• 2023/03/31 掲載

焦点:トヨタ新体制始動で「EVファースト」、試される発信力

ロイター

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白木真紀 ダニエル・ルーシンク

[東京 31日 ロイター] - トヨタ自動車の社長が約14年ぶりに交代し、4月から佐藤恒治氏率いる新たな経営体制が始動する。創業家出身の豊田章男氏はトヨタを世界最大の自動車メーカーとして安定させたが、想定以上のペースで普及する電気自動車(EV)に対し、出遅れ感も指摘されてきた。新体制は独自色を出し、EV事業の加速を実現できるか。まずは4月に公表するEVの新計画と佐藤氏の発信力が注目される。

<EV戦略、「見せ方が問題」>

「EVファーストの発想で、ものづくりから販売・サービスまで事業の在り方を大きく変える必要がある」。佐藤新社長は2月13日、就任前に開いた会見でこう強調した。

地域の電力事情に合わせてEV、ハイブリッド車、燃料電池車など多様な選択肢を提供するという方針は変えないが、EV最優先で電動化戦略を見直す姿勢を鮮明にした。EVに最適な電池や車台などを追求し、従来とは異なる方法でEV開発を加速、高級車ブランド「レクサス」で2026年にも次世代車を開発。4月にはEVの新たな計画を発表することも併せて表明した。

トヨタはEVに力を入れていなかったわけではない。しかし、電動車戦略を説明する際、枕詞に「全方位」や「マルチパスウェイ(複数の道筋)」などの言葉を頻繁に付けるため、EVシフトを強調する海外勢に比べるとEVに消極的と見られがちだった。

シティグループ証券の吉田有史アナリストは、株式市場から「トヨタの見せ方が問題視されている」と指摘する。トヨタは30年にEV販売350万台を計画し、原材料確保にもめどがついているとしているが、「投資家は今後伸びていくEV市場でトヨタがどれだけのシェアを取れるのか、とても不安視している」といい、新体制は「見せ方を大きく変えてほしい」と要望する。

仕入先も新体制に期待している。系列サプライヤーであってもEVに慎重と映るトヨタの先行きを懸念する声が以前から聞かれていた。ある系列サプライヤー幹部は「EV領域ではリスクヘッジのため、トヨタ以外のメーカーとの取り引きを増やす動きが一部で強まっていた」と語る。しかし、新体制の方針次第では「トヨタの比重を少し戻すことも検討する」と述べている。

豊田氏自身は1月の社長交代発表時、「私はどこまでいってもクルマ屋。クルマ屋だからこそトヨタの変革を進めることができたが、クルマ屋を超えられないのが私の限界」と述べた。「新社長を軸とする新チームのミッションは、トヨタを『モビリティーカンパニー』にフルモデルチェンジすることだ」と語った。

SBI証券の遠藤功治シニアアナリストは、豊田社長が心酔しきれなかったEVの研究開発やマーケティングに責任を持とうと佐藤氏が積極的に動くのではないかと注目している。

<豊田氏の影響力>

もっとも、社長交代でトヨタの経営や意思決定が大きく変わることはないとの見方は根強い。豊田氏はCEO(最高経営責任者)職も佐藤氏に譲るが、代表権を持つ会長となるため、豊田氏の同意がなければ重要事項は決められない。車の性能や乗り味を確認するマスタードライバーも続けることから、商品戦略にも関わることになる。

社長交代が発表された1月26日以降、トヨタの株価は2000円を割り込んだまま。株式市場は社長交代に「ほぼ無反応だ」と東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは指摘し、「豊田新会長が実質的な院政を敷くとの見方が支配的だからだろう」と話す。

EV普及を強く推進してきた欧州連合(EU)が35年以降に内燃機関(エンジン)車の新車販売を原則禁じる方針を条件付きで撤回したことは「EVファースト」戦略のかく乱要因になるかもしれない。EUは実質的に二酸化炭素排出量ゼロとみなす合成燃料を使う場合に限りエンジン車の新車販売を認めることを決めた。

トヨタは「敵は内燃機関ではなく炭素」(豊田氏)と繰り返し主張し、水素を燃料とするエンジン車の開発も続け、急激な事業環境変化による雇用やサプライヤーへの影響にも配慮し、エンジン技術を残そうとしている。

欧州の方針転換はトヨタの全方位戦略の考え方に沿うものだ。ただ、合成燃料は発展途上でコストも高く、実用化には課題がまだ多い。

シティグループ証券の吉田氏は「長期的に減少傾向にあるエンジン車のシェアが多いことをアピールしても、株式市場では評価されない」と語る。

佐藤氏は豊田氏が圧倒的な存在感を放つ中で、どう独自色を出し、新しいトヨタをどう発信していくのか。社長就任前にレクサス部門のトップを務めた佐藤氏は、35年にはレクサスの新車全てをEV化すると表明している。例えば、「佐藤氏=レクサス=EV」というイメージがつけば「世間の見方は変わるだろう」と吉田氏は話す。

(白木真紀、ダニエル・ルーシンク 編集:久保信博)

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