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  • 2022/09/20 掲載

ガソリン車の代替は大間違い、EVは「社会を変える」乗り物と言えるワケ

連載:EV最前線~ビジネスと社会はどう変わるのか

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電気自動車(EV)は、ガソリンエンジン車と変わらず長い歴史を持つことをご存じだろうか。EVのほうが古いとの説も有力だ。実は、20世紀初頭にはEVのほうが高性能で、時速100kmを先に実現したのもEVであった。それでもなかなか時代の中心になれなかったのは、バッテリー技術の停滞による。日本でリチウムイオンバッテリーが実用化され、時代は大きく変わった現在。EV時代がまさに幕を開けようとしている今、EVが持つ可能性について改めて考えてみたい。

執筆:モータージャーナリスト 御堀 直嗣

執筆:モータージャーナリスト 御堀 直嗣

1955年(昭和30年)生まれ。玉川大学工学部機械工学科流体工学研究室卒業。1978~81年フォーミュラレースに参戦、81年にFJ1600で優勝。84年からフリーランスライター。著書29冊。一般社団法人日本EVクラブ理事。NPOトリウム熔融塩国際フォーラム会員。日本モータースポーツ記者会会員。公益社団法人自動車技術会会員。自動車を含め環境やエネルギー問題に取り組む。

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自社のEV戦略を説明するトヨタの豊田章男社長

エンジン車とは別物となぜ言えるのか

 国内外の自動車メーカーはもちろん、アップルやソニーなど、異業種の参入も話題になって活気づくEV市場。先日、トヨタの新型EVである「bZ3」のデザインがネット上で判明するや否や大きな話題を呼んだように、EVに対する人々の注目度は高く、今後も社会でますますEVが普及していくことは想像に難くないだろう。

 そんなEVについて、私たちは、脱・二酸化炭素(CO2)のためのエンジン車の単なる代替策と捉えるべきではない。ハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)などと比べても、まったく別であると考えるべきだ。

 理由の1つは、構造上の違いである。2つ目は、果たすべき役割においてだ。付随して、燃料の供給(EVでは充電)に必要な社会基盤の在り方も異なる。3つ目に、人々の暮らしが変わる。

 以上3つの視点において、エンジン車、HV、FCVは、20世紀の石油の時代に築き上げられた社会構造を踏襲するクルマでもある。

 EVは、エンジン車やHVに対し、排出ガスを出さない点でFCVとひとくくりにされがちだ。しかし、車載する機器の違いにより、設計の自由度でFCVに勝る。

 EVに必要なのは、駆動用モーター、モーターに電力を供給するバッテリー、そしてモーター制御する装置だ。加えて、バッテリーへの充電装置も車載する。ただし、ここでいう充電とは、家庭などで行う200Vの普通充電と呼ぶ方式だ。

 それら以外、車体、サスペンション、運転操作のためのハンドルやペダルなどは、エンジン車を含め、これまでのクルマと共通と考えていい。それでも、テスラのように、スイッチ類をほとんど省き、液晶画面上のタッチ操作で多くのことを賄えるのは、EVならではの特徴だろう。当然ながら、エンジン車やHVで必要だった、ガソリンタンクなどの燃料系や、排気系、排気を浄化する触媒、変速機などはEVで不要になる。

 そして、EVに車載するこれらの部品は、ほぼ平面状に並べることができる。したがって、室内の床を真っ平らにできるのも特徴だ。モーターや充電装置には若干の高さがあるが、形は簡素で、あまりかさばらない。一見したところ、EVは、平らな床構造に収められた部品の上に、客室が載る印象だ。これまで以上に客室空間を大きく確保できる。あるいは荷室の容量を大きくとることも期待できる。このことは、商用車にも適応できる。

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車内の床をフラットにできるのはEVならではの特徴だ

 この構造上の特徴は、FCVでさえ持ち合わせていない。

 FCVは燃料の水素ガスを70MPa(約700気圧)という高圧で保管しなければならない。高圧ガスタンクは円筒形である必要があり、バッテリーのように平らに床に並べることができない。このため、客室や荷室の広さに制約が生じてしまうのである。

 車体の外観に関しても、EVは制限が少ない。もちろん、空気抵抗を減らすうえで流麗な流線形のデザインが必要になるかもしれない。だが、客室の前にエンジンを載せたり、それを冷却するラジエーターなどが不要になったりするので、造形はより自由に創造できる。ただ、テスラは従来からのクルマの印象をある程度残すべく、造形の陰影によってあえてクルマの顔つきを特徴付けている。

電力インフラの役割も担う時代に

 次に、EVが果たす役割や、特徴的な機能について見ていきたい。

 EVの第一の役目は、個人が自由に移動できる乗り物であることだ。これは言うまでもなく従来と変わらない。移動の際、エンジン車やHVのような排気を出さないので、大気汚染や、CO2排出をなくすことができる。この点は、FCVも同様である。

 そのうえで、EVは大容量のバッテリーを車載するので、蓄電機能を備える。ここがほかとの大きな違いだ。

 蓄電機能により、EVから家庭や施設などへ電力を供給(VtoH=ヴィークル・トゥ・ホーム)できる。これまでのクルマでは考えられなかったエネルギーのやり取りを、車外の施設と関係付けられるのだ。自宅や施設に太陽光発電を設置していれば、日中に太陽光発電で発電したグリーン電力をEVに充電し、電力会社から供給される系統電力に依存せず電気を利用できる。災害など含め停電したときには、EVに充電された電力を自宅や施設側へ供給し、電気製品を継続して使用できる。

 EVで移動しているときはVtoHとして活用できないが、一般的に車は、移動よりも駐車場に止まっている時間が圧倒的に長いとされるため、駐車している間に太陽光発電から充電したり、停電などに対処したりできることは、EVならではの新しい活用法だ。

 万一の備えという点では、一部のHVやFCVも車外への電力供給に対応している車種がある。しかし、EVほど大容量のバッテリーを車載していないので、おのずと供給電力に限界がある。EVは、緊急時だけでなく、日常的に電力供給できる強みがある。

 さらに未来的な構想として、バーチャル・パワー・プラント(VPP)と呼ばれる電力需給の仕組みがある。VPPとは、さまざまな再生可能エネルギーや蓄電池、自家発電装置などの電源を束ね、その地域にまるで大きな1つの発電所があるかのように電力を安定的に供給できる仕組みだ。EVの蓄電能力を1つの社会資本と考え、地域や社会でEVの電力を互いに融通しあうことにより、系統電力や再生可能エネルギーによるグリーン電力の補完に役立てるのである。また、電力需給を人工知能(AI)で管理することにより、電力消費の平準化を促し、昼夜で大きく差のある電力需要を平準化すれば、発電所の数を減らすことさえ可能性があるとの研究結果も、日産自動車からかつて発表されている。

 こうしたことから、冒頭述べたように、EVは、エンジン車やHV、FCVなどとまったく別と考えるべきなのだ。

【次ページ】急速充電は公衆トイレと同じ?

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