- 2024/12/13 掲載
焦点:ECBに振り回された市場、利下げペースで解釈分かれるシグナル
[ロンドン 12日 ロイター] - ユーロ圏の金融市場は12日、欧州中央銀行(ECB) に振り回された。ECBがこの日の理事会後に公表した声明で長らく掲げてきたタカ派的な表現を削除したものの、そのほかにECBが発したさまざまなシグナルを巡り、市場関係者の間で今後の利下げペースについて解釈が分かれたからだ。
トランプ次期米大統領が高い輸入関税を導入するとの見通しや、フランスとドイツの政治的な混乱を受け、ユーロ圏の経済見通しは悪化している。
このため市場は来年急速に利下げが進むと想定し、当初はECBがそうした市場のポジションを全面的に肯定するかのように見えた。
ECBは今年4回目の政策金利引き下げを決定した上で、インフレ抑制のために「必要な期間だけ十分引き締め的な政策金利を維持する」との確約を取り下げた。これはECBが、物価上昇率は目標の2%付近で「持続的に」落ち着くと自信を持ったことを意味する。
しかしECBは同時に「理事会は特定の金利の道筋には固執しない」と表明し、来年は会合ごとに利下げがあるのではないかとの市場の期待には冷や水を浴びせた。
さらにラガルド総裁の会見での発言とともに市場の警戒感は強まり、政策金利の動きに敏感なドイツ2年国債利回りは約5ベーシスポイント(bp)、イタリア10年国債利回りは10bp超跳ね上がった。
ラボバンクのシニア金利ストラテジスト、リン・グラハム・テイラー氏は「なぜ市場が若干タカ派方向に動いたのかは理解できる。ラガルド氏は予想されていたほど市場の(利下げの)織り込みを支持しなかった」と指摘した。
複数のアナリストの話では、市場との不協和音をもたらした要因の1つは、ラガルド氏が景気に抑制的でも刺激的でもない「中立金利」について政策担当者は議論しなかったと説明したことだったという。
もっとも結局市場が想定する来年末の政策金利は1.75%前後と、ラガルド氏がこの日示したECB見通しのレンジ(1.75─2.5%)の下限になった。
AFSグループの調査ディレクター、アルネ・ペティメザス氏は、サービス価格がまだ高止まりしているというラガルド氏の発言も「かなりタカ派的」に聞こえたと語る。
投資家の困惑を反映する形で、ユーロ/ドルは欧州の取引時間午後に一時0.3%余り下がって1.0468ドルを付けたが、再び1.05ドルに戻った。
<景気支援に後手との懸念も>
そして市場は12日の「迷走」があったが、最終的にECBの政策金利が来年スピード感を持って切り下がるとの観測は前日とおおむね変わっていない。
短期金融市場のトレーダーが見込む来年末までの合計利下げ幅は120bp超で、理事会前からわずかに縮小しただけだ。
また来年1月理事会ではおよそ20%、3月は30%弱の確率で50bpの利下げがあるかもしれないとも予想している。
一部のアナリストは、政策金利の方向性は明確でラガルド氏もその点ははっきりさせたと指摘する。
ダンスケ・バンクのチーフアナリスト、ピエト・クリステンセン氏は「ラガルド氏は自身でできる限りハト派的に振る舞っていた」と説明し、その根拠として「インフレリスクが上下両方向になった」「労働需要は弱まって成長下振れリスクになっている」といったラガルド氏の発言を挙げた。
クリステンセン氏は、ラガルド氏が市場の大幅利下げ観測を許容する余地も残したと分析した。
ラガルド氏が中立金利に関して、いずれそこに近づくとともに議論がより深まる公算が大きいと言及したことも注目されている。
ピクテ・ウエルス・マネジメントのマクロ経済調査責任者を務めるフレデリック・デュクロゼ氏は「私が強い印象を受けたのは会見最終盤の発言だった。ラガルド氏は、もし中立金利に『向かうならば』ではなく『向かう時に』と言ったのだ。つまりこの言い方から(政策金利の)方向は火を見るよりも明らかだ」と述べた。
一方INGのグローバル・マクロ責任者を務めるカルステン・ブゼスキ氏は、ECBが過去に物価上昇への対応が遅れて失敗したことを重視し過ぎる余り、今度は景気支援が遅くなり過ぎるという新たな失敗を冒そうとしつつあると懸念を示した。
実際今回の理事会では一部の政策担当者が、米国の関税がユーロ圏の成長率に打撃を与える可能性を踏まえ、決定された25bpではなく50bpの利下げを主張した、と3人の関係者がロイターに明かしている。
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