- 2022/07/01 掲載
アングル:予想物価上昇でも日銀緩和継続か、賃上げ見極め
[東京 1日 ロイター] - 6月日銀短観で企業の3年後の物価見通しがプラス2%になるなど、中長期の予想インフレ率が明確に上昇した。これを受けて海外勢を中心に早期の政策修正への思惑が再び高まる可能性があるが、日銀は物価目標の持続的・安定的達成には賃上げが不可欠との立場を強調している。足元では米景気の先行き懸念も高まっており、市場では日銀は引き続き、金融緩和を継続するとの見方が強い。
<中長期の予想インフレも2%に>
日銀はこれまで「日本ではエネルギー価格の上昇を反映して短期のインフレ予想は上昇しているが、米欧と比べると中長期のインフレ予想はなお低めの状態だ」(若田部昌澄副総裁)としてきた。
しかし6月日銀短観によると、企業の物価見通しは1年後が前年比プラス2.4%、3年後が同プラス2.0%、5年後は同プラス1.9%。いずれも過去最高となった。
大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは、日銀は3年後の物価見通しを重視してきたと指摘。3年後の見通しが2%に届いた意義は大きいとする。
3年後の予想が2%に乗せたことで「中長期の予想インフレ率が上がっていないとは言えない」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニア・マーケットエコノミスト)との指摘が出ている。
日銀が公表している物価の基調を示す指標でも、これまで硬直的だった数値が上昇し始めている。日銀が6月28日に発表した物価の基調を把握するための指標では、ウエートを加味した品目別の上昇率分布で真ん中に位置する「加重中央値」はプラス0.4%となり、2カ月連続で2001年以降の最高を更新した。品目ごとの上昇率分布の「山」がプラス方向にじりじりと動いている。
<景気に暗雲、不透明な賃上げの行方>
しかし、六車氏は「まだ日銀は粘り強く金融緩和を続けるだろう」と話す。その理由の1つは賃金を巡る不確実性だ。
黒田東彦総裁は6月24日の全国信用金庫大会でのあいさつで「日本経済をしっかりとサポートし、賃金の上昇を伴うかたちで、物価目標を持続的・安定的に実現できるよう金融緩和を実施していく」と述べ、物価目標の達成には賃上げの実現が欠かせないとの見方を示した。
6月日銀短観では「対個人サービス」「宿泊・飲食サービス」といったコロナ禍で厳しい経営環境を強いられてきた業種の景況感が大幅に改善。ともにコロナ前の2019年12月以来の高い水準となった。日銀では、夏休みシーズンの到来で客足の増加が見込まれる中、宿泊・飲食などのサービス業で非正規雇用の賃金に上昇圧力が掛かれば正規の賃金に波及するとの期待感が出ている。
日本商工会議所によると、2022年度に所定内賃金の引き上げを実施した(予定含む)中小企業は50.9%に上り、前年6月調査の41.4%を上回った。
しかし、日本の場合、正規雇用の賃上げは年1回で春闘の動向を見極める必要がある。企業経営者にとって今年度後半にかけての景気動向が重要になる。
<米景気減速懸念>
6月の日銀金融政策決定会合では、供給制約による輸出・生産への下押し圧力が長引くことへの懸念も出ていた。
決定会合後の6月30日に発表された日本の5月鉱工業生産指数は、予想から大きく下振れて前月比7.2%低下。中国のロックダウン(都市封鎖)により部品調達に影響が出たことで自動車をはじめ幅広い業種で生産が下押しされ、20年5月以来の大幅な下げとなった。
足元では米国の急ピッチの利上げで米国の景気減速懸念が浮上している。日銀の4月会合では、1人の委員が米国の金融引き締めによる米景気へのマイナスの影響について、1年から1年半後に顕在化するとの見方を示していた。
六車氏は、日本企業の中長期の期待インフレ率の高まりを受け、海外勢中心に政策修正観測が再び高まる可能性があるものの「世界経済や米国経済の先行きが下向きになって、(政策修正期待も)幻に終わってしまうのではないか」と話す。
(和田崇彦 編集:石田仁志)
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