- 2022/04/01 掲載
アングル:ドルが対ロ制裁の「兵器」に、米国債購入減らす動きも
米国などの西側諸国は、ウクライナに侵攻したロシアに対して広範な経済制裁を実施。この結果、ロシアの中央銀行、政府系ファンド、民間銀行、一部個人は事実上ドルを決済に使えなくなっている。
ドルは世界一の準備通貨だ。しかしそのドルを経済的な兵器に使えば、多くの国々が徐々に進めてきたドル以外の通貨への分散投資が加速しかねないとアナリストは言う。
米外交問題評議会の国際政治経済担当フェロー、ゾンヤン・ゾー・リュー氏は「われわれがドルを(兵器に)使えば使うほど、諸外国は地政学的な理由で分散化を進めるだろう」と話した。
ドルが準備通貨の地位にあるおかげで、米国債を含む米資産の需要は押し上げられ、米政府は低めの金利で多額の国債を発行することが可能になっている。米国債は、他の市場に比べた市場規模の大きさと流動性の高さも投資家にとっての魅力だ。
しかし、ちょうど供給が増えるタイミングで一部投資家にとって米国債の魅力が薄れるとすれば、待ち受けるのは利回りの上昇かもしれない。
FRBは数カ月中に、満期を迎えた米国債の償還金再投資を中止し、8兆9000億ドル(約1100兆円)に膨らんだバランスシートの縮小を開始する見通しだ。併せてインフレ退治のために積極的な利上げも進める。10年物米国債利回りは28日に2.56%と、2019年5月以来の高水準を付けた。
近い将来に主要準備通貨がドル以外の通貨に切り替わる可能性は小さい。しかし徐々にでもシフトが進めば世界経済は分断され、決済通貨は今より均等にドル、ユーロ、中国人民元などの通貨に分かれるかもしれない。
バンク・オブ・アメリカのアナリストチームは24日のリポートで「制裁の新時代においてドルが兵器化するなら、最終的な結果はドルの地位低下だ」と指摘した。
こうした変化は既に加速しているのかもしれない。ウォールストリート・ジャーナル紙は今月、サウジアラビアが中国向け原油輸出の一部を人民元建てに切り替える交渉に入っていると報じた。
ロシアは2014年のクリミア半島併合を受けて西側から制裁を科されて以降、徐々にドルの保有を減らしてきた。2021年には、政府系ファンドが持つドル資産をすべて売却し、ユーロ、人民元、金の保有を増やすと表明した。
米財務省のデータによると、ロシアは10年前には1500億ドル前後の米国債を保有していたが、2018年半ばまでには無視できるほどの額に減った。
他の国々も米国債の保有を減らしている。
中国の米国債保有額は1月時点で1兆1000億ドルと、米国以外では日本に次いで世界で2番目の大量保有国だが、2013年の約1兆3000億ドルに比べて減っている。
サウジの1月の米国債保有額は1190億ドルと、2020年2月の1850億ドルから減少した。
2000年代半ばに、2年にわたるFRBの利上げサイクルにもかかわらず米国債利回りの上昇が抑制されたのは、産油諸国の買いが大きな要因だったとみられている。
キャピタル・エコノミクスの市場エコノミスト、トーマス・マシューズ氏は、産油国は石油価格の高騰で潤っているにもかかわらず、今回は米国市場に参入する可能性が低いとみる。
「ロシアへの制裁は、大量の米国債(および米資産全般)を保有する多くの主要石油輸出国にとってちょっとした警戒信号になり、投資分散を加速させかねない。従って、2000年代半ばに見られたような外国の貯蓄による米国債の下支えは、今回の引き締めサイクルでは不在かもしれない」とマシューズ氏は述べた。
もっとも、こうした国々は米国債の購入を減らし続ける可能性こそあれ、大規模な売りに出るとは予想されていない。安全性と流動性を備えた代替的な投資先が乏しいため、米国債保有を減らすにしても限度がありそうだ。
また、米国債利回りが上昇を続ければ、新たな買い手が現れる可能性もある。
ジェフリーズの短期金融市場エコノミスト、トーマス・サイモンズ氏は「金利が上昇し、景気減速見通しが強まり続ければ、リスク資産から米国債への投資分散が起こるだろう。その結果、利回りはいわば自律的に安定するかもしれない」と予想。「今の環境は、米国債よりもリスク資産にとってのリスクの方が大きいと思う」と語った。
(Karen Brettell記者)
PR
PR
PR