経済産業省 提供コンテンツ
- スペシャル
- 2019/02/08 掲載
GovTechで「役所」はどう変わる? 行政が取り組むデジタル変革の未来と現在
行政の「DX本気度」を知ってもらうには…
人口減社会の日本で、行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)は重要な役割を持つ。行政手続きや公共サービスなどのあり方を見直してユーザーに使いやすい形でデジタル化することで、官民双方のコストを下げられるためだ。コスト減と同時に、データ利活用を通じて社会的な価値も創出できる。行政のデジタル変革を、最新のテクノロジーを取り入れて進めて行くのがGovtechであるが、経産省では、そのキーワードとして「サービスデザイン思考」「アジャイル型開発」「データ利活用」の重要性を挙げている。
経産省がこれらを重視するのは、ユーザーが直感的にわかるUI・UXや、ニーズを取り込みながら段階的にサービスを開発するアジャイルな開発、データ活用を加速するデータの標準化やルールなど、環境整備が重要であるためだ。さらにこれを支える行政組織、行政サービスに携わる職員のマインドセットを変革し、市民や企業といったステークホルダーも巻き込んだエコシステムの醸成を推進していく必要がある。
行政のデジタル変革と、最新テクノロジーの活用に関する理解を広げるため、1月16日から18日の3日間にわたって開催されたのが、「DX Days 2019」だ。これは、行政のDXの取り組みを全国の自治体や民間企業、市民にも広く展開するためのイベントだ。そして、同イベントの初日に開催されたのが、「Govtech Conference Japan 2019」である。
行政が外部のデザイン組織とコラボレーションするには
「ユーザー中心のサービスデザインとは」と題して行われたパネルディスカッションでは、アスコエパートナーズ 代表取締役社長の安井秀行 氏、Designit Tokyo シニア・サービス・デザイナーの齊藤麻衣 氏、コンセント サービスデザイナー/アートディレクターの小山田那由他 氏の3人が登壇した。モデレーターを務めたのは、ANNAI Inc. Co-founder 兼 CCOの太田垣恭子 氏だ。
太田垣氏はまず、登壇者と会場との間で言葉の定義、意識あわせを行う意味で「ユーザーとは? サービスとは? デザインとは?」と問いかけた。
安井氏は「ユーザー」について2つの捉え方があると説明する。それは行政サービスの受益者としての「利用者」と、行政サービスの担い手である「国や自治体の職員」だ。
「サービスデザインを行う際には、たとえば、子育て制度を使う利用者と、提供する職員の双方を見ることが重要です。また「利用者」とひとくくりにせず、対象とする利用者の属性やニーズを細かく見ていく基本的な作業が不可欠です」(安井氏)
アスコエパートナーズは、市民に身近な行政サービスを提供するためのデータベース構築やWebサイト制作を手がける。特に、子育てや介護、防災といった行政サービス情報をメニュー体系として整備された「ユニバーサルメニュー」は、オープンデータなど、データ活用の基盤として活用されている。
デンマークに本社を構える戦略デザインファームのDesignit Tokyoでサービスデザイナーを務める齊藤氏は、サービス受益者、エンドユーザーという視点のほかに、「直接サービスを提供する人や、裏側でサービスの仕組みを構築する人、すべてをユーザーと考えている」と説明する。
同様の観点から、ユーザーは「生活者」と広く捉えて問題ないが、「サービスを提供する行政側もユーザーであると考えてサービスオペレーションを設計することが重要だ」と述べるのが、エディトリアルデザイン、グラフィックデザインのバックグラウンドを持ち、現在は人間中心設計(HCD: Human Centered Design)の専門家として活動する小山田氏だ。
小山田氏はまた、行政におけるサービスデザインについて「市民の役に立つものを作りたいというゴールに対して、知識や技能、モノや道具、制度や環境などのあらゆるリソースをどのように活用すべきか、生活者や行政職員も含めた全体的視点から問題を特定し解決していくプロセスすべてだ」と主張する。
次に、パネルディスカッションのテーマは「行政におけるサービスデザイナーの参画のあるべき姿は?」に移った。齊藤氏は、自身が経験したケースにおいてうまくいったケースは「サービス受益者としてのユーザーが何に困っているか、状況を正しく理解して、共感することができたケースだった」と振り返る。
