- 2021/01/03 掲載
展望2021:自動車市場の回復は22年、電動化はHV優位=SBI証券 遠藤氏
日本でも動き出した「脱ガソリン車」の流れは、米・欧・中・日の主要市場でそれぞれペースが異なるものの、電気自動車(EV)が一気に広まることは考えにくく、当面はハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)が優位だと予測する。その中で自動車業界ではグループの結束がさらに進むと指摘する。
遠藤氏の見解は以下の通り。
<コロナ前水準に新車需要戻るのは22年から>
2021年の世界新車需要は約8700万台と、新型コロナウイルスの世界的な大流行で打撃を受けた20年(見込み)に比べて12%増を想定している。ただし、外出規制やロックダウン(都市封鎖)が世界各国で頻繁に起きない、広がらないのが前提だ。コロナ前の19年水準(9130万台)に戻るのは22年になるだろう。
22年まではコロナ前の水準に回復しないとみる最大の要因は、景気が戻らないこと。もう1つは、コロナ禍またはコロナ後の時代は、車が必要になる人と必要でなくなる人のプラス・マイナス両方が存在するということだ。感染防止の観点から、不特定多数が利用し、密になりがちな公共交通機関を避け、マイカーを好む人がいる一方、わざわざ車を使って出勤しなくても済むテレワークの人もいるためだ。
コロナ禍が新車需要拡大につながるかどうかもまだ未知数だ。日本ではこれまで車に関心がないとみられていた若者の多くが免許を取ろうとしているとされており、こうした動き自体は自動車業界にとってプラスであることは間違いない。ただ、免許を取得したとしても、実際に若者が新車を買うかどうかだ。購入するのは割安な中古車かもしれないし、仕事で必要なだけかもしれない。
海外でも公共交通機関を使わずに移動できるマイカーへの関心は高まっているが、インド、タイ、アフリカなどでは新車よりも安く手にできる中古車の販売が増えている。
ワクチンの安全性が評価されて接種する人が増え、感染状況が大きく改善すれば、世の中の動きもかなり変わるだろうが、今のところはまだワクチンによる効果を新車需要見通しには織り込んでいない。
<米国の環境政策の行方は不透明>
米国市場の先行きも不透明だ。トランプ現政権の政策とは打って変わって、民主党のバイデン次期政権は積極的な環境政策を打ち出す見込みだが、共和党が上院で過半数を維持した場合は承認手続きが難航する恐れがあり、環境政策は進まない可能性がある。
現在、歴史的に安い水準にあるガソリン価格が今後何かのきっかけで大幅に値上がりしない限り、規制による強制力がないと米国の消費者は大型のガソリン車を好んで買うだろう。EVメーカー大手のテスラ以外、自動車メーカーがこぞってすぐEVなどに注力するという展開にはなりにくいかもしれない。
一方、環境規制が一段と厳しくなる欧州や中国では、EVやPHVなどの電動車販売比率が各社で高まることは間違いない。特に中国ではHVも優遇策があるので、HVの需要も高まる。ガソリンエンジンのみの車は大幅に減るだろうが、中国や米国、日本といった主要市場ではHVやPHVがまだまだ多く、HVに強いトヨタ自動車には有利だ。
<EV普及には政府支援必要>
日本では消費者の多くが必ずしも積極的にEVを買える状況にはなっていない。電池コストがまだ高く、車両価格はガソリン車に比べると割高感が強いだけでなく、充電時間の長さや充電インフラ整備といった課題も解決していない。
EVは急速充電でも約30分かかる。充電器の種類や車種などにもよるが、普通充電では8時間程度かけないと、充電なしでは安心して長距離を走れない。エアコンを使えば電力はさらに消費され、航続距離が一気に短くなる。自宅で寝ている間などに長時間充電しておくのが望ましいとされるが、マンションなどが多い日本では車を持たない住民との合意が難しく、充電スタンドの設置が進みにくい。こうした課題解消に国がどの程度動けるかにもかかっている。
<グループの結束強化>
日本では、東京都の小池百合子知事も都内で新車販売される乗用車について30年までにガソリンエンジンだけの車をなくし、すべて電動車にする目標を明らかにした。自動車メーカーへの影響は今後の制度設計にもよるが、懸念されるのは国内新車販売の約4割を占める軽自動車だ。軽自動車には簡易型のHV技術を搭載した車種もあるが、現在は価格優位性が薄れてしまう電動化の比率は低い。
ただ、軽自動車が中心のダイハツ工業やスズキはHV技術を力のあるトヨタからもらうことができるし、三菱自動車も独自のHV技術を持つ日産自動車との連携を強めれば、対応可能だ。環境規制強化に押される形で自動車メーカー間の結束は一層強まるだろう。
(聞き手:白木真紀)
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