- 2021/11/02 掲載
アングル:中国の不動産危機、NYやロンドンの大規模プロジェクトに影
危機の中心にいるのは中国恒大集団だが、他の中国不動産開発企業も過去10年間、競い合うように世界各地で高層ビルを建設してきた。
上海の緑地控股集団はこのほど、シドニーで最も高層の居住用タワーを建設したばかりだ。同社は恒大集団に負けず劣らず、中国不動産企業の債務抑制規則、「三道紅線(3本のレッドライン)」に抵触している。同社はロンドンでも高さ235メートルの居住タワー建設を計画しているほか、ブルックリン、ロサンゼルス、パリ、トロントにも数百億ドル規模のプロジェクトを抱えている。
緑地控股集団は、このロンドンの物件「Spire London」を含めた旗艦プロジェクトを完遂する姿勢に変わりはないとしている。しかし今年に入り、別のロンドンの大型プロジェクトについて、一部を売りに出した。
また恒大集団と佳兆業集団はいずれも、資金確保のために香港の物件を売却しようとしている。中国泛海控股(チャイナ・オーシャンワイド・ホールディングス)は、サンフランシスコきっての高層タワーとなるはずの物件を債権者らに差し押さえられたばかりだ。
資産運用会社ベアリングスの幹部、オモトゥンデ・ラワル氏は「何事もそうだが、資金繰りの問題に見舞われると投資不動産の売却を考え始めるものだ」と語る。
ラワル氏によると、多くの中国企業は海外の主要プロジェクトを競り落とすために過大な価格を支払ってきたため、買い手がつくかどうかは疑問だ。「おそらく取得時のコストで売ることはできないだろう。(いくらで売るかは)どれだけ背に腹を変えられなくなるか次第だ」という。
<大規模な資産売却>
10月に緊急の資金注入を受けた広州富力地産(広州R&Fプロパティーズ)にも注目が集まる。同社はロンドンに未完工の巨大開発プロジェクトを2件抱える。オーストラリア、カナダ、米国にも数多くの物件を持つ。
ロンドンの同社広報担当者は、英国のプロジェクトすべてに「完全にコミットしている」と述べた。
しかし同社は、向こう1年間で80億ドル近い債務が返済期限を迎え、自由に使える手元資金はわずか20億ドル、先月の売上高は前年同月比30%近く落ち込んだとあって、主要格付け会社から資金手当てが必要になると指摘されている。
格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は「R&Fが近く期限を迎える債務を返済するには、大規模な資産売却が必要になる」とし、ビルからホテル、各種プロジェクトのさまざまな権益まで、すべて売却する可能性があるとみている。フィッチはR&Fが売却する可能性のある資産を8360億元(1300億ドル)相当と試算した。
R&F、恒大集団、緑地控股集団、佳兆業集団の各社はロイターの取材に対し、資金繰りについてコメントを控えた。中国泛海控股は、サンフランシスコのプロジェクトについて債権者と積極的に協議中だとした。
中国の不動産開発企業は2013年から18年にかけて、世界の主要都市で盛んに投資を行ったが、中国政府が過剰債務の取り締まりに乗り出すと、突然動きが減速した。
リアル・キャピタル・アナリティクスのデータによると、中国企業によるロンドンのプロジェクトへの投資は18年に280億ポンドを超えたが、今年前半は15億ポンドと、12年以来で最低だ。
不動産代理店ナイト・フランクの数字を見ると、オーストラリアや、ニューヨークその他の米主要都市でも同様の状況になっている。
もっとも、不動産会社ジョーンズ・ラング・ラサールの英国最高経営責任者(CEO)、ステファニー・ハイド氏は、中国企業が本国での危機を理由に資産売却を探る動きは見られないと語る。
ハイド氏は、中国企業が仮に売却に乗り出せば、比較的早く買い手が見つかると予想している。ロンドンなどの不動産市場には現在、世界的な投資マネーが押し寄せているからだ。ロンドンの不動産価格は現在、過去最高値を付けている。
不動産会社アビゾン・ヤングのロンドン中心部責任者、クリス・ゴア氏も、急に売却計画が増えた様子は見られないと言う。ただ、中国で危機が続けば重圧は強まる可能性はあるとし、「数社だけが売却を望んでも問題は生じないだろうが、すべての社が一斉に引き揚げたいと望んでも、それは不可能だろう」と語った。
(Marc Jones記者、Tommy Wilkes記者)
関連コンテンツ
PR
PR
PR