• 2025/08/21 掲載

アングル:スウォッチ炎上、「攻めの企業広告」増える背景に多様性の後退

ロイター

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Samantha Marshak Julaiza Alvarez

[20日 ロイター] - 瞬時に関心を集めることに価値がある「アテンション・エコノミー」の時代を迎え、さらにトランプ米政権が多様性に対する戦いを宣言する中で、企業は「攻めの広告戦略」を採用しつつある。だがそれは幾つものリスクを伴う。

スイス時計大手スウォッチは最近、アジア人差別と受け取られかねない広告を出した問題で謝罪に追い込まれた。

アジア人男性モデルが目尻を両手で引き上げ「つり目」のようなポーズをした画像を使ったこの広告が、注目を得ようと意図的に作成されたかどうかは分からない。

それでもスウォッチは広告を取り下げ、ロイターに「こうした仕草の及ぼす影響を認識しなかった、やる気のある若いチームのしくじりだった。画像によって誰かを傷つけようと考える意図は全くなかった」と釈明した。

米国で多様性推進の動きが後退するとともに、従来の規範を破るような広告を展開する動きはスウォッチ以外にも広がっている。

消費者が節約志向を強め、情報の氾濫によってすぐ記憶が書き換えられてしまうことが、企業がリスクの高い広告を通じて何とか競合他社より目立とうとする姿勢に拍車をかけている面もある。

口コミの拡散を狙った広告を最近打ち出した企業として挙げられるのは、アパレル小売りのアメリカン・イーグル・アウトフィッター、ドーナツチェーンのダンキン・ドーナツ、美容品のエルフ・ビューティーなどで、いずれもすぐさまソーシャルメディアで批判を浴びた。白人中心の美しさを追求している、あるいは不適切な分野に関係する有名人を起用している、と理由はさまざまだ。

アメリカン・イーグルの広告には、大ヒットドラマ「ユーフォリア」「ホワイト・ロータス」への出演で知られ、Z世代に人気の高い女優のシドニー・スウィーニーが登場。「jeans(ジーンズ)」と「genes(遺伝子)」をかけた広告だったため、遺伝的な特徴を人種的文脈でとらえている可能性があるとして非難された上に、トランプ大統領がこの騒ぎに乗って広告を「今一番熱い」と賞賛して「ウォーク(社会的正義を重視すること)は負け犬のものだ」と発言して一段と炎上した。

続いてダンキンは、夏の新作ドリンク「ゴールデン・アワー」の宣伝に俳優のギャビン・カサレーニョを起用して「日焼けは遺伝」と言わせたことが物議を醸している。

特に流行に乗って収益を稼ぐ企業が過激な広告に走る背景には、多様性・公平性・包括性(DEI)を巡る米政府の法規制運用が変化したことがある。

さらに包括性は、2020年に黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警察官から暴行を受けて死亡した事件をきっかけに多くの企業が販売・広告戦略の柱に据えてきたが、5年が経過してそうした考え方は強調されなくなっている。

マーケティングのコンサルティングを手がけるメタフォース共同創業者のアレン・アダムソン氏は「販売戦略担当者は行き詰まっている。包括性を高めるほど、ソーシャルメディアでの注目度が薄れてしまう」と語り、比較的若く広告の標的となる層に「刺さる」ように、より大きなリスクを背負いつつあると付け加えた。

<損なわれるブランド価値>

ところがそうした広告の賞味期限は短くなりかねない。また長期的にはブランドの評価を傷つけ、非白人の大規模な顧客層に背を向けられるかもしれない、というのが専門家の見方だ。

ニューヨーク大学非常勤教授で、ブランド戦略家としてティファニーなどと協力しているアンジェリ・ジャンチャンダニ氏は「アメリカン・イーグルがあのような広告を流せば、黒人からアジア系、中南米系に至る消費者を排除し、結果的に収益機会を逃している」と指摘した。

ジャンチャンダニ氏によると、今も米国の購買力を支配しているのは非中南米系の白人だが、他の人種の購買力も急速に伸びているという。

フランスの化粧品大手ロレアルの場合は今月、生活情報だけでなくアダルト系のコンテンツを配信する「オンリーファンズ」で活動するクリエーターと提携して作成した動画がやり玉に挙がった。

同社が掲げるソーシャルメディアのインフルエンサーとの提携に関するガイドラインでは、提携先はポルノなど不適切な分野に関与しない人物とする、と定められているからだ。

エルフの広告は、過去に家庭内暴力に関する冗談を言ったコメディアンを採用したためネット上で即座に猛反発を受け、同社が謝罪する事態になった。

ジャンチャンダニ氏はこうした企業広告について「決してうっかりではなく、承知の上で自社のブランド価値と相容れないと人物を起用している。避けられたはずの失敗だ」と苦言を呈した。

スウォッチやエルフはすぐ謝罪したが、アメリカン・イーグルは広告を取り下げていない。

同社のマーケティング担当バイスプレジデント、アシュリー・シャピロ氏はリンクトインへの投稿で、シドニー・スウィーニーとビデオ通話で協議した際に、幹部らが「どこまで攻めたいか」と尋ねたところ、スウィーニーはためらいなくニヤリと笑った上で「攻めていこう。是非とも」と答え、会社として「その挑戦を受けよう」と応じたことを明らかにした。

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