- 2021/07/21 掲載
アングル:米企業、コロナ後の通勤再開計画はCEO次第
新型コロナウイルスワクチンの接種が始まって以来、ホワイトカラー従業員をいつ職場に復帰させ、どれくらいの頻度で通勤させるかという問題が米企業を悩ませている。同じ業界でも企業ごとの対応がしばしば異なるのは、トップ個人の好みがこの重要な意思決定に強く反映されているからだ。
米エール大のジェフリー・ソネンフェルド教授は「CEOの性格や人となりは、育ってきた文化と分かち難く結びついている」と言う。
コンサルタント会社デロイトが4月に実施した調査によると、米企業の約3分の2は職員の完全なオフィス復帰、あるいはリモート勤務と通勤を組み合わせる「ハイブリッド型」勤務の導入を計画している。約25%の企業は既にオフィスを再開した。
ウォール街では、JPモルガン・チェース、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスのCEOが職員に対し、夏の終わりまでに職場に復帰するよう求めた。これに対し、シティのフレーザー氏は、9月から週3日だけ通勤する働き方を認めると通告した。
ハイブリッド型の支持派は、柔軟性を認めるフレーザー氏のメッセージの方が、他の金融大手のCEOよりも従業員の心をつかむとみている。
ウォール街は長時間勤務の文化がたたり、コロナ禍中にさまざまな過労問題が持ち上がった。フレーザー氏(54)は3月、従業員向けのメモでコロナ禍による負担の増加を認め、金曜はオンライン会議をせずリセットの日にするという「Zoom(ズーム)・フリー・フライデー」の励行や、勤務時間外の電話の抑制を呼びかけた。
スコットランド出身のフレーザー氏は、自身がかつて2人の子どもを育てるためにコンサルタントの仕事をパートタイム勤務で行っていたが、米大手銀行初の女性CEOになる上で、その経歴は障害にならなかったと語りかけた。
シティはコメントを控えた。
一方、長時間勤務で知られるアップルのクックCEO(60)は従業員に対し、秋から少なくとも週3日は通勤するよう求めた。完全なリモート勤務を認める大手IT企業の潮流と一線を画すものだ。デロイトによると、主要産業の中でIT業界は最も通勤している従業員が少ない。
クック氏の決定に一部従業員は反発し、書簡で再考を求めたが、聞き入れられなかった。クック氏は当初、夏の通勤再開を計画していたが、期限を秋に延ばした経緯がある。
クック氏は、従業員同士が顔を合わせて協力することに重きを置くアップルの文化の中で育ってきた人物だ。共同創業者の故スティーブ・ジョブズ氏がカリフォルニア州クパチーノに建てる円形の本社の設計に携わっていた時、彼の念頭には、社員が輪の中を歩き回るうちに他の社員と出くわし、チームを横断した即興のアイデアが生まれるという将来像があった。
アップルもコメントを控えた。
<仮想オフィスに前向きな企業も>
他にも「仮想オフィス」に前向きなIT企業のCEOがいる。
米顧客管理ソフト大手セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフCEOは、ロックダウン期間の一部をハワイの自宅で過ごした。コロナ禍前も、サンフランシスコの本社に張り付くのではなく世界中を動き回っていたと複数の関係者が話している。
広報担当者によると、同社は毎週、全職員向けの電話会議を開いている。取締役のアラン・ハッセンフェルド氏によると、同社の経営幹部らは、職員が企業という「オハナ」――ハワイ語で家族――の一員だと感じることを目指し、職員らの意見を聞いてきた。
広報担当者によると、同社の通勤再開計画では、大半の職員を週1日から3日だけ通勤するフレックス勤務とする方針だ。
企業CEO向けのコーチングに携わるグレン・ゴウ氏は「企業の通勤再開計画はCEOの人となりと密接な関係がある。なぜなら再開計画は企業文化と関係があり、その企業文化は他ならぬトップから生まれるからだ」と話した。
(Jessica DiNapoli記者)
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