- 2023/07/13 掲載
インタビュー:広がり欠く日本株上昇、改革は道半ば=Fiducia 清水氏
──4月以降の日本株上昇の要因は何か。
「1つは日銀の金融政策の不透明感が晴れたことだ。植田和男日銀総裁は金融正常化を慎重に進め、YCC(イールドカーブ・コントロール)政策の解除も市場に大きな影響を与えないよう自然な形でやっていくのだろうという認識が市場に広がった」
「もう1つはそれに伴う円安だ。日本(株)は安いという見方が醸成された。アクティブ運用のヘッジファンドの動きは目立つが、市場の太宗を占めるのはパッシブ型ファンドだ。円安が進むと日本株のエクスポージャーが減るため、リバランスのために買い増さなければならない」
「3つめは中国リスク。統計で確認するのは難しいが、投資家が一定のアジアのエクスポージャーを維持するために、中国株をショートして、日本株をロングしている可能性がある」
──日本株に一段の上昇余地はあるか。
「GPIFに在籍当時、ポートフォリオのバランスが変更された。日本株のウエートが引き上げられたことで、当時の日銀の追加金融緩和と合わさって日本株の大きな上昇要因となった。いわゆるダブルバズーカだ。株価が大きく上昇する局面では、こうした大きな変化を伴うことが多い」
「当時の安倍晋三政権によるアベノミクスが目指したのは、デット(銀行借り入れ)中心の経済から投資を中心とするエクイティ的な経済への変革だ。ガバナンス改革などを通じ、1つのミスを恐れチャレンジしない社会からリスクを取る社会に変えることで、企業の稼ぐ力を付けようとした。岸田文雄政権の政策は基本的にアベノミクスの延長だが、まだ道半ばだ」
──貯蓄から投資への動きは進むか。
「資産運用側の改革が必要だ。日本の大手機関投資家の多くはリスクを取りたがらない。トラックレコードが重要で、ある機関投資家が投資しているので、投資しますといった運用ばかりだ。優秀なファンドマネージャーを確保するのに欠かせない成功報酬式の賃金体系も根付いていない」
「以前、倉庫の会社への投資案件があった。当時、日本ではみられなかったランプウェイ方式を取り入れ、長期金利が1%の時代にインカムが6%もあった。低金利で運用難と嘆く声が多かった当時だが、その倉庫に出資しているのはすべて海外の著名なSWF(政府系ファンド)や年金基金で国内の機関投資家は1社もいなかった」
──今後の日本株の見通しは。
「日本株は盛り上がっているが、まだ日経平均やTOPIXなどの上昇にとどまっている。東証マザーズ指数は昨年の高値さえ超えていない。単に円安だから買われているだけで、グロースではなく、あくまでバリュー投資の範囲内だ。ポテンシャルはあるが、道半ばの改革を進めていく必要がある」
「IPO(新規上場)も規模が小さすぎる。規模が小さすぎると証券会社などのアナリストがつかず、企業の価値判断が難しくなる。そうなると機関投資家は投資を避けるため、せっかく株式を公開したのにマネーが集まらないという皮肉な結果になってしまう」
「海外の物価上昇もあり、金融緩和による円安と相まって、輸入物価が上昇し続ける可能性がある。賃金が上がったとしても、値上げが十分進まなければ、企業にとってコストアップとして重くのしかかる。日本企業はまだ値上げを躊躇する傾向が残っているが、値上げしても消費者が買ってくれるような高付加価値の商品を生み出す必要があるだろう」
*インタビューは7月11日に実施しました。
(伊賀大記 平田紀之)
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