• 会員限定
  • 2022/09/21 掲載

「格」を下げる楽天と三木谷氏、苦戦するモバイル事業の行方は

大関暁夫のビジネス甘辛時評

記事をお気に入りリストに登録することができます。
格付機関大手のS&Pグローバル(以下S&P)が、楽天グループの長期発行体格付を引き下げる方向であることを公表しました。現在の格付ダブルB+から1ランクの格下げとなる見通しです。S&Pは昨年7月にも、楽天の格付けをトリプルB-から1ランク引き下げており、2年連続での格付引き下げとなります。直近では三木谷社長の酒席の様子が英FTで取り上げられるなど、思わぬ所で注目を集めている同社ですが、長引くモバイル事業での苦戦が、経営上のネックとなっていることは否めません。今回は、そんな楽天のモバイル事業の現状と課題を見つめます。

執筆:企業アナリスト 大関暁夫

執筆:企業アナリスト 大関暁夫

株式会社スタジオ02代表取締役。東北大学経済学部卒。 1984年横浜銀行に入り企画部門、営業部門の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時にはいわゆるMOF担を兼務し、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。2006年支店長職をひと区切りとして独立し、経営アドバイザー業務に従事。上場ベンチャー企業役員を務めるなど、多くの企業で支援実績を積み上げた。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業などのアドバイザリーをする傍ら、出身の有名進学校、大学、銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆やコメンテーターを務めている。

photo
三木谷氏は続くモバイル事業の苦境をどう切り抜けるのか
(写真:つのだよしお/アフロ)

湯水のごときモバイル事業への投資

 今回の格付見直しは、「携帯電話など非金融事業の業務改善が遅れ、財務内容が一段と悪化する可能性が高まっている」との理由によるもので、同社が22年1~6月期で1,766億円の最終赤字を計上し、かつ先行きが不透明であることがその最大の要因であると思われます。

 ちなみにダブルBのランク説明は、「事業環境、財務状況、または経済状況の悪化に対して大きな不確実性、脆弱(ぜいじゃく)性を有しており、状況によっては債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある」です。

 楽天のモバイル事業の1~6月期は営業得利益ベースで2,593億円の巨額赤字で、事業化以降19年が189億円、20年が824億円、さらに昨年21年の1,972億円と、年を追うごと赤字が拡大している点に、この事業の今後の見通しの厳しさを強くにじませています。

 決算会見に臨んだ三木谷浩史社長はこの苦境にあえぐモバイル事業の展望に関して、「コスト構造、顧客獲得力、品質の改善により、No.1携帯キャリアをめざす」と力強く宣言をしたのですが、どう考えてもあまりに非現実的ではないのか、と思われるところです。むしろ社長が掲げた3つの施策は、楽天モバイルを出口の見えない苦境に追い込んでいる“三重苦”そのものではないのか、と思うのです。順にみていきましょう。

 まず、コスト構造。楽天モバイル事業のコストを圧迫している最大の要因は、基地局整備に関わる莫大(ばくだい)な費用です。そもそも楽天モバイルの基地局整備についてはサービス開始前からつまずいて、総務省からきついおきゅうを据えられ開業予定を半年遅らせざるを得なくなったといういわくつきの問題なのです。一言で申し上げれば、楽天は基地局整備をはじめとした通信設備整備投資を甘く見過ぎていた、ということなのです。

 金融ビジネス、プロ野球球団経営、モバイル事業とソフトバンク孫正義氏の後追い感の強い三木谷社長にとって、モバイル事業は自社経済圏への利用者囲い込みを進める上での重要ピースとして、ちゅうちょなく第4の携帯キャリアに手を挙げました。そして孫氏から遅れること約15年、念願のモバイル事業参入を果たします。

 しかし、孫氏が既存キャリアであるボーダーフォンを買収し事業を開始したのに対して、三木谷社長のゼロからのスタートはあまりに大きな負担でした。加入者ゼロ、基地局ゼロからの投資が膨大になるのは当たり前であり、経営者として自社の事業規模に比しての見通しが甘過ぎたといえそうです。

 結果としてもたらされたのは、圧倒的なキャッシュフロー不足です。本業のネットビジネスおよび金融ビジネスで稼いだ金を、湯水のごとくモバイル事業の設備投資につぎ込まざるを得ないという状況下で、昨年政府が過半を出資する日本郵政から1,500億円、米国政府が警戒感を持って静観する中国のテンセントからも660億円の出資を受けるに至っています。

 さらに、今年に入って楽天証券の上場計画を発表。既に進めている楽天銀行の上場に加えてのこの計画は楽天グループにおける利益の先食い行為であり、グループの将来にも影響を及ぼしかねない危機的なキャッシュ欠乏状態に陥っているといえます。

0円廃止で契約数も減少、黒字は夢のかなたに

 次に顧客獲得力ですが、これに関しては既に事業参入時のもくろみがすっかりついえてしまったといえます。当初国は楽天の市場投入によって、先行の3大キャリアによる談合、寡占状態を打破して携帯電話料金の引き下げによる国民的利益の創出を狙ったわけで、楽天は業界の価格破壊的存在として顧客獲得を進められるはずでした。

