• 2020/08/18 掲載

アングル:コロナで鈍るダイヤの輝き 世界の生産・取引が麻痺状態

ロイター

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[ヨハネスブルク/ムンバイ 12日] - 新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)は世界中のダイヤモンド産業を動揺させた。レソトからカナダに至るまで各国でダイヤモンド鉱山が操業を停止し、サプライチェーンも混乱している。ラジェン・パテルさんも、これまでのダイヤモンド研磨業を辞め、ピーナッツ栽培に転じることになった。

パテルさんはこれまで10年間、インドのスーラトで働いていた。世界中のダイヤモンドの約80%はこの街で研磨されている。だが、ウイルス感染例が急増するなかで、パテルさんも街を離れる宝飾産業労働者たちに加わった。故郷の村で農業を始めたパテルさんは、今後数ヶ月はスーラトに戻るつもりはない。

「収入はスーラトにいた頃には及ばないだろうが、食うに困るというほどではないし、ここなら新型コロナに感染する不安もない」と彼は言う。

<大粒・高品質には根強い需要>

パンデミックのなかでダイヤモンドに対する需要は急減。取引は滞り、価格は下落した。一時的な鉱山の閉鎖が恒久化するリスクが見えてくるなかで、ダイヤモンド採掘企業は、原石からより多くの価値を引き出す方法を模索している。

金融機関や販売データによれば、唯一明るい話といえば、大粒・高品質のダイヤモンドに対する裕福な投資家からの需要は安定していることだ。

「資産リスクヘッジの手段として、こうした贅沢な宝石類を購入しようという人々からの引き合いはかなり増えている」と語るのは、ダイヤモンド・宝石・時計産業に特化したノンバンク金融機関として最大手のデルガト・ダイヤモンド・ファイナンス・ファンドのクリス・デルガト最高経営責任者(CEO)。

ダイヤモンド取引サイト「ラップネット」のデータによれば、高品質の1カラット級ダイヤモンドの価格は着実に上昇しており、現在、年初比で約12%高くなっている。同じサイズでも品質の劣るダイヤモンドの価格が引き続き振るわないのとは対照的だ。

ブルーロック・ダイヤモンドのガス・シンバネガビCEOは、「こうした最もハイエンドな層を相手にしていれば、まだ需要はある。この種の商品を求める人は、価格低下のプレッシャーをあまり感じないからだ」と語る。

だが、大粒で高品質のダイヤモンドの鉱脈を確保できる幸運な採掘企業はごく少数で、リスクに直面している生産者も見られる。

<コロナ自粛で原石価格が急落>

COVID-19(新型コロナ感染症)により、採掘企業は原石出荷の中止・延期に追い込まれた。主要なダイヤモンド展示会がイベントや移動の制限により中止されたからだ。実現した少数の出荷についても、ダイヤモンド原石の価格は15─27%下落している。

デビアスのブルース・クリーバーCEOはロイターに対し、「第2四半期の状況は、これまでの生涯で経験したことがない」と語った。「実質的に、まともに機能している原石市場が存在しなかった」

インド宝飾品輸出促進協会(Gem & Jewellery Export Promotion Council)のデータによれば、2月に15億ドル(約1601億円)だったインドのダイヤモンド原石輸入額は、4月にはわずか100万ドルへ急減した。

アントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センターのデータによれば、やはりダイヤモンド加工の中心地であるアントワープでも、上半期の原石輸入額が前年同期比で20%減少した。アントワープからの研磨済みダイヤモンド輸出額も46%減少している。

<新たな取引形態の模索も>

採掘企業の生き残り策が急務になる中で、研磨済みダイヤモンドの一部を従来の価格決定方式ではなく、新しい手法に振り向けようという動きもある。RCCダイヤモンド・コンサルタントでマネージング・ディレクターを務めるリチャード・チェトウォード氏は、いずれは採掘企業が高級宝飾品ブランドと直接提携する可能性もあると予測している。

オーストラリアのルカパ・ダイヤモンドは、レソトのモタエ鉱山で生産する高品質ダイヤモンドの一部を売却する契約を「ハイエンドの研磨事業者」とのあいだで締結した。相手方の名称は明かされていないが、カラット当たり505ドルに加え、その後の加工済みダイヤモンドの売却利益の50%を受け取る条件だ。

ボツワナに複数の鉱山を持つルカラ・ダイヤモンドは7月、アントワープのダイヤモンド加工企業HBグループに対し、同社が採掘した10.8カラット以上のダイヤモンドを推定加工後価格の一定比率の価格で売却する契約を締結した。

ルカラのアイラ・トーマスCEOは、「ダイヤモンド産業全体として、売買システム近代化に向けた現実的なチャンスがある」と語る。ルカラはオンラインでのダイヤモンド取引サイトも立ち上げた。

一方、採掘企業の側には、生産減少が価格回復を促すのではないかという期待もある。独立系アナリストのポール・ジムニンスキー氏の予測では、特にリオ・ティントがオーストラリアで保有する大規模なアーガイル鉱山の生産停止が近づくなかで、グローバルなダイヤモンド生産量は2025年まで抑制される可能性が高い。

パンデミックを理由として休止した複数のダイヤモンド鉱山は、まだ操業を再開していない。ストーノウェイ・ダイヤモンドがカナダに保有するレナード鉱山、ペトラ・ダイヤモンドがタンザニアに保有するウィリアムソン鉱山、ファイアストン・ダイヤモンドがレソトに保有するリコボン鉱山などだ。ファイアストンでは、現金資産の温存のために4月まで同鉱山の閉鎖を続ける可能性が高いと述べていた。

<供給絞り込みは難題>

一方、アフリカに注力しているペトラ・ダイヤモンドは、債権者とのあいだで再建協議に入っている。カナダのノースウェスト準州では、ダイアビク鉱山を保有するリオ・ティントの合弁相手企業が、資金繰り困難のために会社更生手続を申請している。

グローバルなダイヤモンド宝飾品市場での需要急減に対応できる程度に供給を絞れるかどうかは不透明で、デビアスでさえ厳しさを感じており、同社は人員削減を行う可能性は高いと話している。この市場の規模は、2019年は800億ドルに達したとの試算もある。

ダイヤモンド業界では、パンデミックにより人々が人生における優先順位を見直しており、結婚を予定する人が増えているため、婚約指輪の売り上げが伸びるのではないかと期待しているが、実際の数字には反映されていない。

宝飾品販売ティファニーの2─4月期業績では、婚約指輪関連の売り上げはほぼ半減し、同社として最も不振が深刻なカテゴリーとなった。

ユーロモニターによれば、高級宝飾品全体の売上高は、昨年の3%増加に対して、今年は19%の減少になると予想されている。

(翻訳:エァクレーレン)

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