では、外部のデザイン組織はプロジェクトにどのように関わればよいのだろうか。齊藤氏は「関係性には出島型、内部型、外部型の3つに大別できる」と述べた上で、デザイン組織のかかわりは、初期段階においては政府内にありながら、ある程度の裁量の自由度が与えられる「出島型」が望ましいと説明した。
安井氏は、完全に政府内の一員として働く内部型や、NPOのように外部型の組織としてかかわることには一長一短があるとして、“ハイブリッド型”ともいえる出島型を含め、適材適所で組み合わせることが重要ではないかと述べた。そして、GovTechには「今ある仕組みをデジタル化するのではなく、仕組み自体を最適化すること。たとえば、行政手続きのワンストップだけではなく、手続き自体を削減すること」が求められるとして、その点からも試行錯誤の段階にあると言及した。
最後に、小山田氏は、「サービスデザインに今後、特に力を入れていくべき行政の領域は?」という問いに対して、「行政サービスにはデジタル化しやすい領域とそうでない領域がある」とした上で、今後は土木や防災といった領域でもユーザー視点に立ったデザイン思考でのサービスデザインが求められるようになると指摘した。
そして、「さまざまな行政組織が個別にペルソナを設定し、“乱立”することのないように、横断的な、全体的な視点で、サービスデザインに取り組むためのベースを作ることが、どこかのタイミングで重要になってくるだろう」と締めくくった。
行政が提供するデータ、「独自仕様」では意味がない
最初のテーマは「民間企業の視点から見た行政システムの問題点は?」である。
木村氏は、「使いやすいAPIの整備」をポイントとして挙げた。クラウド会計ソフトを手がけるfreeeは、特に税務申告や労務、法人設立などのシーンで電子申請を行うサービスを提供している。政府側のシステムと接続する民間事業者として、「せっかくシステム化しても、紙で通知、納付書で支払いといったアナログの業務フローが残っているのが課題」と指摘した。
その上で「独自仕様はできるだけ廃し、標準的で使いやすいAPIの整備をお願いしたい」と木村氏は指摘した。従来のシステムはアカウント管理や認証、会計、労務など異なる機能を密結合で改変しにくい形でシステム化するのが一般的だったが、最近は機能ごとにシステムを疎結合にし組み換えしやすくすることで、投資の最適化と開発のスピードアップ、メンテナンスの負荷軽減を実現している。今後サービスを構築するに当たっては「共通機能の最適化を横断的に見る視点があるとよい」と提言する。
また、Webシステム開発を中心に、データベースやアプリ、DevOps、スクラムなど開発体制、手法まで幅広く手がける柏岡氏もインターフェースの問題を挙げる。この点の改善については、「担当者の熱意」が必要だとし、「トップダウンで指示されたことを守るという体制や、調達プロセスのあり方にも問題があるのではないか」と指摘した。
そして、黒須氏は、「ユーザー部門とベンダーとの間でのコミュニケーション欠如」を問題点として挙げる。黒須氏は、エンタープライズへのAWS導入という経験を買われ、約1年前にみずほ銀行へ転職。みずほ銀行では、クラウド基盤の企画と利活用推進を担当し、ユーザー部門とIT部門の垣根を越え、全社横断的なクラウド活用組織を推進するバーチャルな組織「Cloud Center of Excellence(CCoE)」を立ち上げた。その重要性を痛感しているという。
こうした経験から、「ユーザー視点に立っていないことで、システムの問題点を認識、学ぼうとせず、上からの指示に対して予算内に収まっていればよしとする体制、教育の仕組みなどにも問題があるのではないか」と指摘した。
次に「行政に新しい開発手法や技術を取り入れる上で考えるべきこと」について柏岡氏は、アジャイルな開発体制をポイントに挙げた。
同氏は「顧客、国民のニーズをいかに吸い上げるか」が大事だと述べ、そのためにはプロトタイプをスピーディに開発し、「なるべく多くの人のチェックを経て改善のプロセスを繰り返すのが望ましい」と結んだ。
黒須氏も、「先にシステム要件が決まらないと予算がつかないという調達プロセスとアジャイル開発は親和性が低い」と指摘した。また、大規模組織ならではの意思決定プロセスも改善が必要だと述べ、「声の大きい人、影響力のある人を説得しないと前に進まないケースがある」と話した。
こうした状況を改善するためには「普段、仕事でテクノロジーを意識しないような人の視点を取り入れる」ことや「外部のベンダーと対等に戦えるテック集団を内部で育て、彼ら彼女らの価値を認め居場所をキチンと用意していくこと」など、組織の柔軟性を高める工夫が必要だということだ。
