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- 2025/05/08 掲載
生成AIの実装や運用までカバー、AIマーケットプレイス「AI Hub」とは何か

Lightning AIが示すAIマーケットプレイスの可能性、その概要
生成AIに関して、多くの企業が「ラストマイル問題」と呼ばれる課題に直面している。これは、実験や試作段階まではAIプロジェクトをうまく進めることができるが、実際の業務に導入し、効果的に活用する段階まで進めるのは非常に難しいという問題を指す。さらに近年では、デプロイだけでなく、運用監視やリスクマネジメントまでを含めた「運用期のラストマイル』にも広がりを見せている。
オープンソースPythonライブラリPyTorch Lightningを運営するLightning AIが2025年2月に発表したAI Hubは、こうした問題に対する具体的な解決策として注目を集めている。
AI Hubは、アップルのApp StoreやGoogle Play Storeのように機能するAI専門のマーケットプレイスだ。モバイルアプリをブラウズするように、AIアプリケーションを探し出し、コーディングや複雑な設定をすることなく、ボタン1つでデプロイできる環境を提供する。
多くの企業がさまざまなAIツールを購入し、実験を重ねてきたにもかかわらず、それらを最終的に実用化・デプロイするところまで至れない状況が続いている。AI Hubはこの「ラストマイル」問題を解決し、企業がプロトタイプ段階からより迅速に実用段階へ移行できるよう支援するものとなる。
2025年4月時点で、AI Hubにはすでに70以上のAIアプリケーションのAPIがホストされ、DeepSeek-R1のほか、Mistral 7B、Llama 3などの人気モデルを含む基盤モデルとアプリケーションも用意されている。
また、2025年施行予定のEU AI Actや米国のAI規制にも対応可能な設計となっており、コンプライアンスを重視する企業にも適している。これにより、データセキュリティの課題も解決される。同社のウィリアム・ファルコンCEOによると、データ漏洩やセキュリティの問題はなく、すべてファイアウォール内に収める形でAIを運用することができるという。
Lightning AI Studioを利用すれば、ワンクリックでクラウドGPUを即座に起動でき、また毎月35時間分の無料GPUも提供される。この無料枠を超過した場合は、追加的なGPU利用に応じて支払う従量課金制が採用されている。
AIアプリケーションの開発・デプロイの課題
企業がAIアプリケーションを自社で開発・デプロイする場合、技術選定から運用まで多くの障壁に直面する。具体的な例として、顧客サービス向けチャットボットの導入ケースを考えてみたい。まず初期調査と技術選定の負担が大きい。企業のニーズに合ったAIモデルを選定するためには専門知識が必要であり、適切なモデルを見つけるまでに膨大な時間と労力を要する。
次にインフラ構築のコストと複雑さが課題となる。選定したAIモデルを動作させるためのサーバーやクラウド環境を構築する必要性がある。また、専門的なIT知識が不足している場合は外部業者への依頼が必須となり、費用が増大する。
データの収集と準備も大きな課題だ。チャットボットの学習には大量の顧客データが必要だが、多くの中小企業はそれを蓄積していないため、新たにデータを収集・整理するプロセスが発生する。さらにAIモデルのカスタマイズと既存システムへの統合には高度なプログラミングスキルが求められるが、そうした人材は不足しがちだ。また、運用後も継続的なメンテナンスが必要で、追加の人件費や技術的サポートも欠かせない。
より具体的なケースとして、オープンソースモデルをファインチューニングし、FastAPIを使用して自社サーバーにデプロイする場合を考えてみたい。この場合、環境準備、モデル選定とファインチューニング、FastAPIプロジェクトの構築、デプロイ環境の準備、デプロイと運用といった工程に分かれ、各段階で専門的なスキルとリソースが必要となる。
コスト面では、GPUサーバーに少なく見積もっても数十万0数百万円、本番環境サーバーに月額十数万円以上が必要となる。人件費も膨大で、データサイエンティストに加え、バックエンドエンジニアとインフラエンジニアにそれぞれコストがかかる。さらに、サーバー維持費や電気代、ネットワーク費用などの運用コストも発生する。
時間面では、環境準備に1~2週間、モデル選定とファインチューニングに2~4週間、FastAPIプロジェクトの構築に2~3週間、デプロイ環境の準備に1~2週間、デプロイと初期運用調整に1~2週間と、合計で約7~13週間(約2~3カ月)という長期間を要する。
これらのリソースを準備し、プロジェクトを滞りなく進められる企業は限定的で、さらに実際にビジネス価値を生み出している企業はさらに少ないというのが現状となる。 【次ページ】API統合の利便性
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