- 2023/03/09 掲載
アングル:バリュー株人気は「延長戦」に、企業に広がる低PBR対策
[東京 9日 ロイター] - 日本のバリュー株物色が続いている。米利上げ長期化の公算が高まる一方、個別企業の低PBR(株価純資産倍率)対策が広がっているためだ。3月の配当取りが終了すれば、人気も一服するとの見方があったが、「延長戦」に入る可能性も出てきた。
<ROE向上に動く企業>
大日本印刷は9日、同社として過去最高となる1000億円(発行済株式総数の15%)の自社株買いを実施すると発表した。総額で3000億円を計画しており、ROE(自己資本利益率)10%を目標に、PBR(株価純資産倍率)1倍超の早期実現を目指す。
ROEやPBRの目標は2月に発表しており、昨年末に0.6倍だった同社のPBRは、9日時点で0.94倍まで上昇している。依然1倍割れだが、市場では自社株買いを好感し「早々に1倍を超えるのではないか」(国内運用会社のファンド・マネージャー)との見方が出ている。
2月には、シチズン時計が発行済株式総数の約25%に上る自社株買いを発表。AGCも7.2%、出光興産も9.7%と、大規模な自社株買いの発表が相次いだ。
PBRは、ROEとPERの掛け算であり、株価が一定とすれば、PBR(株価純資産倍率)を引き上げるには、ROE(自己資本利益率)を高めることが手段の1つだ。ROEは、当期純利益を自己資本で割って算出する。自社株買いで分母の自己資本が縮小すれば、短期間での数値改善が期待できる。
こうした個別企業の動きをマーケットも評価。日本株市場では、低PBRのバリュー株が人気化しており、TOPIXのバリュー指数は、2009年の指数算出以来の高値を更新している。
<東証が「アクティビスト」の役割>
企業が低PBR対策に急ぐ背景には、東証の要請があるとみられている。東証は今年1月、PBR1倍割れの企業に対し、今春から、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない場合や、PBRが1倍を割れるなど十分な市場評価を得られていない場合、その要因などを開示するよう「要請」する方針を打ち出した。
「東証はあたかもアクティビスト(物言う株主)の役割を果たす格好になっている」と、しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンド・マネージャーは指摘する。取引所が上場企業に対し資本効率改善の要請をすることは国際的に異例で「特に海外では重く受け止められるのではないか」と藤原氏はみる。
東証は昨年、投資単位が50万円以上の上場会社代表あてに投資単位の引き下げに関する検討を要請。その後、ファーストリテイリングやオリエンタルランドなどが株式分割の方針を発表した。いずれも投資単位が100万円以上の会社として東証が名指ししたリストに含まれ「要請が効果を示した」(国内証券のストラテジスト)との見方がもっぱらだ。
シチズンは大規模な自社株買いについて、東証の方針も「背景のひとつ」(同社広報)と説明している。
<低PBR株多い日本>
アクティビストファンドも、東証の取り組みを追い風と捉えている。ストラテジックキャピタルの丸木強代表取締役は、企業の意識改革を促進していると評価する。財務面の知識に乏しい投資先の経営者とは対話が噛み合わないこともあったが、東証の方針発表後は企業側に「以前より前向きに話を聞いてもらえるようになってきた」と話す。
バリュー株の「天敵」は金利低下だ。今年、米国が利下げに転じれば、グロース株に人気がシフトするとみられていた。しかし、米インフレの高止まりで、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長はデータ次第で利上げ幅拡大を行う考えを示し、米金利は再び上昇。日本のバリュー株人気も息切れせずに続いている。
ただ、企業に資本効率改善を要請するという異例の行動に出た背景には、東証の危機感がある。PBRの低さは日本企業の収益力の低さの裏返しでもあるからだ。昨年7月時点で、PBR1倍未満の企業の比率は、米S&P500で5%、欧州STOXX600で24%だが、TOPIX500は43%にのぼる。
フィデリティ投信の井川智洋ヘッド・オブ・エンゲージメント兼ポートフォリオ・マネージャーは、足元のバリュー株相場は短期でしかなく、日本のバリュー株がグロース株に転換できるかどうかがポイントだと話す。企業が資本コストを意識するのは第1段階にすぎず、資本効率・収益力を高める第2段階や、再投資する第3段階に進めば「もっとアップサイドの余地は出てくる」という。
4月後半から始まる本決算シーズンは、資本収益性や株価の改善に関連する開示を行う企業が出始めるとみられており、例年以上に投資家の注目を集めそうだ。
(平田紀之 取材協力 山崎牧子 編集:伊賀大記 石田仁志)
最新ニュースのおすすめコンテンツ
PR
PR
PR