そして、今後の行政システム開発で最低限やってほしいこと」について問われた木村氏は、「システム連携のための標準仕様の公開」を挙げた。また、APIを公開しても、業務フローの中に紙や印鑑による承認が残ると、全体の効率性、利便性が高まらないとして、最新技術を使うことを目的化せず、業務フロー全体のペーパーレス化も考えてもらいたいと要望した。
特に、UI・UXの改善は、「迷わずに手続ができたということが大事だ」ということから、適材適所で民間企業の力を活用することも解決の糸口となると締めくくった。
優秀な「外部人材」が活躍するための環境とは
登壇者は、ビズリーチ 地域活性推進事業部プロデューサーの走坂峻 氏、一般社団法人WorkDesignLab 代表理事の石川貴志 氏、そして、兵庫県神戸市 新産業グループ 新産業創造担当課長の多名部重則 氏の3名。モデレーターは、Publink 代表取締役社長の栫井誠一郎 氏が務めた。
まず「民間人材を採用するために、行政はどう変わるべきか?」というテーマが示され、走坂氏は「チーム内でどういう人材がほしいか、思いをまとめる」ことが重要だと話した。
走坂氏はビズリーチで自治体の人材採用支援を行っている人物だ。2018年には経産省の情報プロジェクト室でDXを推進するプロジェクトマネージャーを外部から採用した。なぜ経産省で人材を必要としているのか、求められる人材像は、といったポイントについてビズリーチのWebサイトに掲載して募集をかけたところ、600名超の募集があり、最終的に2名の採用実績を残した。
走坂氏は「専門人材は、取り合いの時代」だと指摘し、「誰が選考を行い、誰が応募者にお礼のメールを送るのかといった、細かい業務フローや役割をアドバイスするためには、採用のプロである民間事業者を活用することもポイントとなる」と述べた。
石川氏は、普段は会社員をしながら「複業×GovTech」という視点で、パブリックセクターでの勤務のキャリアにおける価値を高めるため、地方企業と自治体をつなぐコミュニティづくりを手がけている。
同氏は「協業は、最終的には人の問題だ」と述べ、いわゆる“面白い人”は役所の中ではルール違反者として排除される傾向があることから、そういう人材を排除しない柔軟さが求められると指摘した。
そして、行政のオープンイノベーションに取り組む多名部氏は、民間のスタートアップとの協業を進める上で両者の中間に立って意思疎通の窓口となる役割が必要だということで、現在の新産業グループという組織、ポジションが創設されたと述べた。
DXを推進するプロジェクトマネージャーは、「役所の人間とは服装も違えば通信手段も、思考回路も違う」両者がアプリ開発で協業するために必要な組織である点を強調した。
神戸市は現市長になって以降、組織の活性化、多様性を確保するため、外部リソースの活用を積極的に進めている。6つの行政の課題をオープンにして、解決するためのアイデアをスタートアップから募り、「子育てイベント参加アプリ」や「行政窓口をスムーズに案内できるツール」などの開発、実証実験を行っている。
こうした経験から「民間企業との連携にあたって、行政が取るべきスタンス」を問われた多名部氏は、「従来の調達プロセスとは異なる、フラットな関係を目指した」と説明した。
前述のイノベーションの事例では、スタートアップ側に提案のために一律50万円を支払うことで、行政側には「仕様書、発注、予算取り」という時間と予算のかかる調達プロセスを経ずにスピーディに進める効果が得られ、スタートアップ側には、受委託関係とは異なる「失敗を受容できる」関係を築くことができたという。このような「オープンさ、フラットさ」が施策に取り組む役所側には大事なポイントだということだ。
そして、「行政のDXを全国で進めていく上で、どのようなコミュニティ・エコシステムの形成が重要か」を問われた石川氏は、「複業ワーカー」の存在をヒントに挙げる。
複業というと、企業にとっては「グレーゾーン」にあたるが、行政での勤務経験のある会社員を、デジタル化のための人材取り込みに活用することは、人材確保の課題解決だけでなく「複業をホワイト化する」点でも効果があると指摘する。
その上で、組織としては、良心を持ったルール違反者をつぶさない柔軟さ、オープンさを大事にすることがエコシステム形成の上では不可欠となると締めくくった。
先進的な自治体が切り拓いた可能性
パネリストは、兵庫県加古川市 情報政策課 副課長の多田功 氏、茨城県つくば市 政策イノベーション部 部長の神部匡毅 氏、そして、アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長の中村彰二朗 氏の3名だ。モデレーターを務めたのは、NEW STORIES 代表の太田直樹 氏。同氏からは「新しい技術を導入する際の注意点やこれまでの反省点は?」というテーマが示された。
