- 2023/07/28 掲載
焦点:ユーロ強気派に不安の夏、ECB追加利上げ巡る不透明感で
昨年一時1ユーロ=1ドルの等価(パリティ)を割り込んだユーロだが、現在はそこから約10%戻し、年初来上昇率も3.5%前後に達している。ユーロの実効レートも引き続き最高値圏にある。
米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、18日までの週の投機筋によるユーロ買い持ち規模は過去9週間で最大だった。
こうした動きを主に支えているのは、ECBよりも先に米連邦準備理事会(FRB)が利上げを停止するとの観測だ。
しかし投資家やエコノミストの話を聞くと、水面下ではECB理事会の最もタカ派的なメンバーさえ、物価上昇率鈍化と経済活動の弱まりに伴って利上げ打ち止めを模索することになるだろうという。
アルゲブリス・インベストメンツの共同ポートフォリオマネジャー、ガブリエル・フォア氏は「ユーロ(の堅調さ)に確信は持てない」と語り、これまでのユーロに対する強気姿勢をよりマイルドな「ロングバイアス」に修正している。
フォア氏の見立てに基づくと、ECBはあと数カ月「インフレと戦う仮面をかぶり続ける」が、同時に弱いデータがECBの対外発信や最終的には政策運営に影響を及ぼすことになる。
ECBは27日の理事会で大方の予想通り中銀預金金利を25ベーシスポイント(bp)引き上げて、23年ぶりの高水準となる3.75%にすると決定し、物価上昇率は依然として高すぎるとの認識も示した。
ラガルド総裁はその後の会見で、インフレの「背骨をへし折る」ためのあらゆる選択肢が検討事項として残っていると強調。ただ会見終盤でハト派的な発言をしたため、ユーロの急落をもたらした。
市場が反応したのは、ラガルド氏がECBの決定は今後のデータ次第と断りつつも「われわれにはカバーすべき領域がまだあるのか。現時点ではそうとは言えない」と述べた部分だ。
<下落リスク>
夏から秋にかけてのECBの政策とユーロを巡る見通しに不確実性が大きいことは間違いない。市場はさまざまなデータや9月にECBが公表する最新の物価見通し、FRBの動向などを分析しなければならないからだ。来週には早速、7月のユーロ圏消費者物価指数が発表される。
アムンディのマルチ資産戦略責任者フランチェスコ・サンドリーニ氏は「(ECBの政策担当者が)足元でよりハト派姿勢に転じるとの市場の考えにはいささか懐疑的になっている。そうした転換が現実化するのは、物価上昇率がピークを超えた時点だが、まだその局面は到来していない」と述べた。
サンドリーニ氏は、アムンディがユーロはこの先1.15-1.20ドルまで上昇すると見込んでいると明かす。つまり現在の水準から少なくともさらに4%は値上がりする計算となる。
ユーロ高は輸入物価を抑制し、物価全般の押し下げに寄与するため、一段の上昇はECBにとって懸念要素にならないだろう。
ソシエテ・ジェネラルの通貨ストラテジスト、ケネス・ブルー氏は、スイス国立銀行(SNB、中央銀行)が今年になってスイスフランの対ドル相場が7%余り上昇したのを容認している状況を引き合いに出し、「強い通貨はインフレとの戦いで歓迎される。だからこそSNBもフラン(上昇)を気にかけていない」と指摘した。
もっともECBが9月の次回理事会に追加利上げするか非常に不透明な点から、ユーロは上げ方向と同じぐらい下げ方向にも振れやすい、と複数のアナリストは警告する。
マネックス・ヨーロッパのFX分析責任者サイモン・ハーベイ氏は、データがECBの9月追加利上げ観測を打ち消す働きをするとみている。
実際今週発表されたユーロ圏の企業活動は、サービス需要の減少を背景に予想よりもずっと大幅に縮小した。
ハーベイ氏は、ユーロは1.10ドルが適正水準に見受けられると話す。
よりはっきりとしたユーロ弱気派も存在する。国際金融協会(IIF)のチーフエコノミスト、ロビン・ブルックス氏は、ウクライナの戦争に起因するエネルギー価格高止まりは交易条件面での大きなショックである以上、本来ユーロは下押しされるべきで、パリティからの反発に必然性があったとは思わないと主張した。
(Naomi Rovnick記者、Dhara Ranasinghe記者)
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