• 2021/08/10 掲載

アングル:ストロング系に酔えない大手ビール会社、健康志向で軸足シフト

ロイター

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清水律子

[東京 10日 ロイター] - ここ数年、人気を集めてきた「ストロング系」と称される高アルコール度数の缶チューハイに健康被害を誘発するとの指摘が高まり、大手ビールメーカーが慎重姿勢に舵を切り始めた。世界的な健康志向の高まりを受け、酒を飲めない人だけでなくあえて飲まない人も増加する中で、伸びてきた低・ノンアルコール系に軸足を移しつつある。

<コロナ禍でも伸びる高アルコール、撤退も>

コロナ禍で外食での飲酒機会が減少、アルコール市場は苦戦を強いられている。その中で、缶チューハイなどのRTD(Ready to Drink)は5年連続で2桁増となるなど好調を維持している。特に、コロナ禍で家飲みが増加する中、気軽に飲むことのできるRTDの需要は高い。

健康志向からノンアルコールや低アルコール市場が拡大する一方で、大手ビールメーカーを中心に競うように拡販してきたアルコール度数7―9%の缶チューハイ、いわゆる「ストロング系」も「飲みやすく、安価に酔える」ため引き続き市場を拡大している。

調査会社インテージによると、度数7―9%の商品の2020年の販売金額は2599億円で14年比で倍増。金額構成比でも年々比率を高め、20年にはRTDの62%を占めるに至っている。

こうした中、沖縄県の酒類メーカー、オリオンビール(浦添市)は、20年4月に高アルコール製品の販売を終えた。度数7%以上の製品は、「WATTA」シリーズの売れ筋だったため「社内では葛藤しかなかった」とマーケティング本部の原国秀年課長は笑いながら振り返る。しかし、アルコール依存症の治療施設などを訪れ「睡眠薬代わりに飲んでいた」などの話を聞き、決断に至ったという。

<アルコールグラム表示が後押し>

高アルコール商品は、短時間で多量のアルコールを摂取する「一時多量飲酒」を誘発するとして問題視する声が上がっている。度数9%の商品を1缶飲めば、生活習慣病のリスクが高まる1日当たりのアルコール摂取量(男性で40グラム以上、女性で20グラム以上)を上回ってしまう。

秋田大学大学院医学系研究科の米山奈奈子教授は、厚生労働省の会議で「消費者がそういうことを知らずに飲んでしまうことが危険。そうした危険性のあるアルコール飲料を企業が製造する責任は取れないのか、製造に関して踏み込んだことは言えないのか」と述べるなど、より踏み込んだ規制を求める声すら出ている。

メーカー側は、アルコール度数とともにグラム量の表示を段階的に進めている。これは、3月に閣議決定した「アルコール健康障害対策推進基本計画」の中で求められたもので、政府関係者は「グラム表示が進めば、販売している商品との矛盾が明らかになる。抑止策につながることを期待している」と話す。

<高アルコールから低アルコールへ>

ビール大手4社は、現段階で「消費者のニーズはある」として「ストロング系」の取りやめには至っていない。ただ、一時のように強く消費を促すことはやめている。

キリンビール(東京都中野区)の布施孝之社長は、高アルコール製品への需要は高く、ブランドとしても存在するが「アルコール問題を助長するコミュニケーション(広告活動)は一切やらない」と、慎重な取り扱いをしているという。「資源を集中したり、コスパが良いなどの広告表現は一切せずにケアしながら売っている」と説明する。

キリンでも、現在最も売れ筋の「氷結無糖」は4%のアルコール度数となっている。

アサヒビールは「スマドリ(スマートドリンキング)」を提唱、お酒を飲めない人に加え、あえて飲まない人を合わせた4000万人をターゲットにして商品を投入。2025年までに度数3.5%以下の商品の比率を20%にする計画だ。

松山一雄専務は「スマートドリンキングを推進する中で、高アルコールは避けては通れない課題だと認識している。中長期的に高アルコールにどう取り組んでいくかは、議論をしている」という。現時点では、商品の取りやめの判断は行っていないものの「度数が低くても十分魅力ある大人向けの飲料は開発できると思っている。今後出していく新商品は、できる限り高アルコールの領域ではないもので、魅力ある商品を出していくことで徐々にそちらの方の消費が増えていく世界が実現できればいいと思う」とし、徐々に舵を切る方針を示している。

オリオンビールは、沖縄の素材を用いた商品などの首都圏販売にも乗り出した。高アルコールチューハイの販売を取りやめた後、20年5月からの1年間で「WATTA」シリーズの売上高は65%増となった。低アルコールの品揃えを拡充して、今年は3倍の拡大を狙う。

「一部消費者からは残念という声もあったが、9割は支持の声だった」。こうした会社の姿勢と消費者の支持は、今後、大手企業の方針転換の後押しとなるかもしれない。

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