• 2026/04/01 掲載

アングル:中東の高級車市場に戦火の影響、金箔仕上げなど高利益の特注モデル凍結

ロイター

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Nick Carey Rachel More Giulio Piovaccari

[ロンドン/ベルリン/ミラノ 30日 ロイター] - アラビア建築に着想を得たレーザー刻印入りのボンネットや、それに調和する木目仕上げの内装――これらはイラン戦争前の2月、ロールスロイスがドバイの顧客から依頼を受けて製作した一点物のモデル「ファントム・アラベスク」に施された、贅(ぜい)を尽くした仕様の一部だ。

大半の高級車メーカーにとって、中東市場は販売台数こそ全体の10%未満に過ぎないものの、利益の面では数字を大きく上回る影響力を持つ。だが世界的に需要が減少しているいま、脅威にさらされている。

標準的なロールスロイス・ファントムの価格は約43万ポンド(9074万円程度)からだが、湾岸諸国の富裕層向けにオーダーメイドの特別仕様を追加すれば、価格は大幅に上がる。一部のモデルでは、特注の追加仕様だけで価格が2倍、3倍に跳ね上がることもある。

独BMW傘下のロールスロイス・モーターカーズは、ドバイで2カ所目となるショールームを開設したわずか1週間後にこの「アラベスク」を発表したが、その直後に米・イスラエルによるイランへの攻撃、それに続くイランによる湾岸諸国への攻撃が地域全体に衝撃を与えた。

独フォルクスワーゲン(VW)傘下、英高級車ベントレーのフランク・シュテファン・バリザー最高経営責任者(CEO)は3月初め、中東について「世界で最高の市場だ」と語っていた。

だが2月28日に戦争が勃発すると、湾岸諸国の多くの高級車ディーラーは一時的に閉鎖された。イタリアのフェラーリやステランティス傘下のマセラティは3月、納車を一時停止したが、両社ともショールームはその後再開したと述べている。

ロールスロイスは質問に回答するメールの中で、中東の状況を「注視している」と説明。「状況は流動的であり、長期的な影響について推測するのは時期尚早だ」との見方を示した。

一方、高級車ブランドを全て取り扱うドバイのディーラー「ファーストモータース」は開戦後の数日間は店を閉じていたが、その後営業を再開した。

クリス・ブル取締役によれば、同社のショールームはフェラーリやブガッティの品揃えで最もよく知られており、約25万ドルから最高1400万ドルまで幅広い価格帯の車を販売しているという。

ブル氏によると営業再開以来、売り上げは約30%減少したものの、140万ドルを超える価格帯の販売は安定的に推移。アラブ首長国連邦(UAE)以外での販売も堅調を維持している。

「正面玄関から入ってくる客の数は明らかに減っているが、安定した業績を維持できている」とブル氏は言う。中には700万ドルの車を国外へ空輸するため、最高3万4000ドル以上を払う人もいると付け加えた。

<極めて高い利益率>

ベントレーと同様に、ランボルギーニ、イタリアのフェラーリ、タタ・モーターズ傘下のジャガー・ランドローバー(JLR)、独ポルシェなどのブランドは、紛争の迅速な終結を願いながら神経を尖らせている。

VWのオリバー・ブルーメCEOは3月初めの記者説明会で、中東での販売について「非常に利益率が高い」と述べ、イラン戦争については「確実に影響が出るだろう」と言い添えた。

ほとんどの高級車メーカーは地域別の利益率を公表しておらず、ベントレーやロールスロイスを含む一部のメーカーは世界販売台数も発表しなくなっている。

ただフェラーリは、昨年の中東での販売台数は全体の4.6%を占め、中国での販売台数を上回り、24年の3.5%から上昇したと発表した。広報担当者によれば、この地域での販売は今のところ安定しているという。

中東ならではの特徴として、限定モデルの存在が挙げられる。希少な木目調の装飾パネルや真珠母貝の象嵌(ぞうがん)、金箔仕上げといった意匠を凝らした1台には、極めて高い付加価値が認められ、自動車メーカーは多額のプレミアム価格を上乗せして販売できる。

例えば24年、JLRは「サダフ」エディションのレンジローバー・スポーツSVを20台販売した。価格は1台あたり約33万ポンドで、英国での最低価格の約3倍に当たる。

英アストンマーティンのアンディ・パーマー元CEOは、在任中は中東の富裕なコレクターに対して利益率の高い特別仕様車を提案するのが最初の仕事だったと語った。

「(買うかどうか)聞くまでもなかった」とパーマー氏はロイターに語った。

業界幹部らによると現在、この地域における特注ビジネスはほぼ完全に停止しているという。

ベントレーのバリザーCEOは「中東の人々は今、新しいベントレーを探すよりも、ほかに考えるべきことがある」と述べた。

<「壊滅的だ」>

米国での販売が関税を巡る不確実性の影響を受け、中国や欧州での需要が急落する中、高級車メーカーには成長の源泉がほとんど残されておらず、減産を検討せざるを得ない状況にまで追い込まれている。

イラン戦争の前から、ベントレーの昨年の売上高は5%減少していた。だが同社のアクセル・デビッツ最高財務責任者(CFO)は3月、記者団に対し、現時点では減産の必要性は感じていないと述べた。

「ただ現在の危機が数週間続くようなら、状況を再検討する必要があるだろう」とも話した。

ランボルギーニのステファン・ビンケルマンCEOは3月、新型コロナウイルスのパンデミック以来、多くの課題に直面してきたと振り返る。さらに「米国に代わるような、販売台数を押し上げてくれる新たな市場など、もうどこにも存在しない」と付け加えた。

22年のロシアによるウクライナ侵攻後、ロシアでの販売は停止し、中国の高級車市場は「崩壊」した。ランボルギーニにとって最重要市場である米国は関税の打撃を受け、そして今、中東市場も失速していると同CEOは言う。

元アストンマーティンCEOのパーマー氏にとって、今回の状況はこれまで経験したことのないものだ。

「特にプレミアム・高級車メーカーにとって、全くの破滅だ」

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