多田氏は、「議会に対する理解を得るための説明」をポイントに挙げた。加古川市では、子どもや高齢者の見守りのために、学校周辺にカメラを1500台設置し、公共施設や公用車、郵便車両にもタグ検知器を設置した。そして、専用タグを持つ子どもや高齢者のリアルタイムの位置情報が検知され、モバイルアプリで確認できる仕組みを構築した。
こうした施策に対する理解を得るためには「特に議会に対しては、情報通信分野の事業実施においては、新しい技術やキーワードが与える市民影響や効果を簡潔に説明することが難しいため、決して皆さんの生活が悪くなるものではないということを丁寧に説明、理解を得ることに注力した」という。
中村氏は、福島の会津若松に現センターを構えて約7年が経過する。データとテクノロジーを活用することで市民生活の利便性を高めるスマートシティを推進するため、市民主導の「デジタル・シチズン・プラットフォーム」を提唱している。
産官学連携で、データを行政の基幹システム(LGWAN)の外に置き、子育てや教育などさまざまな施策を「クラウドバイデフォルト」で取り組める環境を整備し、実証実験に取り組んでいる。 加古川市のみまもりサービスも同様のやり方をしている。
中村氏は「(アクセンチュアが)外資系企業であることの抵抗感はあった」と述べ、行政からの信頼を得るために「費用対効果や市民の利用率など、数字で実証すること」にこだわったという。
たとえば、デジタル施策推進にあたっては、コミュニケーション率(市民の参加率)を重視。従来、紙の市政だよりを知っている市民の割合は5%くらいだったものの、デジタル化により30%まで引き上げることをKPIに掲げ、「現状で20%くらいまで高まってきた」と、その成果を語った。また、費用は成果見合いであることも明かしている。
そして、神部氏も「施策の目的、理念に対する考え方を市長から職員に示してもらうことで、モチベーションアップにつなげた」点を挙げる。
一方、つくば市ではRPA(Robotic Process Automation)による業務効率化に取り組んでいる。先行で導入した市民税課では、対象業務について約8割の削減効果があり、ほかの業務の効率化に向けて取り組みを広げているところだ。
RPA導入に際しては「人員削減施策ではないか」との認識が職員に広がることのないよう「市民課題の解決に時間と資源をより多く投入していくための、業務効率化である」ことを理解してもらったと神部氏。業務改善の効果が目に見えることで、さらに手応えが感じられるということだ。
データ活用について、加古川市の見守りカメラ設置の際にはプライバシーへの配慮にどんな工夫を行ったかを問われた多田氏は、たとえば家の出入りは映らないような場所、角度にすることや、データの漏えい対策を厳重に行うことを約束し、施策への理解を得たという。
「利用者不在の状況が変わるために必要なこと」を問われた中村氏は、「行政の前に市民の視点で考えることが課題解決には必要だ」と述べた。
DNAデータを採取することについても、自分にとっては健康生活のためのアドバイスが得られ、かつ、保険メニューや創薬など社会がよくなり、産業振興にもつながる。こうした安全性と利便性が両立されることで市民、行政、産業の「三方良し」が実現できれば、市民がデータを出すことに抵抗がなくなるだろうと提言した。
そして、神部氏は、「失敗を受容する」組織文化の醸成をポイントに挙げた。さまざまなテクノロジーを市民に還元していくには、「優れたテクノロジーでも使い勝手が悪いと受け入れられず、フィードバックをもらいながら試行錯誤を繰り返すことが重要」であるためだ。
太田氏は、「試行錯誤を高速に繰り返していくには、開発手法、体制だけでなく、組織文化の変革も重要なポイントだ」と述べ、ディスカッションを締めくくった。
イベント当日は、行政の利便性を高めるようなサービスを提供する企業のブースも設置され、カンファレンスに参加した方が多く訪問。パネルセッション終了後は参加者によるネットワーキングが行われ、企業、自治体、市民など、さまざまなバックグランドの方がお互いの思いを語り合う熱気ある集まりとなった。
本イベントで生まれた参加者のネットワークや行政のデジタル化に関する考え方が今後更に拡大し、市民権を得ることができるか。2019年がGovtech元年になるのか、今後の活動の広まりが期待される。
関連コンテンツ
PR
PR
PR