- 2021/08/24 掲載
焦点:「それでも幕は上がる」 ブロードウェー、新たな投資得て再開
9月に再開するミュージカルや演劇に向けて、楽観的な空気は強い。シーズン最初を飾るのは『ハミルトン』『ライオン・キング』『ウィキッド』だ。
<ルーディン氏引退、新たな投資家を呼ぶ>
再開に向けて定員制限は設けないが、観客、キャスト、スタッフのすべてにワクチン接種済みの証明が要求される。
もうリスク回避してはいられない。何百万ドル(数億円)ものチケット売り上げを失ったにもかかわらず、ブロードウェーのプロデューサーたちはすでに新たなプロジェクトを進めている。2020年3月から18カ月続いた劇場閉鎖の前には、3大ミュージカルだけで週に約100万ドル(約1億1000万円)の興行収入があった。
「プロデューサーというものは、自分が夢中になれる作品をプロデュースする。このビジネスに安心などない。安心が大事なら、投資銀行家や会計士、あるいは弁護士にでもなればいい」と語るのは、トニー賞受賞作ミュージカルの『キンキー・ブーツ』や『アイランド』をプロデュースしたケン・ダベンポート氏。
「この世界で成功するのは野心家だ。(略)これからの5年間、劇場のルネッサンスが実現すると信じている」と、現在6つの舞台を準備中のダベンポート氏は語る。
ブロードウェーで新作ミュージカルを1本立ち上げるには、初期投資として約1000万─1500万ドルが必要だ。そこには、キャストやスタッフの報酬、メーキャップ、舞台装置、広告宣伝費が含まれる。演劇の場合は、一般にコストはその半分以下だ。
有力プロデューサーのスコット・ルーディン氏はスキャンダルで表舞台から姿を消したが、それでもブロードウェーの楽観主義はくじけていないようだ。同氏はスタッフに対するパワーハラスメントの告発を受け、この4月に引退を表明した。ルーディン氏は自らの行為を謝罪している。
ルーディン氏の引退は、むしろ新たな投資家への門戸を開いた。その一方で、ミュージカル『ファニー・ガール』のブロードウェー初となる再演や、『ドリームガールズ』再演に向けた企画など、予算規模の大きいプロジェクトの機運が削がれたわけでもない。
「バラエティ」誌編集者のゴードン・コックス氏は、「(ルーディン氏の事件で)穴が開いたわけではない」と語る。「ブロードウェーの舞台への投資などかつて打診されたこともなければ、自分が参入できる世界だと考えてもいなかった投資家の集団が大勢いる。いまや、彼らはブロードウェーへの投資は可能だと感じているし、それがクールだと考えているようだ」
<秋の新作演劇、すべて黒人脚本家の手で>
辛い閉鎖の後では、すべてがバラ色というわけにはいかない。
ディズニーミュージカルの『フローズン(邦題:アナと雪の女王)』は再演されていないし、ルーディン氏のプロデュースで2020年に再演された『ウエストサイド物語』もそうだ。『ハリー・ポッター』シリーズの2作は1作にまとめられてしまったし、パンデミック以前に企画されていた『セールスマンの死』や『わが町』といった古典的な作品の再演については音沙汰もない。
業界団体ブロードウェー・リーグは、今後数カ月のうちに公式チケット売場の再開を発表する見込みはないと表明している。またチケット販売サイトによれば、『ウィキッド』『アラバマ物語』といった以前人気のあった舞台のチケット販売も今のところ芳しくない。
その一方で、この秋には7本の新作演劇の上演が発表されており、脚本家はみな黒人である。いくつかは今回初めてブロードウェーに参入する投資家が出資している。その1人が、テレビネットワークBETの共同創業者であるシーラ・ジョンソン氏だ。同氏が資金提供する公演は『Thoughts of a Colored Man』だ。ジョンソン氏と人気シェフのカーラ・ホール氏は、黒人による料理の歴史を描いた新作ミュージカル『Grace』にも投資している。
俳優のブレア・アンダーウッド氏と、元バスケットボール選手のレニー・モンゴメリー氏は、『ゴドーを待ちながら』の現代的翻案である『Pass Over』の舞台に投資している。
「ブロードウェーにはさまざまな経路から新たな資金が流入してきている。非常に助かっているし、資金に多様性があることも、興味深く新鮮だ」と、10月開演の『Thoughts of a Colored Man』のプロデューサー、ブライアン・モアランド氏は語る。
ダベンポート氏によれば、リスクを取るのは常にブロードウェーのDNAの一部だという。
「『ハミルトン』『ファンホーム』『春のめざめ』『ヘイディズタウン』『ディア・エヴァン・ハンセン』といった、かつて最も成功し、最もエキサイティングだった作品も(リスクがあったという点では)同じだ。当時の新聞を見れば『誰がこんなものを観るのか』という(厳しい評価が)書いてある」。
「今後の1年間をにらんで、本当に野心的でエキサイティングな選択がされてきた。まさにそれがプロデュースというものなんだ」と同氏は、ブロードウェー再開に向けた現場の盛り上がりを語る。
「プロデューサーたちは言っているよ。この作品が好きだ、この作品のメッセージが好きだ、自分がやってやる、パンデミックが何だ。だってこの作品はブロードウェーにふさわしいじゃないか、とね」
(Jill Serjeant記者、翻訳:エァクレーレン)
PR
PR
PR