 ところが業界最安値を掲げ事業スタートした直後に、折あしく携帯電話料金の大幅引き下げ策を持論とする菅義偉首相が誕生します。菅首相は自身の人気取り政策として、半官経営のNTTドコモに値下げを強要して大幅な官製値下げを断行する、という思いもよらぬ展開になったのです。

 結果、3大キャリア各社は楽天並みの携帯料金に落ち着いてしまい、特徴を失った楽天は苦し紛れに「0円」コースをひねり出すことになるのです。「0円」コースはそれなりに顧客数獲得力には貢献したものの、収益には貢献しない利用者を大量に抱え込むことになり、むしろ苦しい台所にさらに火をつけることになりました。結局、どだい無理な「0円」は1年余りで廃止を余儀なくされ、4月に500万件を超えた契約数は6月時点で23万件減って477万件となっています。さらに10月末までボーナスポイントなどを使った実質0円契約は残っているので、今しばらく契約数は減少傾向が続くとみられています。

画像
「0円」廃止が契約者数に影響している楽天モバイル
(写真:つのだよしお/アフロ)

 民間のMMD研究所による楽天のARPU(月契約単価)調査では、「0円」契約がなくなることで若干の上乗せは期待できるものの、事業参入時よりは大幅に下がっており現状の見通しは1,300円程度にとどまると想定されています。一方、楽天は事業参入時に700万回線の契約を黒字化の目安としていましたが、これは月2,980円使い放題契約を基本としたものでした。

 これが1,300円に下がってしまうと、単純計算で1500万回線以上の契約が必要になるわけで、黒字化は大きく遠のいた状況にあるのが分かります。しかも現在500万回線を割り込んだ契約数は「0円」廃止で頭打ち状態にあり、今後特筆すべき契約数の押し上げ要因も見当たらず、もはや黒字化ははるか夢のかなたを感じさせられます。

【次ページ】プラチナバンドでも足止め

関連タグ

あなたの投稿

関連コンテンツ

東京都

2024年に向けて、サイバーセキュリティ最新情報や多様化する脅威への対処法&防止策

サイバーセキュリティ業界最大級のイベントRSAカンファレンスでも話題となった最前線をご紹介 攻撃に関連する被害のレベルが、かつてないほど高くなっている今、 専門家から最新の攻撃手法やトレンドに関する情報をお届けします。 サイバーセキュリティの専門家、ITリーダー、経営者、そしてデジタルアセットとプライバシーを守りたい全ての方々に知っておくべき! RSAカンファレンスでも話題となったサイバー対策や、政府、教育機関、弁護士からの講演を通して、進化するサイバー脅威から組織や自分自身を保護する力やより強固なサーバーセキュリティ体制の構築の知識を深めましょう! 最新のサイバー脅威動向の解明 サイバーセキュリティインシデントへの対応 サイバーハイジーンの強化 協力と知識共有 未来への強靭性の構築 本セミナーでは、複合環境における高度な脅威対策のためのネットワーク検出と可視性の重要性、そして技術の進化に伴う政策の変化と法的コンプライアンスの最適な戦略についてお話しいたします。 また、今後多発することが見込まれる ChatGPT 技術を悪用した攻撃、コロナ蔓延やウクライナ戦争を契機にしたサイバー攻撃の状況の変化、 VR/AR/MRにおける新たなセキュリティとプライバシーの脅威を踏まえといった最新の攻撃手法を掘り下げ、金融、電力業界から幅広い業界でのサイバーセキュリティの課題に取り組む皆様に向けて、一年に一度のセキュリティイベント、専門家と共にセキュリティの高度化を探求しましょう!

東京都

Ivanti NEXT 2023

コロナ禍によってリモートワークやハイブリッドワーク環境への対応の波とデジタル化の更なる加速によって、Everywhere Work(場所にとらわれない働き方)が拡大し、より柔軟性のある働き方が定着しました。それと同時に、従業員が利用するPCやモバイルデバイス、周辺機器デバイス、アプリの数が増えたことで、企業はより複雑化したIT環境に直面しながら、一層のセキュリティ強化が求められるようになっています。また、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」により提唱された『2025年の崖』問題も迫っており、企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)へ推進を加速しています。 そのような変化に対応・直面する中、 IT担当者が担うミッションはIT(ハードウェア、ソフトウェア)資産管理、サイバーセキュリティ(脆弱性、デバイス、ネットワーク)の強化、社員からのITサポートの対応、既存システムの保守、新システムの導入、OSの移行など多岐にわたり複雑化しているだけでなく、ITの人材不足や熟練者の退職によるナレッジのブラックボックス化が発生し、情報システム部門がすべての対応を行うことが難しい時代を迎えております。また、最近では従業員の定着率にも影響する「従業員のデジタル体験(Digital Employee Experience)」という重要性が高まっており、企業には、これまで以上にデジタル化で社員に負担をかけないよう、仕事環境の早急な改善が求められています。 本イベントでは、企業の「次」の戦略的なITの取り組みへリソースを使えるよう支援を目指すIvanti製品やソリューション、国内の事例をご紹介します。

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

おすすめユーザー

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます