- 2022/09/12 掲載
アングル:米株・債券市場、QT加速による一段の地合い悪化を警戒
新型コロナウイルスのパンデミック後にバランスシートを9兆ドルに膨らませたFRBは、今年6月に保有する米国債と住宅ローン担保証券(MBS)を毎月475億ドル減らす形でQTを開始。この減額規模を今月から950億ドルに拡大することも発表している。
こうした保有資産圧縮規模は過去に例がないほど大きく、FRBが長らく果たしてきた米国債の安定的な買い手としての役割を終える事態が資産価格にどう影響するか、現時点で正確に把握するのは難しい。
ただ何人かの投資家は、QTが進むのに伴って株式ないし債券の保有を減らそうとしている。金利上昇やドル高騰などと並行して展開することで、資産価格がより圧迫され、経済成長が打撃を受けると警戒しているためだ。
フェデレーテッド・ハーミーズのチーフ株式市場ストラテジスト、フィル・オーランド氏は「米経済はもうじりじりと景気後退(リセッション)に向かっており、FRBがQTのペースを速めれば株価下落と債券利回り上昇は加速するだろう」と述べた。同氏は最近、運用資産におけるキャッシュ比率を20年ぶりの高水準に引き上げた。
今年は既にFRBの利上げが株と債券の足を引っ張っている。S&P総合500種は年初来で14.6%下落。米10年国債利回りは182ベーシスポイント(bp)上がって直近で3.30%に達している。
最近の幾つかの経済指標は、米経済が金利上昇にもかかわらず底堅く推移している様子を示してきた。しかし多くのエコノミストの見立てでは、金融政策がさらに引き締め的になって来年にリセッションに突入するというシナリオの確率は高まりつつある。
ニューヨーク連銀は5月、FRBが2025年までにバランスシートを2兆5000億ドル圧縮するとの見通しを示した。
これが実体経済に及ぼす影響を巡っては、実に幅広い試算結果が公表されている。フェデレーテッド・ハーミーズのオーランド氏は、FRBがバランスシートを1兆ドル減らすごとに25bpの利上げ相当の引き締め効果を与えると予想。BMOキャピタル・マーケッツの米金利戦略責任者イアン・リンゲン氏も、来年末までの期間だけでQTは最大75bpの追加利上げに匹敵する可能性があるとみている。
ソシエテ・ジェネラルの北米クオンツ戦略責任者ソロモン・タデス氏は、FRBが最終的にバランスシートを3兆9000億ドル圧縮し、これは約450bpの利上げ効果に匹敵すると想定する。
タデス氏は「QTの強化が次の資産価格下落の引き金になる恐れがある」と語り、S&P総合500種は2900─3200のレンジに切り下がってもおかしくないと警告した。
ハーバー・キャピタル・アドバイザーズのポートフォリオマネジャー、ジェイク・シュールマイヤー氏は、金融環境の引き締まりによる流動性低下を受け、既に大規模な債券保有ポジションを構築する難しさが増していると指摘。今後はボラティリティー がさらに高まりそうだと身構える。その上で「われわれはいったん小休止してから何か行動する」と述べ、米長期国債は魅力があるものの、ボラティリティーが落ち着くまでリスク量を増やすことにはためらいを覚えていると打ち明けた。
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのグローバルOCIO(アウトソースド最高投資責任者)、ティモシー・ブロード氏も、QTに起因するボラティリティー 上昇を見越して株式配分比率を引き下げている。
一方でブロード氏は「(QTで)どの市場が最も影響を受けるのか言い当てるのは非常に困難だ」とも認めた。
確かに一部の投資家は、QTが果たして本当に各市場に際立った影響を及ぼすのかどうか疑いの目でみている。
UBSグローバル・ウエルス・マネジメントのストラテジストチームは8日、「QTのペースが速まることはFRBが5月に計画の概要を公表して以来知れ渡っている。しかしFRBのタカ派姿勢と合体した時点で、QTの長期的な市場への影響はまだ顕在化していないのにペース加速を重視する市場心理になっている」と記した。
DWSグループの米州最高投資責任者、デービッド・ビアンコ氏によると、欧州のエネルギー危機や、FRBによる利上げのペースの急速さと幅の大きさ、米経済がリセッションに陥る可能性などを踏まえると、QTが今後市場の値動きを主導する要素になる公算は乏しい。ビアンコ氏は「われわれはQTに付随するリスクを過小評価はしていない。ただ、FRBがどこまで利上げして、いつまでその水準を維持するかを巡るリスクに比べれば、影響度ははるかに小さい」と言い切った。
(David Randall記者)
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