- 2026/03/02 掲載
マクロスコープ:ホルムズ海峡封鎖「意外と早く沈静化」、周辺国波及を懸念=経済産業研・藤氏
[東京 2日 ロイター] - 米国とイスラエルが2月28日にイランを攻撃し、イラン側がエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡を事実上封鎖した。原油市況への影響について、経済産業省が所管する政策シンクタンク、経済産業研究所(RIETI)のコンサルティングフェロー、藤和彦氏に聞いた。
通産省出身の藤氏は原油・天然ガスの国際動向を専門とし、「世界を動かす石油戦略」などの著書を持つ。
藤氏は「イランにとって同海峡を封鎖するメリットはなく、意外と早く事態は沈静化に向かうのではないか。米原油先物価格の上昇は、昨年6月の『12日間戦争』の時の1バレル=70ドル台後半が目安になる」と話した。
その上で、「サウジアラビアなどの周辺国に混乱が波及すれば、話が変わり90ドルから100ドルのレンジが見えてくる」と語り、「インフレ懸念の高まりから米金利が下げ止まることで投資家心理が悪化し、AIバブルの崩壊が現実味を帯びる可能性がある」と指摘した。
一問一答は下記の通り。
――ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ、ホルムズ海峡が事実上の「封鎖状態」になっている。
革命防衛隊が「海峡を封鎖する」と息巻いているが、それはイラン政府の統一した見解ではないだろう。今後の展開として、国家として完全封鎖する可能性は低いと見ている。イランにとってホルムズ海峡を封鎖するメリットはない。彼ら自身、原油をこの海峡経由で輸出しており、特に中国への輸出は経済の屋台骨だ。自らの収入源を断ってまで封鎖に踏み切ることは、経済合理性からすればあり得ない。
ただし、民間の運航会社はリスクを取りたがらないため、自主的な判断で航行を停止するという状況はしばらく続くはずだ。
――米国の指標WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物はどこまで上昇するか。
米国を巻き込んだイスラエルとイランの「12日間戦争」の際に付けた1バレル=70ドル台後半が、一つの目安になるだろう。2022年のロシアによるウクライナ侵略時は130ドルを上回ったが、当時とは決定的な違いがある。現在は国際エネルギー機関(IEA)が指摘している通り、世界の原油市場は「供給過剰」の状態にある。中国の需要が伸び悩んでおり、需給が緩い段階では地政学リスクだけで価格が跳ね上がる恐れはそれほど高くない。
1980年代のイラン・イラク戦争の時も多くのタンカーが被弾したが、当時は米国経済が不景気だったため、原油価格はあまり上がらなかった。
――周辺国への混乱の飛び火を警戒する声もある。
最も懸念すべき点は、この問題が他の中東諸国へ波及することだ。サウジアラビアの実権を握るムハンマド皇太子が米トランプ大統領にイランへの攻撃を進言したとの報道があった。これまで中国の仲介で「手打ち」をしていたはずの両国の関係が崩れ、イランがサウジの石油施設を狙うようなことになれば、話は全く違ってくる。
また、隣国イラクの動向も無視できない。次期首相に親イラン派のマリキ氏が選ばれる可能性が高まっており、米国が支援停止を示唆している。イラクの原油売却代金はニューヨーク連銀の口座にあり、制裁で差し押さえになれば、イラク経済は大混乱に陥る。こうした中東全体を巻き込む「負の連鎖」が起きると、WTI原油価格は90ドルから100ドルのレンジが見えてくる。
ただ、米国・イスラエルとイランの衝突に留まっている限りは、深刻な事態にはならないとみている。最高指導者ハメネイ師を殺害されたイランが、内戦に至るリスクも低いだろう。
――世界経済への影響は。
実体経済よりも、むしろ私が心配しているのは、金融市場への打撃だ。ただでさえ米国では株式市場におけるAIバブルが囁かれており、インフレ懸念の高まりで金利が下げ止まれば、投資家のセンチメントは一夜にして悪化する。原油価格の上昇そのものより、それが引き金となってバブルの崩壊が現実味を帯びる方が、世界経済にとって大きな問題だろう。
――日本への影響は。
トランプ氏は当初、短期決戦を想定していたようだが、ここに来て「4週間続ける」と言い出した。支持率を気にするよりも、レガシー(功績)を残そうとする自己顕示的な動きが目立っており、軍事作戦の予測が立ちにくいが、日本は約250日の原油を備蓄している。海峡の封鎖状態が1ヶ月程度続いたとしても、日常生活や経済活動そのものが止まるような事態は想定しづらい。
また、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は地上のパイプラインを用意しており、積み替え作業などで供給が多少遅れることはあっても、代替手段として活用できるだろう。
(聞き手・小川悠介 編集:橋本浩)
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