあり得ないレベル感ではないでしょうか。

 仮に銀行が一方的な事務ミスをして利用者に156円の損害を与えたときに、損害の賠償と共に「おわび」のしるしに44円を加えて200円お返ししますと言ったら、「客をバカにしているのか」と言われるかもしれません。つまり私が感じた違和感は、「44円」は大企業が「おわび」として利用者に提示すべきものではないだろう、ということなのです。

【次ページ】金額決定の背景にある〇〇的発想

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