- 2021/10/22 掲載
アングル:中国当局、人民元急上昇になぜか沈黙
人民元は9月初めから上昇し、ドルに対しては今週1ドル=6.4元を超えて4カ月ぶりの高値を付けた。しかし当局は今のところ、実弾介入も口先介入も行っていない。中国国家外為管理局(SAFE)のトップは20日、当局は人民元の安定を維持すると述べるにとどまった。
景気減速の兆候が強まる中でのこの沈黙ぶり。アナリストは、中国人民銀行(中央銀行)が「人民元の行方は市場に任せる」という言葉を本当に守っているのではないか、と推測している。
有力な仮説は、当局が不動産やハイテクその他多くのセクターに関する規則や資金調達手段の見直しに集中する間、為替だけが放置されてきたというものだ。ほかにも、米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めを始め、外貨の流入が減るのを人民銀行は待っている、という説もある。
いずれにせよ、人民元のCFETS指数(24通貨に対する実効レート)は20日、2015年末の指数設定以来始めて100を突破。市場参加者は少しでも真相を解明したいと躍起になっている。
メイバンクのアナリストチームは、人民元高が現在、希少な原材料やエネルギーの輸入コスト上昇に歯止めをかけている点を指摘した。
人民銀行とSAFEのコメントは取れていない。
中国は電力不足、不動産セクターの規制強化、新型コロナ感染再発に伴うロックダウンなどが重なり、第3・四半期に成長率が大幅に減速した。しかし人民銀行は政策金利を据え置き、流動性供給の手綱を締めたままだ。
OCBCバンクのトミー・シエ氏は、人民銀行・金融政策局の孫国峰局長が最近、金融環境のバランス維持に言及したことに着目。「中銀は今、非常に自信を持ってゆったり構えているようだ。資本流出のリスクは低く、流動性は比較的コントロールしやすい」と述べた。
貿易黒字の拡大、資本流入、銀行システムが抱える潤沢なドルを背景に、人民元は今後も堅調に推移するとシエ氏は予想した。
<容認の限界は>
中国の金融当局は過去4年間、人民元レートの比較的大きな振幅を容認してきたが、人民銀行がレートを厳格に管理していることは今も変わりない。この間の無干渉姿勢を可能にしてきたのは、安定した外貨準備だ。
当局は過去に口先介入のほか、状況に応じて預金準備率(RRR)の調整、日々の人民元基準レートの利用、国有銀行によるスワップ市場での介入といった手段を用いてきた。
CFETS指数は2016年以来おおむね92―98のレンジ、外貨準備は3兆ドル兆で、それぞれ推移してきた。
しかし同指数は年初から5.75%上昇。中国の債券・株式市場への資金流入と、輸出業者の利益急増を背景に、人民元が円、ユーロ、韓国ウォンに対して上昇したことが主因だ。
人民元のドルに対する上昇率は約2.2%にとどまっている。
みずほ銀行(香港)のアジアFX首席ストラテジスト、ケン・チュン氏は「CFETS指数の100超えは中国の輸出業者を圧迫するはずだ」と予想しつつも、輸出は今も非常に堅調だと指摘。「中銀が人民元高を容認できるのはこのためだ。加えて、米中が貿易合意の第1段階を見直しているこの時期に人民元が下がると、センシティブな問題になりかねない」と解説した。
アナリストによると、人民銀行が通貨高を我慢できる理由としてはこの他、銀行システムが抱える多額のドルの存在が挙げられる。これは過去数年間、国有銀行・企業が有り余るドル建て収入を預金した結果、積み上がったものだ。
こうしたドル預金は6月に過去最大の1兆ドル余りに達した後、わずかにしか減少していない。
東呉証券の首席マクロアナリスト、タオ・チュアン氏は「人民元がファンダメンタルズから離れた主な原因は、国内で積み上がったドルの流動性にあると考えている」と話す。
チュアン氏は「人民銀行は外為市場での頻繁な介入姿勢から脱した上、対外投資のルートは不足し、国内金融機関は制限をかけられているため、ドルを中心とした多額の外貨が商業銀行の口座に積み上がった」と説明した。
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