- 2023/06/09 掲載
アングル:生成AIで変わるネット広告、クライアントに懸念の声
両社は今、生成AIを駆使して検索エンジンを刷新し、どんな質問にも十分な回答を作成できる仕組みを構築しようとしている。検索結果に連動した広告を通じて消費者に訴求する従来の仕組みが一変する可能性がある。
マイクロソフトは、2月からユーザーへの公開を開始したAI搭載の検索エンジン「Bing(ビング)」で、一部の検索連動型広告をAIの回答結果に移行させる実験を進めていると明らかにした。
グーグルも、広告担当幹部のジェリー・ディスクラー氏が5月のインタビューで、既存の検索連動型広告をAIの回答内容に配置する実験に乗り出す考えを示した。ただグーグルによると、現時点では広告主にこの実験を拒否する権利はない。
両社とも、生成AIの機能を利用した広告の実験はまだ初期の段階であり、広告主と積極的に協力し、彼らに意見を求めているとしている。
しかし、広告主の間では、自分たちの予算がごく限られたユーザーしか使わない機能の強化に当てられいるとの警戒感が浮上しつつある。広告主は一般的に掲載場所を自ら決めたいし、不適切なコンテンツの隣に広告が出現するのではないかと心配にもなる。
これに対しマイクロソフトとグーグルは、不適切なコンテンツに広告が載るのを阻止するためのキーワードのリストといった既存の検索エンジンに備わっている機能は、AIの回答結果にも適用すると強調している。
<ブラックボックス>
自動車保険大手ガイコやコロナビールなどの企業と仕事をしてきた広告代理店ホライゾン・メディア幹部のジェーソン・リー氏は、広告主にとって同意なしに新たな広告の実験が行われるというのは懸念すべき慣行だと指摘する。
事情に詳しいある広告主によると、幾つかの大口広告主はマイクロソフトのやり方に対抗する形で一時的に出稿費を同社から引き揚げ、ウェルズ・ファーゴは今もマイクロソフト向け予算の削減措置を続けているという。
マイクロソフトのグローバルパートナー・リテールメディア担当バイスプレジデント、Lynne Kjolso氏はロイターとのインタビューで、広告主に余計な手間をかけさせず、できるだけ「継ぎ目のない」形の新たなビングの広告の仕組みを導入していくと語り、ビングの対話型AIにホテルの広告を流し始めるとともに、今後不動産など他の業界の広告も掲載する作業をしていると付け加えた。
巨大プラットフォーム企業が広告主に対し、AIを使ってより大きな成果が得られるとするサービスを提示しながら、広告主側の裁量を制限する流れは強まっている。
マーケティング代理店の幹部によると、グーグルがAIで自動的に最適な掲載場所を決める「パフォーマンス・マックス」と呼ばれるツールは、そのアルゴリズムのモデルが公開されていないので詳しいことが分からない「ブラックボックス」になっている、というのが多くの広告業界関係者の見方だ。
マイクロソフトに関しても、どんな検索ワードがきっかけでブランド企業の広告を生成AIの実験に提供されるのか、あるいは新しい広告の仕組みは従来の検索連動広告に比べてどの程度効果が高いのか、といった部分の報告がなされていない、と3人の広告主は指摘する。
そうした懸念にマイクロソフトも対応はしているが、いつになればより透明性の高い報告が出てくるのか明示しているわけではない。
ただKjolso氏は、広告代理店から透明性を巡る報告を要請されていると認め、マイクロソフトの製品チームがこの問題に最優先で取り組んでいると説明。「われわれは広告主にどのような追加的な権限を提供できるか間違いなく検討を続けている」と強調した。
偽情報や「幻覚(学習したデータからは決して正当化できない回答を堂々と行う現象)」を含むAIの回答結果に広告が流れるのをどのように防ぐべきかとの問題も提起されている。
Kjolso氏は、ビングのウェブ情報が大規模言語モデルの「土台となる」メカニズムとして機能することが可能で、幻覚発生のリスクを実際に減らしていると主張した。
(Sheila Dang記者)
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